551 / 1,047
【番外編】また、お休みを言い合えるまで7
しおりを挟む
日に日にアオイの調子は良くなってはいる。これもひとえにヨミ様と皆様が、霊薬の改良に尽力して下さったお陰だろう。
このまま霊薬を飲み続けていれば、十分な休息を取り続けていれば、いずれアオイは元の生活に……
私自身も頭では分かっている。
もう、怯えなくていいのだと。アオイが目覚めないのではと、アオイを失ってしまうのではと、不安と絶望に苛まれなくていいのだと。
しかし……
「まだ……不安か?」
真っ赤な瞳が心配そうに見つめている。通りの良い声が、ことさら優しく尋ねてくる。
「まだ……眠れぬか? アオイ殿が、ちゃんと生きているのだと確認出来ぬと辛いか? 確認せずには……おられぬか?」
「……はい」
ヨミ様は「そうか」とだけ返して口を閉じられた。
凛とした瞳の下を縁取っていたクマは、幾分か薄くなっている。アオイが目覚めてくれたからだろう。そして、回復の兆しが見えているからだろう。
まだ、より良い霊薬をと、日夜改良に励まれてはおられるものの、以前よりは睡眠を取られるようになったようだ。
私自身も分かってはいる。今のままではいけないと。皆様に、何よりも大切なアオイに、心配をかけてしまっているのだから。
私が……しっかりしなければ……アオイの夫として、アオイの為に……私が……
…………さ…………ん、ばあ…………ん……
「バアルさん」
「っ…………アオイ……?」
丸く透き通った瞳が、不安気に私を見つめていた。私を撫でてくれている途中だったのだろう。細い指先が、私の頬に触れる寸前で固まってしまっていた。
私としたことが……愛しいアオイを放って考えに耽ってしまうとは……また彼に心配を……
「大丈夫ですか? ぼうっとしていましたけど……」
止まっていた柔い指先が、私の肌に触れる。ゆっくり、優しく撫でてくれる。
じんわりと溶けていくような心地がした。胸が詰まるような鈍い重みが、向けられた柔らかい微笑みに、伝わってくる温もりによって。
「良かった……少し顔色が良くなりましたね……」
アオイは花弁のような唇をますます綻ばせ、瞳を細めて私を撫でてくれる。
「ふふ、ぎゅってします? おわっ」
最近の私は、どうも堪え性がないらしい。擽ったそうに笑う彼に尋ねられた途端、薄い胸元に抱きついてしまっていたのだから。
アオイに愛想を尽かされてしまわないでしょうか……
悪い考えばかりが、ふとした時に浮かんでしまう。彼に限って有り得ないと確信しているのに。
私の不安を拭ってくれているようだった。細い腕に抱き締め返してもらえたかと思えば、頭を背中を優しく撫でてもらえて。
「大好きだよ……バアル……」
心が震える言葉までも贈ってくれたのだ。
このまま霊薬を飲み続けていれば、十分な休息を取り続けていれば、いずれアオイは元の生活に……
私自身も頭では分かっている。
もう、怯えなくていいのだと。アオイが目覚めないのではと、アオイを失ってしまうのではと、不安と絶望に苛まれなくていいのだと。
しかし……
「まだ……不安か?」
真っ赤な瞳が心配そうに見つめている。通りの良い声が、ことさら優しく尋ねてくる。
「まだ……眠れぬか? アオイ殿が、ちゃんと生きているのだと確認出来ぬと辛いか? 確認せずには……おられぬか?」
「……はい」
ヨミ様は「そうか」とだけ返して口を閉じられた。
凛とした瞳の下を縁取っていたクマは、幾分か薄くなっている。アオイが目覚めてくれたからだろう。そして、回復の兆しが見えているからだろう。
まだ、より良い霊薬をと、日夜改良に励まれてはおられるものの、以前よりは睡眠を取られるようになったようだ。
私自身も分かってはいる。今のままではいけないと。皆様に、何よりも大切なアオイに、心配をかけてしまっているのだから。
私が……しっかりしなければ……アオイの夫として、アオイの為に……私が……
…………さ…………ん、ばあ…………ん……
「バアルさん」
「っ…………アオイ……?」
丸く透き通った瞳が、不安気に私を見つめていた。私を撫でてくれている途中だったのだろう。細い指先が、私の頬に触れる寸前で固まってしまっていた。
私としたことが……愛しいアオイを放って考えに耽ってしまうとは……また彼に心配を……
「大丈夫ですか? ぼうっとしていましたけど……」
止まっていた柔い指先が、私の肌に触れる。ゆっくり、優しく撫でてくれる。
じんわりと溶けていくような心地がした。胸が詰まるような鈍い重みが、向けられた柔らかい微笑みに、伝わってくる温もりによって。
「良かった……少し顔色が良くなりましたね……」
アオイは花弁のような唇をますます綻ばせ、瞳を細めて私を撫でてくれる。
「ふふ、ぎゅってします? おわっ」
最近の私は、どうも堪え性がないらしい。擽ったそうに笑う彼に尋ねられた途端、薄い胸元に抱きついてしまっていたのだから。
アオイに愛想を尽かされてしまわないでしょうか……
悪い考えばかりが、ふとした時に浮かんでしまう。彼に限って有り得ないと確信しているのに。
私の不安を拭ってくれているようだった。細い腕に抱き締め返してもらえたかと思えば、頭を背中を優しく撫でてもらえて。
「大好きだよ……バアル……」
心が震える言葉までも贈ってくれたのだ。
63
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる