間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
上 下
576 / 1,047

【番外編】ハレの日だから5

しおりを挟む
 最初は、言葉通り一杯だけのつもりだったんだと思う。

 でも、乾杯する前にグリムさんとクロウさんも合流して、それから皆さんと話に花を咲かせている内に後少し、後少しだけといった感じで勧められるがままに二杯、三杯。

 気がついた時にはもうボトルが空になっていて。頬を染め、瞳を蕩けさせた色気マシマシバアルさんが出来上がっちゃってた訳で。初めて見れた酔っぱらいな彼に抱き締められて、離してもらえなくなっちゃった訳で。

「たかが、一本空けたくらいで斯様に可愛らしいことにはならなかったがなぁ……」

「そもそも、顔が赤くなったのを見たのも久しぶりじゃし」

「いつもならば、二、三本空けてからがようやく始まりといった感じでしたが……」

 ヨミ様、サタン様、レタリーさん。順々に答えてくれた内容は俺の予想通りだった。

 そうだよな。バアルさんだったら、いくら飲んでも平然としてそうだよな。

 じゃあ、どうして? 俺も皆さんも同じ疑問に行き着いた時、ふとグリムさんが口を開いた。

「アオイ様が居るからじゃないですか?」

「俺……ですか?」

 どうして、俺が居るとお酒に弱くなるんだろうか。

 疑問が深まった俺を置き去りに「ああ」と口端を持ち上げたクロウさんを始め、皆さん納得されたご様子。いやいや、なんで。

「成る程、確かに……アオイ殿に甘えておるのかもしれぬな」

「ふぇ……」

 嬉しそうなヨミ様の一言が、腑に落ちてしまった。

「アオイ……」

 急に俺を抱く腕に力が込められたかと思えば、件の彼が囁いてくる。

「アオイ……私の愛しい御方……どうか此方を……そのお美しい琥珀色の瞳に、私を映して頂けないでしょうか?」

 寂しそうな声で強請ってくれる。俺を求めてくれる。

「は、はぃ……」

 俺は笑顔で応えられただろうか。

 顔を向ければ、宝石よりも美しい瞳が煌めいて、微笑んで。スッと通った高い鼻先が甘えるように頬に擦り寄ってくる。

「ふふ、アオイ……」

「レタリー」

「はい、畏まりました」

 名前を呼んだだけでヨミ様の意図を汲んだらしいレタリーさん。優秀な秘書さんが俺達の側まで歩み寄り、キレイな角度のついたお辞儀を披露した。

「バアル様、アオイ様と共にお部屋に帰りましょう。ご案内致します」

「はい……」

 バアルさんは名残惜しそうに眉間にシワを寄せながらも、俺を横抱きに抱き直してから立ち上がった。先をゆっくり進み始めたレタリーさんを追って、会場を後にしようとする。

「え、ちょっ……ヨミ様」

「心配せずともよいぞ、アオイ殿。貴殿らは十分に、我らが民に晴れ姿を見せてくれた。後は私達に任せてゆっくり寛ぐといい」

「バアルを宜しくのう」

「すっごく素敵な結婚式でした!」

「お二人ともカッコよく決まってましたよ」

 微笑みながら見送ってくれる皆さんにお礼を言って、手を振って、俺は身を預けることにした。

 分厚い胸板に寄りかかった時、頬に触れたいつもの執事服とは違う生地。いつもよりも熱い体温、早い鼓動。

 バアルさんの腕の中は安心出来るのに、今は少しだけ落ち着かなくて。胸の内の擽ったさに気づかないフリをして、彼の首に腕を回した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

処理中です...