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【番外編】また、お休みを言い合えるまで2
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幽霊にでもなった気分だった。
なんせ会う方会う方、大人しそうなメイドさんも、屈強な兵士さんも、俺の顔を見ては声にならない声を上げ、大粒の涙をこぼすのだ。
それもずっとだ。中庭から城内へと、本棟から別棟へと、バアルさんに抱き抱えられたまま移動している間中ずっと。更には噂を聞きつけて、城中のメイドさん達や兵士さん達まで駆けつけてくれたのだ。お陰で城内は大騒ぎ。
あっという間に俺達が進むレッドカーペットの両サイドに、歓喜の声に湧く人垣が形成されたのだ。
誰もが震える声で「本当に良かった」と口にする。俺とバアルさんを、涙に濡れた笑顔で迎えてくれる。
込み上げる嬉しさと擽ったさとで、目の奥が熱くなった。いや、もうこぼれていた。でも俺は隠すことはしなかった。
だって、皆さん心配して来てくれたのだ。仕事の手を止めてまで、俺が起きているのを確認しに来てくれたのだ。だったら、応えなければ。
「ありがとうございます……っ……皆さんが分けてくれた魔力のお陰です……本当にありがとうございます……!」
あらん限りの声を張り上げ、言葉だけではとても返せない感謝を伝えた。バアルさんも足を止め、俺に続くように深々と頭を下げた。結果、事態は余計に悪化してしまった。
一瞬、俺の声しか聞こえないくらい静かになったものの、一気に湧いた歓喜の叫び。ところどころに嗚咽が混じった歓声が、大きくて丈夫そうな柱が震えてしまいそうな音の波が、俺達を包みこんだのだ。
泣きながら微笑む皆さんに見送られながら、俺達は別棟に辿り着いた。
バアルさんは迷いなく進んでいった。けれども彼が目指していた部屋はヨミ様やサタン様の私室でもなく、俺達の部屋でもない。入ったことのない部屋の大きい扉をバアルさんは開けた。途端にいくつもの視線が一気に俺達へと注がれていく。
勢揃いだった。ヨミ様、サタン様、レタリーさん。グリムさんにクロウさん。レダさんに親衛隊のシアンさん達、スヴェンさんと子豚のスー達まで。
ソファーやイスにテーブルといった簡易な家具しかない部屋に、皆さん集まってくれていたのだ。
……やはりというか、なんというか。
皆さんも信じられないものを見ているような顔をして、固まってしまっていた。
さっきから、ずっと見続けていたリアクションと全く一緒。しばらくして思い出したかのように、丸く見開いた瞳からぽろぽろと大粒の涙をこぼすところまで。
「えっと……おはよう、ございます……」
堪えきれずに俺が破った沈黙は、瞬く間に歓喜のざわめきへと変わっていった。
「本当に、本当にアオイ殿であるな!? 夢ではあるまいな!?」
ヨミ様が、真っ黒な羽を広げて一目散に飛びついてきた。しなやかな腕で、俺を抱えているバアルさんごと抱き締める。
「おわっ……は、はいっ、ヨミ様……俺です。ちゃんとここに居ますよ」
「大丈夫です、ヨミ様……アオイ様はちゃんと居ります……起きていらっしゃいます……」
俺の言葉に応えてくれたのは、バアルさんではなくレタリーさんだった。いつの間にかヨミ様の側に控えていた彼は、こんな時でもブレない。
「頬をつねっておりますが……ちゃんと痛いでしょう?」
静かに涙をこぼしながらも、長い尾羽根を揺らしながらも、細く長い指で摘んでいるのはご自身の頬ではなく、ヨミ様の頬だったのだから。
けれども優し過ぎる王様は、一切気にしていないご様子。それどころかご機嫌だ。ふにっと摘まれたままの頬を綻ばせ、涙に滲んだ声を弾ませた。
「うむっ、確かに痛いな……! 夢ではないんだな……!」
手加減はされているだろうから、大丈夫だとは思うけど……
「誠じゃの……耄碌したわしの眼にも、元気な姿がちゃんと映っておるわい……」
不意に頭を優しく撫でられたかと思えば、サタン様が大柄な背を曲げ、俺達に微笑みかけていた。
一先ず皆さんにもお礼をと口を開きかけた時、今度は手を握られた。
「アオイ様……僕達、信じてました……っ」
「全く……ヒヤヒヤさせますね…………本当に良かった……」
小さな手と大きな手が、俺の手を包みこんでいる。まるで存在を確認するかのように、力を込めては緩めてを繰り返している。
「グリムさん……クロウさん……」
握り返した俺の手に、更に手が重なった。
バアルさんだ。高い鼻を赤く染め、眉間にシワを寄せている。それでも俺に微笑んで。
「貴殿らだけズルいぞ! 私も仲間に入れさせてもらう!」
「では、私も失礼して」
「ほっほ、じゃあわしも」
ヨミ様、レタリーさん、サタン様。色も形も大きさも違う手が重なっていく。
伝わってくる温かさに、俺は改めて実感した。バアルさんの、皆さんのところに帰って来れたんだって。
なんせ会う方会う方、大人しそうなメイドさんも、屈強な兵士さんも、俺の顔を見ては声にならない声を上げ、大粒の涙をこぼすのだ。
それもずっとだ。中庭から城内へと、本棟から別棟へと、バアルさんに抱き抱えられたまま移動している間中ずっと。更には噂を聞きつけて、城中のメイドさん達や兵士さん達まで駆けつけてくれたのだ。お陰で城内は大騒ぎ。
あっという間に俺達が進むレッドカーペットの両サイドに、歓喜の声に湧く人垣が形成されたのだ。
誰もが震える声で「本当に良かった」と口にする。俺とバアルさんを、涙に濡れた笑顔で迎えてくれる。
込み上げる嬉しさと擽ったさとで、目の奥が熱くなった。いや、もうこぼれていた。でも俺は隠すことはしなかった。
だって、皆さん心配して来てくれたのだ。仕事の手を止めてまで、俺が起きているのを確認しに来てくれたのだ。だったら、応えなければ。
「ありがとうございます……っ……皆さんが分けてくれた魔力のお陰です……本当にありがとうございます……!」
あらん限りの声を張り上げ、言葉だけではとても返せない感謝を伝えた。バアルさんも足を止め、俺に続くように深々と頭を下げた。結果、事態は余計に悪化してしまった。
一瞬、俺の声しか聞こえないくらい静かになったものの、一気に湧いた歓喜の叫び。ところどころに嗚咽が混じった歓声が、大きくて丈夫そうな柱が震えてしまいそうな音の波が、俺達を包みこんだのだ。
泣きながら微笑む皆さんに見送られながら、俺達は別棟に辿り着いた。
バアルさんは迷いなく進んでいった。けれども彼が目指していた部屋はヨミ様やサタン様の私室でもなく、俺達の部屋でもない。入ったことのない部屋の大きい扉をバアルさんは開けた。途端にいくつもの視線が一気に俺達へと注がれていく。
勢揃いだった。ヨミ様、サタン様、レタリーさん。グリムさんにクロウさん。レダさんに親衛隊のシアンさん達、スヴェンさんと子豚のスー達まで。
ソファーやイスにテーブルといった簡易な家具しかない部屋に、皆さん集まってくれていたのだ。
……やはりというか、なんというか。
皆さんも信じられないものを見ているような顔をして、固まってしまっていた。
さっきから、ずっと見続けていたリアクションと全く一緒。しばらくして思い出したかのように、丸く見開いた瞳からぽろぽろと大粒の涙をこぼすところまで。
「えっと……おはよう、ございます……」
堪えきれずに俺が破った沈黙は、瞬く間に歓喜のざわめきへと変わっていった。
「本当に、本当にアオイ殿であるな!? 夢ではあるまいな!?」
ヨミ様が、真っ黒な羽を広げて一目散に飛びついてきた。しなやかな腕で、俺を抱えているバアルさんごと抱き締める。
「おわっ……は、はいっ、ヨミ様……俺です。ちゃんとここに居ますよ」
「大丈夫です、ヨミ様……アオイ様はちゃんと居ります……起きていらっしゃいます……」
俺の言葉に応えてくれたのは、バアルさんではなくレタリーさんだった。いつの間にかヨミ様の側に控えていた彼は、こんな時でもブレない。
「頬をつねっておりますが……ちゃんと痛いでしょう?」
静かに涙をこぼしながらも、長い尾羽根を揺らしながらも、細く長い指で摘んでいるのはご自身の頬ではなく、ヨミ様の頬だったのだから。
けれども優し過ぎる王様は、一切気にしていないご様子。それどころかご機嫌だ。ふにっと摘まれたままの頬を綻ばせ、涙に滲んだ声を弾ませた。
「うむっ、確かに痛いな……! 夢ではないんだな……!」
手加減はされているだろうから、大丈夫だとは思うけど……
「誠じゃの……耄碌したわしの眼にも、元気な姿がちゃんと映っておるわい……」
不意に頭を優しく撫でられたかと思えば、サタン様が大柄な背を曲げ、俺達に微笑みかけていた。
一先ず皆さんにもお礼をと口を開きかけた時、今度は手を握られた。
「アオイ様……僕達、信じてました……っ」
「全く……ヒヤヒヤさせますね…………本当に良かった……」
小さな手と大きな手が、俺の手を包みこんでいる。まるで存在を確認するかのように、力を込めては緩めてを繰り返している。
「グリムさん……クロウさん……」
握り返した俺の手に、更に手が重なった。
バアルさんだ。高い鼻を赤く染め、眉間にシワを寄せている。それでも俺に微笑んで。
「貴殿らだけズルいぞ! 私も仲間に入れさせてもらう!」
「では、私も失礼して」
「ほっほ、じゃあわしも」
ヨミ様、レタリーさん、サタン様。色も形も大きさも違う手が重なっていく。
伝わってくる温かさに、俺は改めて実感した。バアルさんの、皆さんのところに帰って来れたんだって。
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