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【番外編】動き始めた時間1
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薄っすらと開いた視界に見慣れた天井が映る。差し込んできている日差しの明るさに、夜が明けたんだと気がついた。
頭が起きたからだろう。途端に身体の感覚を、全身を鉛のように重くしている気怠さを認識し始めた。とはいっても、随分とマシになってきてはいる方だ。起き抜けにしては。
……霊薬ってスゴいなぁ。
年端のいかぬ子供でも、もっと素晴らしい語彙力で表現出来るだろうに。まだ回っていない、いつも以上にふにゃふにゃな思考では、当たり前な感想しか浮かんでこない。
それから気づくのにも遅れてしまっていた。
俺の耳元で聞こえている規則正しく呼吸音に。バアルさんが、まだ眠ってくれているってことに。
音を立てないように顔だけ横を向けば、すぐさま目に飛び込んできた。
安心しきったように閉ざされた目尻の長い瞳。僅かに震えている白い睫毛の下にあるクマは、少しだけれど薄くなっている。
頬の白さもくすんだようなものではなく、美しい透明感を取り戻してきているような。
「っ……」
すんでのところで気づき、笑顔の形で開きかけていた口を両手で覆う。
……危ない。ガッツポーズだけならまだしもうっかり、よっしゃ! と大きな声を上げるところだった。
恐る恐る見つめてみても、バアルさんはまだ夢の中。白い髭を蓄えた口元に、穏やかな微笑みを浮かべたままだ。
久しぶりに見れた彼の寝顔。遥かに歳上な彼のあどけない、いつになくリラックスしている表情が可愛くて。つい頬に手を伸ばしてしまっていた。
起こしてしまわないように気をつけてゆったりと撫でてみたものの、心配は無用だったよう。全然起きる気配がない。
指先で頬骨のシワを撫でてみても、緩やかなアーチを描いている眉をなぞってみても。指通りのいい白髪を思う存分梳いてみても、すうすう、すやすや。
小さな寝息に合わせるように、額から生えている細く長い触覚を揺らしている。よっぽど疲れていたんだろう。
……皆さん方が、口を揃えて言ってたっけ。俺が眠ってしまっていた間、バアルさんは眠らずにずっと待ってくれていたって。
それに、ここ一週間の間もだ。俺が起きた時は必ずバアルさんも起きていた。深夜だろうが、早朝だろうが関係ない。決まって笑顔で俺を迎えてくれたのだ。今にも泣いてしまいそうな、喜びがあふれてしまいそうな笑顔で。
だからこそ、俺は彼との約束を果たすことが出来ていたのだ。
おそらくは、彼にとって久々のまともな睡眠。眠っていられるのなら、自然と目が覚めるまで起こさない方がいいのだろう。
頭では、分かっていた。でも、心は。
「……バアル」
朝の空気に溶けてしまいそうなか細い呼びかけ。それは、俺にとっての我儘で。これで駄目なら諦めようっていう一縷の望みで。
「……アオイ?」
なのに、叶えてくれてしまったのだ。パチリと開いた緑の瞳に、宝石よりも美しい煌めきに、俺を映してくれたのだ。
頭が起きたからだろう。途端に身体の感覚を、全身を鉛のように重くしている気怠さを認識し始めた。とはいっても、随分とマシになってきてはいる方だ。起き抜けにしては。
……霊薬ってスゴいなぁ。
年端のいかぬ子供でも、もっと素晴らしい語彙力で表現出来るだろうに。まだ回っていない、いつも以上にふにゃふにゃな思考では、当たり前な感想しか浮かんでこない。
それから気づくのにも遅れてしまっていた。
俺の耳元で聞こえている規則正しく呼吸音に。バアルさんが、まだ眠ってくれているってことに。
音を立てないように顔だけ横を向けば、すぐさま目に飛び込んできた。
安心しきったように閉ざされた目尻の長い瞳。僅かに震えている白い睫毛の下にあるクマは、少しだけれど薄くなっている。
頬の白さもくすんだようなものではなく、美しい透明感を取り戻してきているような。
「っ……」
すんでのところで気づき、笑顔の形で開きかけていた口を両手で覆う。
……危ない。ガッツポーズだけならまだしもうっかり、よっしゃ! と大きな声を上げるところだった。
恐る恐る見つめてみても、バアルさんはまだ夢の中。白い髭を蓄えた口元に、穏やかな微笑みを浮かべたままだ。
久しぶりに見れた彼の寝顔。遥かに歳上な彼のあどけない、いつになくリラックスしている表情が可愛くて。つい頬に手を伸ばしてしまっていた。
起こしてしまわないように気をつけてゆったりと撫でてみたものの、心配は無用だったよう。全然起きる気配がない。
指先で頬骨のシワを撫でてみても、緩やかなアーチを描いている眉をなぞってみても。指通りのいい白髪を思う存分梳いてみても、すうすう、すやすや。
小さな寝息に合わせるように、額から生えている細く長い触覚を揺らしている。よっぽど疲れていたんだろう。
……皆さん方が、口を揃えて言ってたっけ。俺が眠ってしまっていた間、バアルさんは眠らずにずっと待ってくれていたって。
それに、ここ一週間の間もだ。俺が起きた時は必ずバアルさんも起きていた。深夜だろうが、早朝だろうが関係ない。決まって笑顔で俺を迎えてくれたのだ。今にも泣いてしまいそうな、喜びがあふれてしまいそうな笑顔で。
だからこそ、俺は彼との約束を果たすことが出来ていたのだ。
おそらくは、彼にとって久々のまともな睡眠。眠っていられるのなら、自然と目が覚めるまで起こさない方がいいのだろう。
頭では、分かっていた。でも、心は。
「……バアル」
朝の空気に溶けてしまいそうなか細い呼びかけ。それは、俺にとっての我儘で。これで駄目なら諦めようっていう一縷の望みで。
「……アオイ?」
なのに、叶えてくれてしまったのだ。パチリと開いた緑の瞳に、宝石よりも美しい煌めきに、俺を映してくれたのだ。
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