上 下
565 / 906

【番外編】元気の源2

しおりを挟む
 慎重に摘み上げてみたものの、何かしらの術が発動する訳でもなし。何の変哲もない無地のカードだ。

 はて? 投影石のように魔力を込めると発動するタイプであろうか? その割には、魔力の流れを感じぬが……

 何の気なしに裏返してみて、ようやく分かった。

 そこに書かれていた文字は、まだ拙さが残っていた。けれども懸命さが、込められた想いが伝わってくるような力強さがあった。

 そして何より贈ってくれた言葉が、嬉しかった。


『ヨミ様へ いつもお疲れ様です』


 私ごとではなかったが、勢いよく立ち上がった衝撃で、椅子がひっくり返りそうになってしまった。背もたれが絨毯に叩きつけられる前に、レタリーが術で止めてくれたから良かったものの。

 とはいえ、今の私に気にしている余裕はなかった。お礼を言う余裕も。

 頭の中がいっぱいになってしまったからだ。見覚えしかない筆跡で綴られた、元気が満ちあふれる言葉のことで。贈ってくれた主のことで。

「こ、ここここれは」

「はい、アオイ様に書いて頂きました」

 したやったりと言わんばかりに、レタリーが悪戯っぽく微笑む。そこからは、驚きの連続。

「最近のアオイ様は、以前私達に下さったお手紙の他に、メッセージカードにも凝っておられるようで。なんでも、お城で働く皆様方に、もれなくお礼のカードを贈ることを目標にされているとか」

「なっ? 全員とな!?」

「ええ、すでに頂いたという方もおられまして……」

 手早く操作し、見せてくれたレタリーの投影石には、其々喜びのメッセージと共に写真が添付されていた。

 表示された写真には、私がもらった物と同じカードが。ただしメッセージは「ありがとう」で、名前つき。一枚目はリリィへ、二枚目はジョンソンへ……まさか。

「……アオイ殿、城の者達の顔と名前を覚えたのか? カードを渡す為に?」

「はい。まだ十分の一も覚えられていないと謙遜されておりましたが」

「謙遜であるな……」

「貴方様のことですから、メッセージカードの方も欲しがられるかと存じまして。アオイ様に何か元気が出るお言葉を、と依頼しておきました」

 相変わらず出来た秘書殿である。確かにバアルの次に私や父上達に手紙を贈ってくれたことは、心が震えるほどに嬉しかった。

 今思い出しても嬉しさのあまり泣いてしまいそうになるし、何なら泣いている。額縁に入れて飾ってある「ありがとう」の文字を見る度に。

 だからといって、カードは大丈夫とはならない。むしろ欲しい。バアルだって、きっとすでにもらっていることだろう。

 改めて、手元のカードに書かれた文字を見つめる。随分と上手くなったものである。手紙をもらってから、それほど日は経っていないというのに。

 何となく、バアルの書く字と似通った部分もあるところがまた愛らしい。彼のような美しい字が書けるようになりたいと、お手本にして頑張っているのであろうな。

 上機嫌に文字を教えるバアルと、彼に応える為に努力するアオイ殿。すぐさま浮かんだ大好きな二人の姿に、また気力が漲ってくる。気怠く重たかった肩が羽のように軽くなっていく。

「確かに、元気もやる気も満ちあふれたが……いつの間に?」

「二日ほど前、お茶のお時間に少しお邪魔させて……」

 はたと言葉を止めたレタリーは、あからさまにバツの悪そうな顔をしていた。

 書類の山に埋もれた机において、唯一の空きスペースに淹れたての紅茶を置いてから会釈をし、そそくさと自分の机へと戻っていこうとする。

「レタリー……また、私に隠れて抜け駆けを……」

「さぁさぁ、今の内に済ませてしまいましょう。おまじないが効いている内に……」

「ぐぬぬ……」

 確かに。ここでぶつくさと言い合って、消耗して、折角のアオイ殿からの厚意を無駄にする訳には。

 色々と喉から出かかっていたものを、香り立つ紅茶を傾け、飲み下す。ホッと口元を綻ばせていた秘書殿を一瞥してから、再び私はペンを手に取った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...