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【番外編】また、お休みを言い合えるまで4
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ああ、そうか……眠いのか。信じたくはなかったけれど、認めたくはないけれど。俺の意識を泥濘みの底へと力づくで引っ張ろうとしているそれは、確かに。
明るかったざわめきが、暗い不安に侵食されていく。俺の手を握り締めたバアルさんの手が冷たい。氷のようだ。
「……アオイ……誠、なのですか……?」
「……大丈夫、ですよ……これくらいなら……我慢、出来ますから……」
そう言うより他はなかった。言い張って、手を握り返して、微笑むことしか。
見てしまったのだから。血の気の引いた彼の顔を、今にも涙がこぼれ落ちそうな眼差しを。
「いや……我慢してはならぬぞ、アオイ殿」
冷静な声で俺を戒めたのはヨミ様だった。
真直ぐに見つめてくる赤い瞳には、俺の虚勢なんてとっくに見透かされてしまっているのだろう。ゆっくりと言い聞かせるように話し始める。
「……身体が睡眠を求めておるということは、まだ完全に回復しきっていない証拠である。名残惜しいが……部屋に戻ってゆっくり休むといい」
「そうじゃのう……バアルもアオイ殿と一緒に休みなさい。この十日間、ずっとまともに眠っておらんかったじゃろ? ……バアル?」
バアルさんは黙って俯いたままだ。サタン様から背中を優しく叩かれているのに、微動だにしない。
腕の中に居る俺は、彼の顔色を窺おうとして。
「……です」
「……バアルさん?」
「嫌ですっ……やっと、やっと目覚めてくれたばかりなのですよ? まだ、ほんの少ししか、お話も出来ておりませんのに……っ」
始まりは、消え入りそうな声だった。けれども、すぐに捲し立てるように彼は嘆いた。頭の上から、悲痛な叫びと一緒に熱い雫が落ちてくる。
「……バアル」
名前を呼ぶしか出来なかった。本来ならば、俺が彼の不安を拭うべきだろうに、迷ってしまっていた。
だって、眠くて堪らないんだ。こんなにも彼が悲しんでいるってのに、息が出来ないくらい胸が切なく軋んでいるってのに。
めいいっぱい自分の手の甲に爪を立てても、溺れかけている意識が浮上することはない。力の限り唇を噛み締めても無意味だった。現状を保つだけで精一杯だったんだ。
また勢いの強くなった熱が、絶望に打ちひしがれた声と共に降ってくる。
「……今度は、何時なのでしょうか? 何時まで……私は……待てば宜しいので? もし、また十日も眠ってしまわれたら……私は……私は……っ」
「しっかりせぬか!」
止めてくれたのは、またしても。
「貴殿はアオイ殿の夫であろう? 貴殿が斯様な有り様では、アオイ殿が安心して身体を休められぬではないか!」
ヨミ様が、バアルさんの肩を掴んで訴える。
バアルさんは何かを言おうとしていた。けれども俺を見て、慌てたように俺の口元に、手の甲に触れた。
「ああ……アオイ……申し訳ございません……私が至らぬばかりに……私は大丈夫です、大丈夫ですから、どうかお止め下さい……御身を傷つけてまで、堪らえようとなさらないで……」
明るかったざわめきが、暗い不安に侵食されていく。俺の手を握り締めたバアルさんの手が冷たい。氷のようだ。
「……アオイ……誠、なのですか……?」
「……大丈夫、ですよ……これくらいなら……我慢、出来ますから……」
そう言うより他はなかった。言い張って、手を握り返して、微笑むことしか。
見てしまったのだから。血の気の引いた彼の顔を、今にも涙がこぼれ落ちそうな眼差しを。
「いや……我慢してはならぬぞ、アオイ殿」
冷静な声で俺を戒めたのはヨミ様だった。
真直ぐに見つめてくる赤い瞳には、俺の虚勢なんてとっくに見透かされてしまっているのだろう。ゆっくりと言い聞かせるように話し始める。
「……身体が睡眠を求めておるということは、まだ完全に回復しきっていない証拠である。名残惜しいが……部屋に戻ってゆっくり休むといい」
「そうじゃのう……バアルもアオイ殿と一緒に休みなさい。この十日間、ずっとまともに眠っておらんかったじゃろ? ……バアル?」
バアルさんは黙って俯いたままだ。サタン様から背中を優しく叩かれているのに、微動だにしない。
腕の中に居る俺は、彼の顔色を窺おうとして。
「……です」
「……バアルさん?」
「嫌ですっ……やっと、やっと目覚めてくれたばかりなのですよ? まだ、ほんの少ししか、お話も出来ておりませんのに……っ」
始まりは、消え入りそうな声だった。けれども、すぐに捲し立てるように彼は嘆いた。頭の上から、悲痛な叫びと一緒に熱い雫が落ちてくる。
「……バアル」
名前を呼ぶしか出来なかった。本来ならば、俺が彼の不安を拭うべきだろうに、迷ってしまっていた。
だって、眠くて堪らないんだ。こんなにも彼が悲しんでいるってのに、息が出来ないくらい胸が切なく軋んでいるってのに。
めいいっぱい自分の手の甲に爪を立てても、溺れかけている意識が浮上することはない。力の限り唇を噛み締めても無意味だった。現状を保つだけで精一杯だったんだ。
また勢いの強くなった熱が、絶望に打ちひしがれた声と共に降ってくる。
「……今度は、何時なのでしょうか? 何時まで……私は……待てば宜しいので? もし、また十日も眠ってしまわれたら……私は……私は……っ」
「しっかりせぬか!」
止めてくれたのは、またしても。
「貴殿はアオイ殿の夫であろう? 貴殿が斯様な有り様では、アオイ殿が安心して身体を休められぬではないか!」
ヨミ様が、バアルさんの肩を掴んで訴える。
バアルさんは何かを言おうとしていた。けれども俺を見て、慌てたように俺の口元に、手の甲に触れた。
「ああ……アオイ……申し訳ございません……私が至らぬばかりに……私は大丈夫です、大丈夫ですから、どうかお止め下さい……御身を傷つけてまで、堪らえようとなさらないで……」
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