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【番外編】ただ、貴方にありがとうと4
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「まだ、見届けきっていないのに、フライングしちまうとは……俺も年かねぇ」
一緒に歩くのが僕だけになった途端、クロウがしみじみと呟いた。さっきの控室でのことだろう。思い出したからなのか、細められた瞳にはまた少し涙が滲み始めていた。
結局、僕達は誰一人としてアオイ様から離れられなかった。コルテが時間を知らせてくれるまで、ギリギリまで抱きついてしまっていたんだ。
そうして「また、会場で」と微笑むアオイ様とアオイ様を抱き締めるバアル様に手を振って、僕達とヨミ様達はあの日と同じように歩き始めたんだ。
そして、ついさっきヨミ様達と別れたばかりで。
……僕は、何と言ったらいいのか分からなかった。さっきの僕とクロウは同じ気持ちだっただろうに。
どうにかして言葉に出来ないかとぴったりなのを探している間にも、クロウは話すのを止めなかった。
「リハーサルの時も、最初に挨拶した時も、大丈夫だったんだけどな……何でかな……アオイ様の晴れ姿を見た瞬間、実感したっていうか……」
クロウも上手く言い表せないんだろうか。前を向いているのに、どこか遠くを見ているような目をして、ぽつりぽつりと言葉を選んでいく。
そして、不意に言葉を止めた。歩くのも止めて、繋いでいる僕の手にぎゅっと力を込めて、震え出して。
「良かったなって……何事もなく……元気で、幸せそうで……この日を、迎えることが、出来て……」
絞り出した声も震えていた。
眉の間も、目の周りも、引き結んだ口元にも、全部シワが寄っちゃって。必死に堪えているクロウを見て、やっとこさ僕は見つけることが出来た。
「ありがとう……」
「え……?」
「……僕、お礼を言いたかったんだなって……アオイ様に、目覚めてくれてありがとうって……元気に……なってくれて、ありがとうって…………バアル様と……幸せそうな、姿を……見せて、くれて……っ」
頭の中にふわりと過る。
透き通ったオレンジ色の瞳を細めて、緩やかな笑みからは喜びがあふれていて。眩しいくらいにキラキラしているんだけど、絶対に目を離したくない。
出会った時とは、今にも泣いてしまいそうな寂しい笑顔とは、真逆の笑顔が。
「微笑んで、くれて……ありがとうって……」
いつの間にかぼろぼろこぼれていて、口の中まで入ってきた涙はしょっぱくなかった。
熱い目元に柔らかい布が軽く触れて、離れていって、まだボヤけている視界にクロウが映る。
絨毯に膝をついてしゃがんでいたクロウが、またあふれてきた涙をハンカチで拭ってくれながら微笑んだ。
「そうだな……俺も、ありがとうって伝えたかったんだと思う……友人として」
頭を撫でてもらえて、またじわりと滲みそうになったところで手を引かれた。
「だから、ちゃんと見届けよう……一緒に、な?」
僕と同じ高さにある金の瞳は、まだ薄っすら涙の膜に覆われていた。でも、いつも勇気をくれる頼もしい輝きを宿していて。
「っ……はい」
涙はまだ止まっていないけれど、僕はまた笑顔に戻れたんだ。
「……歩けるか?」
「……歩きたいです、一緒に」
「……分かった」
安心したように微笑んで、立ち上がったクロウの一回り大きな手を握り直す。
向かっている間、時々聞こえる鼻を啜る音がたまたまぴったり合っちゃって、見合わせたタイミングまでもバッチリで。僕も、クロウも、お互いの真っ赤な鼻を指差しながら笑っていた。
一緒に歩くのが僕だけになった途端、クロウがしみじみと呟いた。さっきの控室でのことだろう。思い出したからなのか、細められた瞳にはまた少し涙が滲み始めていた。
結局、僕達は誰一人としてアオイ様から離れられなかった。コルテが時間を知らせてくれるまで、ギリギリまで抱きついてしまっていたんだ。
そうして「また、会場で」と微笑むアオイ様とアオイ様を抱き締めるバアル様に手を振って、僕達とヨミ様達はあの日と同じように歩き始めたんだ。
そして、ついさっきヨミ様達と別れたばかりで。
……僕は、何と言ったらいいのか分からなかった。さっきの僕とクロウは同じ気持ちだっただろうに。
どうにかして言葉に出来ないかとぴったりなのを探している間にも、クロウは話すのを止めなかった。
「リハーサルの時も、最初に挨拶した時も、大丈夫だったんだけどな……何でかな……アオイ様の晴れ姿を見た瞬間、実感したっていうか……」
クロウも上手く言い表せないんだろうか。前を向いているのに、どこか遠くを見ているような目をして、ぽつりぽつりと言葉を選んでいく。
そして、不意に言葉を止めた。歩くのも止めて、繋いでいる僕の手にぎゅっと力を込めて、震え出して。
「良かったなって……何事もなく……元気で、幸せそうで……この日を、迎えることが、出来て……」
絞り出した声も震えていた。
眉の間も、目の周りも、引き結んだ口元にも、全部シワが寄っちゃって。必死に堪えているクロウを見て、やっとこさ僕は見つけることが出来た。
「ありがとう……」
「え……?」
「……僕、お礼を言いたかったんだなって……アオイ様に、目覚めてくれてありがとうって……元気に……なってくれて、ありがとうって…………バアル様と……幸せそうな、姿を……見せて、くれて……っ」
頭の中にふわりと過る。
透き通ったオレンジ色の瞳を細めて、緩やかな笑みからは喜びがあふれていて。眩しいくらいにキラキラしているんだけど、絶対に目を離したくない。
出会った時とは、今にも泣いてしまいそうな寂しい笑顔とは、真逆の笑顔が。
「微笑んで、くれて……ありがとうって……」
いつの間にかぼろぼろこぼれていて、口の中まで入ってきた涙はしょっぱくなかった。
熱い目元に柔らかい布が軽く触れて、離れていって、まだボヤけている視界にクロウが映る。
絨毯に膝をついてしゃがんでいたクロウが、またあふれてきた涙をハンカチで拭ってくれながら微笑んだ。
「そうだな……俺も、ありがとうって伝えたかったんだと思う……友人として」
頭を撫でてもらえて、またじわりと滲みそうになったところで手を引かれた。
「だから、ちゃんと見届けよう……一緒に、な?」
僕と同じ高さにある金の瞳は、まだ薄っすら涙の膜に覆われていた。でも、いつも勇気をくれる頼もしい輝きを宿していて。
「っ……はい」
涙はまだ止まっていないけれど、僕はまた笑顔に戻れたんだ。
「……歩けるか?」
「……歩きたいです、一緒に」
「……分かった」
安心したように微笑んで、立ち上がったクロウの一回り大きな手を握り直す。
向かっている間、時々聞こえる鼻を啜る音がたまたまぴったり合っちゃって、見合わせたタイミングまでもバッチリで。僕も、クロウも、お互いの真っ赤な鼻を指差しながら笑っていた。
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