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【番外編】ひたすらに甘やかして1
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まだ芯から火照っている身体を、ひんやりふかふかなベッドに預けて。広いベッドの上をなんとなくゴロゴロしている間に後からやってきた、同じボディソープの香りが漂う彼から両腕を広げて招かれて、腕枕をしてもらって。
俺も頼もしい背中に腕を回して、逞しい胸板に頬を寄せて。落ち着く心音に耳を傾けながら優しい眠りに落ちるまで、新しい朝を迎えるまで、のんびり過ごす一日の終わり。
ただひたすらに穏やかな時間に、時々物足りなさを感じたことはあれど俺は満たされていた。彼との平穏を、幸せを噛み締めていたのだ。
「……緊張していらっしゃるのでしょうか?」
そりゃあ、していますとも。だって、久々なんですから。
お膝の上に俺を乗せ、尋ねてきたバアルさんの姿はいつもと一緒。襟元を緩めた白いシャツに黒のズボン。少し色づいた引き締まった首から、キレイに浮き出た鎖骨周りから、香ってくるシャボンの匂いも変わらない。
青い水晶で出来ているシャンデリアがぼんやり照らす室内で、広くて大きなベッドの真ん中で、身を寄せ合って寛いでいるこの状況も。何一つ、ここ最近の夜と変わりはないんだけどさ。
「……す、すみません……怖気づいている訳じゃあないんですけど……」
手を繋いでくれながら、宥めるように俺の頭を撫でてくれていたバアルさん。白い睫毛に縁取られている緑の瞳が、きょとりと丸くなったのもつかの間だった。額から生えている二本の触覚がふわふわ揺れ出す。渋いお髭を蓄えている口元から小さな笑みが、くすくすこぼれた。
「大丈夫ですよ、存じ上げております。いっぱいいっぱいなのでしょう?」
すでに浮かれている心音が大きく跳ねた。おずおずと開いていた俺の口は、ただぱくぱくと開いては閉じてを繰り返すばかり。ぐうの音も出やしない。
仕方がないっちゃあ仕方がないのだけれど。恥ずかしながらも白状しようとしていたことを、的確に言い当てられたのだから。
俺の反応を見て確信を得たのだろう。どこか悪戯っぽい笑みがより深くなる。
けれども彼の追撃が止むことはない。背にある、水晶のように透き通った羽を上機嫌にはためかせながら、逃さぬように俺の腰を抱き寄せながら、歌うように言葉を続けた。
「先程から、ずっと愛らしい反応を見せて下さっておりますものね……」
「……」
「あの晩、初めて御身を抱かせて頂いた時と同じで…………誠に貴方様はお可愛らしい……」
「っ……」
「何度御身を愛させて頂いても、変わらずに可憐で初々しく……その度に、私は貴方様に夢中になってしまう……この老骨めを一人の男として愛してくれているのだと、年甲斐もなく浮かれてしま」
「うわーっ! もう分かった! 分かったからっ、勘弁してよっ!」
限界だった。もう、湯気でも出ていそうなくらいに顔が熱くなったもんだから、饒舌な彼の口を咄嗟に両手で覆ってしまっていた。
幸せそうに微笑んで、うっとりとした声で胸の内を紡がれて。そのこと自体は嬉しくて仕方がないんだけれどさ。
種族差的にも、筋力差的にも、俺の手くらいバアルさんならば片手で軽々と退けることが出来るだろう。けれども彼は大人しく受け入れてくれている。じっと見つめてくる眼差しだけは「まだ私は語り足りないのですが?」と訴えてはいるけれど。
俺も頼もしい背中に腕を回して、逞しい胸板に頬を寄せて。落ち着く心音に耳を傾けながら優しい眠りに落ちるまで、新しい朝を迎えるまで、のんびり過ごす一日の終わり。
ただひたすらに穏やかな時間に、時々物足りなさを感じたことはあれど俺は満たされていた。彼との平穏を、幸せを噛み締めていたのだ。
「……緊張していらっしゃるのでしょうか?」
そりゃあ、していますとも。だって、久々なんですから。
お膝の上に俺を乗せ、尋ねてきたバアルさんの姿はいつもと一緒。襟元を緩めた白いシャツに黒のズボン。少し色づいた引き締まった首から、キレイに浮き出た鎖骨周りから、香ってくるシャボンの匂いも変わらない。
青い水晶で出来ているシャンデリアがぼんやり照らす室内で、広くて大きなベッドの真ん中で、身を寄せ合って寛いでいるこの状況も。何一つ、ここ最近の夜と変わりはないんだけどさ。
「……す、すみません……怖気づいている訳じゃあないんですけど……」
手を繋いでくれながら、宥めるように俺の頭を撫でてくれていたバアルさん。白い睫毛に縁取られている緑の瞳が、きょとりと丸くなったのもつかの間だった。額から生えている二本の触覚がふわふわ揺れ出す。渋いお髭を蓄えている口元から小さな笑みが、くすくすこぼれた。
「大丈夫ですよ、存じ上げております。いっぱいいっぱいなのでしょう?」
すでに浮かれている心音が大きく跳ねた。おずおずと開いていた俺の口は、ただぱくぱくと開いては閉じてを繰り返すばかり。ぐうの音も出やしない。
仕方がないっちゃあ仕方がないのだけれど。恥ずかしながらも白状しようとしていたことを、的確に言い当てられたのだから。
俺の反応を見て確信を得たのだろう。どこか悪戯っぽい笑みがより深くなる。
けれども彼の追撃が止むことはない。背にある、水晶のように透き通った羽を上機嫌にはためかせながら、逃さぬように俺の腰を抱き寄せながら、歌うように言葉を続けた。
「先程から、ずっと愛らしい反応を見せて下さっておりますものね……」
「……」
「あの晩、初めて御身を抱かせて頂いた時と同じで…………誠に貴方様はお可愛らしい……」
「っ……」
「何度御身を愛させて頂いても、変わらずに可憐で初々しく……その度に、私は貴方様に夢中になってしまう……この老骨めを一人の男として愛してくれているのだと、年甲斐もなく浮かれてしま」
「うわーっ! もう分かった! 分かったからっ、勘弁してよっ!」
限界だった。もう、湯気でも出ていそうなくらいに顔が熱くなったもんだから、饒舌な彼の口を咄嗟に両手で覆ってしまっていた。
幸せそうに微笑んで、うっとりとした声で胸の内を紡がれて。そのこと自体は嬉しくて仕方がないんだけれどさ。
種族差的にも、筋力差的にも、俺の手くらいバアルさんならば片手で軽々と退けることが出来るだろう。けれども彼は大人しく受け入れてくれている。じっと見つめてくる眼差しだけは「まだ私は語り足りないのですが?」と訴えてはいるけれど。
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