598 / 824
【新婚旅行編】旅行前日:本日のメイン
しおりを挟む
「はっはっは、気にするな。私が貴殿らに贈りたかっただけであるからな」
座ってくれ、と促されてバアルさんと一緒に腰を落ち着けた。見届けてからヨミ様は、まだ湯気の立ち上るティーカップを静かに手に取った。
「お心遣い感謝致します……アオイ様が大変気に入って頂けたことは勿論でございますが、誠に着心地が良く……」
「うむっ、貴殿の為にあつらえた服であるからな。通気性も抜群であるぞ! 速乾性にも優れてはおるが……貴殿の場合、乾かすのも着替えるのも術でどうとでもなるからなぁ……」
そっか、バアルさんの手にかかれば汚れも何もかも、撫でるだけであっという間にキレイサッパリだもんな。海から上がった後の心配もしなくていいんだ。それなら。
「……じゃあ、あんまりドレスコードとか気にしなくてもよさそうですね。いざとなったら、バアルさんに着替えさせてもらえばいいですし」
「うむ。確かにバアルが居れば何の問題もないが、そもそもドレスコードがある店の方が少ないぞ」
「え……でも、高級ホテルがある近くって、そういうのに厳しかったりするんじゃないんですか?」
リゾートだの五つ星だの、そういった住む世界が違う場所にはとんと御縁が無かったもんだから、あくまで勝手なイメージなのだけれども。
「どのホテルにも、ビーチへと直行出来る魔法陣がある故、大抵の施設は水着のままでも利用出来るようになっておるのだよ」
「へぇ……随分と自由というか、開放的なんですね」
「まぁ、そもそも、一部以外は普通の観光地であるからな」
「勿論、そういった分野の術が苦手な方もございますので、お着替えやシャワーを浴びられる場所を用意されていたり、衣服を清める術を使えるスタッフが常に施設の入口に控えておられるとのことです」
「それなら安心ですね」
ヨミ様からのお話に加えて、バアルさんからの補足。それらのお陰で、初めての南エリアへの心構えが気楽になった時、ヨミ様が真っ赤な瞳を楽しそうに細めた。
「さてさて、アオイ殿用のリゾートコーデは一旦置いておいて……本日のメインを、二人同時に試着してみてはくれないだろうか?」
そう言えば、俺の分はまだお披露目されてなかったんだった。バアルさんの御姿に夢中になり過ぎて忘れちゃっていたけれど。
「はい、ありがとうございます。着させていただきますね」
「宜しくお願い致します」
「うむっ! では、レタリー頼んだぞ」
「畏まりました」
微笑むバアルさんが差し出してくれた手を取って、俺達は先程ファッションショーが行われていたスペースへ。
ヨミ様の近くで、しゃんと背筋を伸ばして控えていたレタリーさんが続く。摘んでいたパウンドケーキを一口で頬張ってから俺達の元へ、そしてバアルさんに見えない何かを手渡した。
ペーペな俺よりも、お二人は優れた術士同士。おそらくは今の動作だけで、ヨミ様が用意したメインを渡せたんだろう。俺にとっては、パントマイムなやり取りにしか見えなかったが。
レタリーさんが会釈をしてから照明担当へと戻っていく。ていうか、まだやるつもりだったんだな、この流れ。服を用意してくれたヨミ様が楽しそうだからいいけれども。
「では、アオイ様……失礼致します」
「はい、よろしくお願いします」
大きな手のひらが俺の頬に触れる。優しい手つきでひと撫でされただけで、全身を柔らかい風が吹き抜けていくような、素肌を撫でていくような心地がした。
瞬きの間に変わった装い。最初に目に飛び込んできたのは落ち着いたオレンジ色の波模様。そして色鮮やかな緑色の帯だった。
座ってくれ、と促されてバアルさんと一緒に腰を落ち着けた。見届けてからヨミ様は、まだ湯気の立ち上るティーカップを静かに手に取った。
「お心遣い感謝致します……アオイ様が大変気に入って頂けたことは勿論でございますが、誠に着心地が良く……」
「うむっ、貴殿の為にあつらえた服であるからな。通気性も抜群であるぞ! 速乾性にも優れてはおるが……貴殿の場合、乾かすのも着替えるのも術でどうとでもなるからなぁ……」
そっか、バアルさんの手にかかれば汚れも何もかも、撫でるだけであっという間にキレイサッパリだもんな。海から上がった後の心配もしなくていいんだ。それなら。
「……じゃあ、あんまりドレスコードとか気にしなくてもよさそうですね。いざとなったら、バアルさんに着替えさせてもらえばいいですし」
「うむ。確かにバアルが居れば何の問題もないが、そもそもドレスコードがある店の方が少ないぞ」
「え……でも、高級ホテルがある近くって、そういうのに厳しかったりするんじゃないんですか?」
リゾートだの五つ星だの、そういった住む世界が違う場所にはとんと御縁が無かったもんだから、あくまで勝手なイメージなのだけれども。
「どのホテルにも、ビーチへと直行出来る魔法陣がある故、大抵の施設は水着のままでも利用出来るようになっておるのだよ」
「へぇ……随分と自由というか、開放的なんですね」
「まぁ、そもそも、一部以外は普通の観光地であるからな」
「勿論、そういった分野の術が苦手な方もございますので、お着替えやシャワーを浴びられる場所を用意されていたり、衣服を清める術を使えるスタッフが常に施設の入口に控えておられるとのことです」
「それなら安心ですね」
ヨミ様からのお話に加えて、バアルさんからの補足。それらのお陰で、初めての南エリアへの心構えが気楽になった時、ヨミ様が真っ赤な瞳を楽しそうに細めた。
「さてさて、アオイ殿用のリゾートコーデは一旦置いておいて……本日のメインを、二人同時に試着してみてはくれないだろうか?」
そう言えば、俺の分はまだお披露目されてなかったんだった。バアルさんの御姿に夢中になり過ぎて忘れちゃっていたけれど。
「はい、ありがとうございます。着させていただきますね」
「宜しくお願い致します」
「うむっ! では、レタリー頼んだぞ」
「畏まりました」
微笑むバアルさんが差し出してくれた手を取って、俺達は先程ファッションショーが行われていたスペースへ。
ヨミ様の近くで、しゃんと背筋を伸ばして控えていたレタリーさんが続く。摘んでいたパウンドケーキを一口で頬張ってから俺達の元へ、そしてバアルさんに見えない何かを手渡した。
ペーペな俺よりも、お二人は優れた術士同士。おそらくは今の動作だけで、ヨミ様が用意したメインを渡せたんだろう。俺にとっては、パントマイムなやり取りにしか見えなかったが。
レタリーさんが会釈をしてから照明担当へと戻っていく。ていうか、まだやるつもりだったんだな、この流れ。服を用意してくれたヨミ様が楽しそうだからいいけれども。
「では、アオイ様……失礼致します」
「はい、よろしくお願いします」
大きな手のひらが俺の頬に触れる。優しい手つきでひと撫でされただけで、全身を柔らかい風が吹き抜けていくような、素肌を撫でていくような心地がした。
瞬きの間に変わった装い。最初に目に飛び込んできたのは落ち着いたオレンジ色の波模様。そして色鮮やかな緑色の帯だった。
33
お気に入りに追加
471
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる