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【番外編】また、お休みを言い合えるまで3

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 俺も皆さんも、ある程度落ち着いてきた頃、見計らっていたかのようにレダさん達が歩み寄ってきた。

 鋭い瞳を滲ませ、角度のついたお辞儀をしたレダさんに続いて、シアンさん達も息の揃った敬礼を披露する。

「おはようございます……アオイ様……お元気そうで何よりです」

「は、はい、お陰様で……ありがとうございます」

 慌ててお辞儀を返していた俺に、すかさず満面の笑みで話しかけてきたのはスヴェンさんだった。

「おはようございます! 今日はパーティですね! いや……十日間も眠っていらしたのですから……胃に優しいスープから始めた方がいいですかね?」

 ガッシリとした彼の肩や、ツンツン頭に乗っている子豚のスー達も嬉しそう。ぷきゃぷきゃと小さな鼻を鳴らし、コウモリの形をした小さな羽をはためかせている。

 どこを見ても微笑む瞳とかち合う。視界が大好きな人達の笑顔であふれている。こんなにも幸せな光景が、他にあるだろうか。

 ようやく収まったばかりなのに、また頬が濡れてしまう。声が勝手に震えてしまう。

「皆さん、ありがとうございます……それから、ご心配をおかけして、すみませんでした……」

 俺を抱き抱えてくれているバアルさんの腕に力がこもり、僅かに震え出す。絞り出すような彼の声も。

「私の妻の為、尽力して下さったこと……心より感謝申し上げます……」

 何度感謝の言葉を伝えても、何度頭を下げたって足りやしない。なのに。

「全く……確かに心配はしたぞ? しかしアオイ殿もバアルも寂しいことを……なぁ、グリム、クロウ?」

「そうですよっ! 僕達は、お二方の幸せを一番に考えてるんですからね!」

「これくらい、謝られる内にも感謝される内にも入りませんよ」

「それでも足りぬと申すのならば、改めておぬしらの晴れ姿をわしらに見せてはくれぬかの?」

「左様でございますね。再び私めにアオイ様のヘアメイクをさせて頂きたく存じます」

 皆さんは、何も大したことはしていないと言わんばかり。わざとらしい溜め息を吐いたヨミ様を筆頭に、グリムさんが拗ねたような顔で小さな拳を握り、クロウさんは口端をニッと持ち上げる。

 微笑むサタン様が、長い顎髭を撫でながら願った言葉に、レタリーさんが「是非ともお任せ下さい」と瞳を輝かせた。レダさん達もだ。

「魔宝石の儀式は無事に見届けられましたが、指輪の交換を拝見できてはいませんからね」

「俺のウェディングケーキも、まだ召し上がって頂いていませんよ? 改良に改良を重ねた自信作なんですから、たらふく召し上がって頂かないと!」

 料理長であるスヴェンさんが、ふんっと鼻を鳴らして厳つい腕を組む。お手伝いのスー達も、小さな蹄を上げてぷきゃっと鳴いた。

 負けじとヨミ様が「私だって、お色直し用の衣装に袖を通してもらっておらぬぞ!」と。グリムさんまで「僕とクロウだって、ブーケ作ってましたもん!」と声を大にする。

 ……俺が思う結婚式らしいことは、まだ出来ていなかったんだっけ。バアルさんとの永遠を、魂の契約を交わすことは出来たけれど。

 愛する人と誓いを交わせただけで、また無事に会えただけで、十分な幸せをもらっていたと思っていた。でも、これから先はもっと。

 思い浮かべるだけで心が躍る。気分はまるで、お祭り前のような。

 ……でも、どうしちゃったんだろう。だんだんと眼の前が薄暗くなっていく。徐々に皆さんの声が遠くなって。

「アオイ様……もしかして、眠いんですか?」

 恐る恐る尋ねてきた、グリムさんの声だけが妙に大きく聞こえた。
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