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【番外編】また、お休みを言い合えるまで5
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痛みよりも眠気が、必死さが勝っていた俺は気づかなかったが、どちらも軽く出血していたらしかった。
とはいえ、傷はすぐに塞がった。
バアルさんだけじゃない、皆さん総出で自然治癒の術をかけてもらったお陰だ。手の甲に残った赤い爪跡も、すぐに消えるとのことだった。
「……少しは落ち着いたか?」
赤い瞳を細めたヨミ様に、バアルさんが小さく頷く。唇よりも酷かった手の甲を撫でている彼に向かって、柔らかい声で諭すように続ける。
「であれば、アオイ殿の身体をしかと診るのだ。貴殿ほどの術士ならば、分かるであろう?」
「……改善が、見られますね」
「であろう? だから大丈夫だ。次の目覚めは、今回よりも確実に早い。目覚めぬということも有り得ない……そうであろう?」
「……左様で……ございますね」
言い聞かせているような声だった。俺に心配をかけまいと、不安な気持ちを必死で押し込んでいるような。
ふと赤い瞳とかち合った。ヨミ様はゆるりと微笑んだまま、通りの良い声で側に控えているレタリーさんに呼びかける。
「アオイ殿の回復をより早くする為にも、アレを試すとしよう。レタリー、試作品が出来ていたであろう?」
「は、はいっ」
差し出されたのは青い小瓶。サイズは、栄養ドリンクくらいだろうか。置物としても映えそうなデザインは、まるでファンタジーな物語に出てくるアイテムのよう。
「これは……」
「詳しい説明は、次に貴殿が目覚めた時にする。とにかく、今は私達を信じて意識のある内に飲んで欲しい」
「はい……」
ひし形の形をした栓は、すでに緩められていた。バアルさんにも手伝ってもらいながら、一滴も残すことなく飲み干した。
「……どうだ?」
……飲んで間もないというのに。
「……怠さが……少しマシになった気がします……」
頭の上からも、周囲からも、安堵の声が漏れる。
レタリーさんが「失礼致します」と声をかけてから俺の手を恭しく取った。
「……問題は無さそうですね……効果も期待出来るかと」
瞬時に魔力の流れを見てくれたのか、術で調べてくれたのか、俺には分からない。
けれども曰く、俺の身体に副作用のようなものは見られないと。飲む前よりも、症状が僅かだが良くなっているとのことだった。
皆さんに付き添ってもらい、俺はバアルさんと暮らしている部屋へと、ベッドへと運ばれた。
ほとんど閉じかけている視界でも、なんとか見えた。バアルさんが手を握ってくれているのが。
でも、感覚は朧気だ。それに力も上手く入らない。握り返すことが叶わない。
ただ俺を見つめ続けている緑の瞳。その美しさを損なわせている影を払いたいのに。宿っている不安を和らげたいのに。
何か……出来ないのかな……? 俺に……俺だけにしか……出来ないこと……
「バアル……さん……」
「はい、アオイ……」
「……お散歩を……しましょう……」
「はい……?」
長い睫毛が瞬いて、滲んだ瞳が丸くなる。
ああ……良かった…………少しだけ……少しだけだけど……暗さが……消えて……
「それ以外でも……いいです……バアルさんがしたいこと、何でも……また後で、しましょう……約束です……」
「また後で……約束……」
「はい……だから、大丈夫……大丈夫ですよ……」
小指を差し出そうとして、出来なかった俺の代わりにバアルさんが指切りをしてくれる。
意識が沈んでいく間際に見ることが出来た彼の微笑みに、俺は安堵しながら目を閉じた。
とはいえ、傷はすぐに塞がった。
バアルさんだけじゃない、皆さん総出で自然治癒の術をかけてもらったお陰だ。手の甲に残った赤い爪跡も、すぐに消えるとのことだった。
「……少しは落ち着いたか?」
赤い瞳を細めたヨミ様に、バアルさんが小さく頷く。唇よりも酷かった手の甲を撫でている彼に向かって、柔らかい声で諭すように続ける。
「であれば、アオイ殿の身体をしかと診るのだ。貴殿ほどの術士ならば、分かるであろう?」
「……改善が、見られますね」
「であろう? だから大丈夫だ。次の目覚めは、今回よりも確実に早い。目覚めぬということも有り得ない……そうであろう?」
「……左様で……ございますね」
言い聞かせているような声だった。俺に心配をかけまいと、不安な気持ちを必死で押し込んでいるような。
ふと赤い瞳とかち合った。ヨミ様はゆるりと微笑んだまま、通りの良い声で側に控えているレタリーさんに呼びかける。
「アオイ殿の回復をより早くする為にも、アレを試すとしよう。レタリー、試作品が出来ていたであろう?」
「は、はいっ」
差し出されたのは青い小瓶。サイズは、栄養ドリンクくらいだろうか。置物としても映えそうなデザインは、まるでファンタジーな物語に出てくるアイテムのよう。
「これは……」
「詳しい説明は、次に貴殿が目覚めた時にする。とにかく、今は私達を信じて意識のある内に飲んで欲しい」
「はい……」
ひし形の形をした栓は、すでに緩められていた。バアルさんにも手伝ってもらいながら、一滴も残すことなく飲み干した。
「……どうだ?」
……飲んで間もないというのに。
「……怠さが……少しマシになった気がします……」
頭の上からも、周囲からも、安堵の声が漏れる。
レタリーさんが「失礼致します」と声をかけてから俺の手を恭しく取った。
「……問題は無さそうですね……効果も期待出来るかと」
瞬時に魔力の流れを見てくれたのか、術で調べてくれたのか、俺には分からない。
けれども曰く、俺の身体に副作用のようなものは見られないと。飲む前よりも、症状が僅かだが良くなっているとのことだった。
皆さんに付き添ってもらい、俺はバアルさんと暮らしている部屋へと、ベッドへと運ばれた。
ほとんど閉じかけている視界でも、なんとか見えた。バアルさんが手を握ってくれているのが。
でも、感覚は朧気だ。それに力も上手く入らない。握り返すことが叶わない。
ただ俺を見つめ続けている緑の瞳。その美しさを損なわせている影を払いたいのに。宿っている不安を和らげたいのに。
何か……出来ないのかな……? 俺に……俺だけにしか……出来ないこと……
「バアル……さん……」
「はい、アオイ……」
「……お散歩を……しましょう……」
「はい……?」
長い睫毛が瞬いて、滲んだ瞳が丸くなる。
ああ……良かった…………少しだけ……少しだけだけど……暗さが……消えて……
「それ以外でも……いいです……バアルさんがしたいこと、何でも……また後で、しましょう……約束です……」
「また後で……約束……」
「はい……だから、大丈夫……大丈夫ですよ……」
小指を差し出そうとして、出来なかった俺の代わりにバアルさんが指切りをしてくれる。
意識が沈んでいく間際に見ることが出来た彼の微笑みに、俺は安堵しながら目を閉じた。
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