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【新婚旅行編】旅行前日:事実なのだから否定は出来ない

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 俺にも見えるようにと差し出された緑色の投影石。結晶が放っている淡い光の中に浮かんでいるバアルさんは、百点満点でも足りないパーフェクトスマイル。かたや俺は、彼に手を取られ、誓いの指輪に口づけを送ってもらっている俺はというとガッチガチ。

 今にも泣き出しそうな情けのない目、こんなに人間って赤くなれるのかってくらいにトマトな顔。怯える小動物にも負けないくらいに縮こまった身体と、一言で言って悲惨な有り様だ。

 いくらヨミ様達の前でも幾度となく、バアルさんにノックアウトされているからって、これはちょっと。せめて、見られる笑顔のヤツを送りたいんですが!?

「と、撮り直しをっ! 次は、バアルさんの魅力にやられちゃわないように頑張るので! 笑顔で決めてみせますので!」

 焦っていた俺は気づかない。言わなくても良かった宣言をしてしまっていることに。

 だから、疑問に思っていた。前のめりに訴えた俺を目にした彼が固まってしまったことに。静かに揺れていた触角も、はためいていた羽もピタリと止まって、食い入るように俺を見つめていたことに。

「……バアルさん?」

 よっぽど気に入っていたのかな? さっきの写真。だったら、良いですよって言うべきだったなぁ……恥ずかしいけれど。

 俺が的はずれな考えを浮かべ、勝手に後悔していた時。白くたおやかな手が、俺の手から飲みかけのカップを優しく取り上げた。

 二つのカップとティーポットが、すぐ前にある広いテーブルへ向かってすっ飛んでいく。耳障りな音を立てることなく静かに着地するのを目で追っていたところ、手に柔らかな温もりが。ひと回り大きな彼の手が、俺の手を包み込むように握ってくれていた。

「申し訳ございません……貴方様の愛らしいご様子から、この装いを気に入って頂けているとは存じておりましたが……まさか、それ程までとは……」

「へ? ……あっ」

 うっそりと細められた瞳に見つめられ、少し掠れたような低いトーンで囁かれてようやくだった。

 先程の発言が。バアルさんの魅力にやられちゃわないように、の部分が脳内に蘇ってきたのは。

「ちがっ! ……わないんですけど……そ、そんなことより、撮り直しっ! させて、くれませんか?」

 事実なのだから否定は出来ない。かといって、バアルさんのようにスマートに誤魔化す話術もありゃしない。無い無い尽くしの俺が出来たことといえば、力任せに話題を切り替えることだけだった。

「ふふ、ええ……構いませんよ、大歓迎です……愛しい妻との思い出が増えるのですから。貴方様がご納得出来る一枚が撮れるまで、いくらでもお付き合い致しますよ」

「ありがとう、ございます……」

 やっぱり彼の方が一枚も二枚も上手だった。

 目尻のシワを深め、頭を撫でてくれた優しさに、またしても俺はやられてしまった。震える手で彼の手を握りながら吸い寄せられるように、頼もしく盛り上がった胸板に額を押し付けてしまっていたのだ。
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