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【番外編】元気の源2
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慎重に摘み上げてみたものの、何かしらの術が発動する訳でもなし。何の変哲もない無地のカードだ。
はて? 投影石のように魔力を込めると発動するタイプであろうか? その割には、魔力の流れを感じぬが……
何の気なしに裏返してみて、ようやく分かった。
そこに書かれていた文字は、まだ拙さが残っていた。けれども懸命さが、込められた想いが伝わってくるような力強さがあった。
そして何より贈ってくれた言葉が、嬉しかった。
『ヨミ様へ いつもお疲れ様です』
私ごとではなかったが、勢いよく立ち上がった衝撃で、椅子がひっくり返りそうになってしまった。背もたれが絨毯に叩きつけられる前に、レタリーが術で止めてくれたから良かったものの。
とはいえ、今の私に気にしている余裕はなかった。お礼を言う余裕も。
頭の中がいっぱいになってしまったからだ。見覚えしかない筆跡で綴られた、元気が満ちあふれる言葉のことで。贈ってくれた主のことで。
「こ、ここここれは」
「はい、アオイ様に書いて頂きました」
したやったりと言わんばかりに、レタリーが悪戯っぽく微笑む。そこからは、驚きの連続。
「最近のアオイ様は、以前私達に下さったお手紙の他に、メッセージカードにも凝っておられるようで。なんでも、お城で働く皆様方に、もれなくお礼のカードを贈ることを目標にされているとか」
「なっ? 全員とな!?」
「ええ、すでに頂いたという方もおられまして……」
手早く操作し、見せてくれたレタリーの投影石には、其々喜びのメッセージと共に写真が添付されていた。
表示された写真には、私がもらった物と同じカードが。ただしメッセージは「ありがとう」で、名前つき。一枚目はリリィへ、二枚目はジョンソンへ……まさか。
「……アオイ殿、城の者達の顔と名前を覚えたのか? カードを渡す為に?」
「はい。まだ十分の一も覚えられていないと謙遜されておりましたが」
「謙遜であるな……」
「貴方様のことですから、メッセージカードの方も欲しがられるかと存じまして。アオイ様に何か元気が出るお言葉を、と依頼しておきました」
相変わらず出来た秘書殿である。確かにバアルの次に私や父上達に手紙を贈ってくれたことは、心が震えるほどに嬉しかった。
今思い出しても嬉しさのあまり泣いてしまいそうになるし、何なら泣いている。額縁に入れて飾ってある「ありがとう」の文字を見る度に。
だからといって、カードは大丈夫とはならない。むしろ欲しい。バアルだって、きっとすでにもらっていることだろう。
改めて、手元のカードに書かれた文字を見つめる。随分と上手くなったものである。手紙をもらってから、それほど日は経っていないというのに。
何となく、バアルの書く字と似通った部分もあるところがまた愛らしい。彼のような美しい字が書けるようになりたいと、お手本にして頑張っているのであろうな。
上機嫌に文字を教えるバアルと、彼に応える為に努力するアオイ殿。すぐさま浮かんだ大好きな二人の姿に、また気力が漲ってくる。気怠く重たかった肩が羽のように軽くなっていく。
「確かに、元気もやる気も満ちあふれたが……いつの間に?」
「二日ほど前、お茶のお時間に少しお邪魔させて……」
はたと言葉を止めたレタリーは、あからさまにバツの悪そうな顔をしていた。
書類の山に埋もれた机において、唯一の空きスペースに淹れたての紅茶を置いてから会釈をし、そそくさと自分の机へと戻っていこうとする。
「レタリー……また、私に隠れて抜け駆けを……」
「さぁさぁ、今の内に済ませてしまいましょう。おまじないが効いている内に……」
「ぐぬぬ……」
確かに。ここでぶつくさと言い合って、消耗して、折角のアオイ殿からの厚意を無駄にする訳には。
色々と喉から出かかっていたものを、香り立つ紅茶を傾け、飲み下す。ホッと口元を綻ばせていた秘書殿を一瞥してから、再び私はペンを手に取った。
はて? 投影石のように魔力を込めると発動するタイプであろうか? その割には、魔力の流れを感じぬが……
何の気なしに裏返してみて、ようやく分かった。
そこに書かれていた文字は、まだ拙さが残っていた。けれども懸命さが、込められた想いが伝わってくるような力強さがあった。
そして何より贈ってくれた言葉が、嬉しかった。
『ヨミ様へ いつもお疲れ様です』
私ごとではなかったが、勢いよく立ち上がった衝撃で、椅子がひっくり返りそうになってしまった。背もたれが絨毯に叩きつけられる前に、レタリーが術で止めてくれたから良かったものの。
とはいえ、今の私に気にしている余裕はなかった。お礼を言う余裕も。
頭の中がいっぱいになってしまったからだ。見覚えしかない筆跡で綴られた、元気が満ちあふれる言葉のことで。贈ってくれた主のことで。
「こ、ここここれは」
「はい、アオイ様に書いて頂きました」
したやったりと言わんばかりに、レタリーが悪戯っぽく微笑む。そこからは、驚きの連続。
「最近のアオイ様は、以前私達に下さったお手紙の他に、メッセージカードにも凝っておられるようで。なんでも、お城で働く皆様方に、もれなくお礼のカードを贈ることを目標にされているとか」
「なっ? 全員とな!?」
「ええ、すでに頂いたという方もおられまして……」
手早く操作し、見せてくれたレタリーの投影石には、其々喜びのメッセージと共に写真が添付されていた。
表示された写真には、私がもらった物と同じカードが。ただしメッセージは「ありがとう」で、名前つき。一枚目はリリィへ、二枚目はジョンソンへ……まさか。
「……アオイ殿、城の者達の顔と名前を覚えたのか? カードを渡す為に?」
「はい。まだ十分の一も覚えられていないと謙遜されておりましたが」
「謙遜であるな……」
「貴方様のことですから、メッセージカードの方も欲しがられるかと存じまして。アオイ様に何か元気が出るお言葉を、と依頼しておきました」
相変わらず出来た秘書殿である。確かにバアルの次に私や父上達に手紙を贈ってくれたことは、心が震えるほどに嬉しかった。
今思い出しても嬉しさのあまり泣いてしまいそうになるし、何なら泣いている。額縁に入れて飾ってある「ありがとう」の文字を見る度に。
だからといって、カードは大丈夫とはならない。むしろ欲しい。バアルだって、きっとすでにもらっていることだろう。
改めて、手元のカードに書かれた文字を見つめる。随分と上手くなったものである。手紙をもらってから、それほど日は経っていないというのに。
何となく、バアルの書く字と似通った部分もあるところがまた愛らしい。彼のような美しい字が書けるようになりたいと、お手本にして頑張っているのであろうな。
上機嫌に文字を教えるバアルと、彼に応える為に努力するアオイ殿。すぐさま浮かんだ大好きな二人の姿に、また気力が漲ってくる。気怠く重たかった肩が羽のように軽くなっていく。
「確かに、元気もやる気も満ちあふれたが……いつの間に?」
「二日ほど前、お茶のお時間に少しお邪魔させて……」
はたと言葉を止めたレタリーは、あからさまにバツの悪そうな顔をしていた。
書類の山に埋もれた机において、唯一の空きスペースに淹れたての紅茶を置いてから会釈をし、そそくさと自分の机へと戻っていこうとする。
「レタリー……また、私に隠れて抜け駆けを……」
「さぁさぁ、今の内に済ませてしまいましょう。おまじないが効いている内に……」
「ぐぬぬ……」
確かに。ここでぶつくさと言い合って、消耗して、折角のアオイ殿からの厚意を無駄にする訳には。
色々と喉から出かかっていたものを、香り立つ紅茶を傾け、飲み下す。ホッと口元を綻ばせていた秘書殿を一瞥してから、再び私はペンを手に取った。
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