上 下
585 / 906

【番外編】ひたすらに甘やかして3

しおりを挟む
 分かって頂く……だなんて。頭がくらくらしてしまうようなことを言われてしまったのだ。期待しない方がムリな話だろう?

 蓋を開けてみれば、ただ可愛いオンパレードだったんだけどさ。

「アオイ……愛しい私の妻……可愛いですね、カッコいいですよ……お慕い申し上げております……」

 繰り返し聞こえているのは、少し前の酔っ払った彼を思い出すような心躍る甘い言葉。

 それから、わざとらしいリップ音。額に、目尻に、鼻の頭。両の頬に、口の端。更には手の甲、指先と次から次へと触れてくれている。柔らかな温もりと一緒に時々ふわふわなお髭が当たって擽ったい。

 ……このままじゃあ、キスしてもらっていない場所がなくなってしまいそうだな。いや、流石にそれはないか……ない、よな?

 止まることのない彼からの嬉しい贈り物に、浮かれてしまっているからだ。突拍子もない考えまでもが。気を取り直して彼へと視線を戻せば、反対の手のひらに、それから指先にと触れてくれていた。

 ……本気で俺の全部にキスを送ってくれるつもりなのでわ? 分かって頂くってそういうこと? 確かに、可愛がってもらえるのと別のベクトルでスゴいけれども。これはこれで嬉しいけれども。

「……アオイも、そろそろ触ってくれていいですよ?」

「へ?」

「我慢していたと仰ってくれましたよね? 私は私で、引き続き貴方様への止まぬ愛を示し続けますので、ですから……」

 言葉を切って、バアルさんは擦り寄ってきてくれた。さっきまでキスを送ってくれていた俺の手のひらに、ほんのりと桜色に染まった頬を寄せて。

 自然と上目遣いになっている眼差しが、俺の心を掴んで離さない。彼から漂ってくる色気にあてられたんだろう。吸い寄せられるように俺は口づけていた。

 薄く開いていた花弁のような唇が閉じて、あふれんばかりの喜びを滲ませる。何度目かのキスの合間に、彼が高い鼻先を擦り寄せ微笑んだ。

「ん……ふふ、これでは、私から貴方様に口づけることは叶いませんね……」

 言葉では残念そうにしてはいるものの行動は。受け入れてくれているどころか、止めた途端に催促してくれる。僅かに潤んだ眼差しで見つめてきたり、甘えるように額をすりすりとくっつけてきたり。

 ……ホントに、この人は……どこまで俺をときめかせたら気が済むっていうんだ。

 おそらくバアルさんに、そんなつもりはないだろう。けれども何だか悔しくて。そっちがそのつもりなら、だなんて思ってしまう。遥かに年上な彼にも、もっと俺にときめいて欲しいと願ってしまう。

 そんな無謀な企てを抱いていたもんだから、宣戦布告をしてしまっていた。

「は、ぁ……ん……譲ってくれたんですから、しばらく……俺の……好きに、させてもらいますよ……っ……は、代わりに……俺の頭でも、撫でていて下さい……」

 もうすでに息も絶え絶えなくせに。ちゃっかりお強請りまでつけ加えてさ。

 俺だって、とんでもないことを言っちゃったなって思っているのだ。バアルさんも、やっぱりびっくりしていた。

 でも、すぐに嬉しそうに微笑んでくれたのだ。キレイな長い指で、早速俺の髪を梳くように撫でてくれたのだ。

「畏まりました……愛しい妻の仰せのままに……」

「っ……」

 だというのに俺は、早くも出鼻を挫かれていた。甘さを含んだ穏やかな低音からの先制パンチに息を呑み、胸を高鳴らせてしまっていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...