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お礼を言うのは俺の方なのに
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息をすることすらまともに出来ない重い沈黙。それを破ったのは、作った張本人だった。
「あくまで、私自身を万全な状態にする為には……ですが。しかし、まだ別の方法があります。これだけの魔力と……バアル、貴方の力があれば」
「……私の力……でございますか?」
「はい、貴方に授けた時を操る時間で、私を浄化の炎に宿る前に戻していただきたいのです。それさえ果たしていただければ、アオイが失う生命力を問題のない範囲で収めることが出来ます。私が、必ずや果たしてみせます」
「っ……誠でございますか?」
断言してみせた神様の言葉に、バアルさんは沈んだ表情に喜色を滲ませた。
俺も縋りたくなった。でも、まだ信じられない。ヨミ様も俺と同じ気持ちのようだった。
「……一体、何をするつもりなのだ?」
鋭い眼差しを受けながら、神様は言葉を続ける。けれども、やはり遠回しで、最初からハッキリとした答えは返ってこない。
「……私は、途方もなく長い間、炎に宿っていました。ですから、自分で自分の魂だけを分かつことが出来ません。炎から離れ、魂だけに戻る為には貴方の力が必要なのです」
「神よ……御言葉ですが……私は時の流れを操ることは出来ても、私自身以外の命あるものの時間を操ることは……」
「大丈夫ですよ。今の私は、浄化の炎そのものですから。それに貴方は、ヨミやサタンと同じく私に近い存在……私相手にならば、問題なく術を使うことが出来るでしょう」
それでも聞くしかなくて、大人しく耳を傾ける。しかし、いまだに見えてこない。浄化の炎から離れて魂だけになって、一体何をしようというのだろうか。
「ただ、神である私の時を戻すのです……貴方にかかる魔力の負担はとてつもなく大きなものになるでしょう……ですが、皆の魔力の結晶とアオイの生命力を僅かだけ使わせてもらえれば、必ずや成し遂げられる筈です」
「しかし、炎に宿る前に戻ってどうするつもりなのだ? 確かに、今より魔力は戻るであろうが……結局は、また問題を先送りにするだけでは……」
ヨミ様の疑問は最もだった。それだと今までと変わらない。
確かに俺の生命力はバアルさんの術の為に使われるだけなので、最小限で済むだろう。でも、またいずれ、遠い未来には確実に息切れを起こしてしまう。罪に穢れた人間が減らない限りは。
神様は、微笑んだ。俺達の不安を吹き飛ばすように、力強く言い放った。
「いえ、解決させます。私の魂をもとにして、新たな浄化のシステムを作り上げるのです。万全な状態の私でなくとも、それくらいは出来ますから」
「新しい浄化のシステム……ですか?」
「…………待って下さい、それでは」
「大丈夫ですよ……バアル、何も心配はいりません。私の存在が、別のものへと変わってしまっても……サタンに渡した加護も、バアルに渡した力も消えはしません。これまで通り、一人一人が別々の命として生き続けていけますよ」
「ですが……っ」
瞳を大きく見開いたバアルさんの言葉を遮って、神様は続ける。柔らかい笑みを崩すことなく。
「あの時の私は、愛しい貴方達を見守り続けたいがあまりに、自分の全てを捧げることに躊躇してしまいました……ですが、もう大丈夫……十分に見届けることが出来ました……貴方達ならば、きっとこれからも、皆で力を合わせて生きていけるでしょう」
そこまで言ってもらえて、申し訳無さそうに肩を落とすバアルさんとヨミ様を見て、俺もようやく理解した。
「え……? それじゃあ、神様は……? 消えちゃうってこと……ですか?」
神様が、自身に残された最後の力を使おうとしていることを。自分の魂を使って、俺達を助けようとしてくれていることを。
自分の存在が、消えてしまうことも構わずに。
「ふふ……アオイ、やはり貴方は優しい方ですね。会って間もない私に心を砕いてくれるなんて……本当に貴方と会えて良かった……本当にありがとう……バアルと、ヨミ達と出会ってくれて」
「そんな……俺……」
お礼を言うのは俺の方なのに。込み上げてくる熱で、胸が、喉が詰まって潰れた声しか出やしない。
「我らが神よ……誠に感謝申し上げる……」
「この御恩は決して忘れません……ありがとうございます」
ヨミ様が、バアルさんが深く頭を下げた。
繋いだ右手に力が込められる。少し滲んだ赤い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめている。
今度は左手を優しく握られた。薄い涙の膜に覆われた緑の瞳が、優しく俺に微笑んだ。
「……ありがとう、ございます」
「ふふ、それでよいのです……何も気に病むことはないのですよ……アオイ……」
神様は満足そうに微笑んで、柔らかい光で出来た手を俺達に向かって差し出した。
「さあ、始めましょう。ヨミ、バアル、アオイ……よろしくお願いしますね」
「あくまで、私自身を万全な状態にする為には……ですが。しかし、まだ別の方法があります。これだけの魔力と……バアル、貴方の力があれば」
「……私の力……でございますか?」
「はい、貴方に授けた時を操る時間で、私を浄化の炎に宿る前に戻していただきたいのです。それさえ果たしていただければ、アオイが失う生命力を問題のない範囲で収めることが出来ます。私が、必ずや果たしてみせます」
「っ……誠でございますか?」
断言してみせた神様の言葉に、バアルさんは沈んだ表情に喜色を滲ませた。
俺も縋りたくなった。でも、まだ信じられない。ヨミ様も俺と同じ気持ちのようだった。
「……一体、何をするつもりなのだ?」
鋭い眼差しを受けながら、神様は言葉を続ける。けれども、やはり遠回しで、最初からハッキリとした答えは返ってこない。
「……私は、途方もなく長い間、炎に宿っていました。ですから、自分で自分の魂だけを分かつことが出来ません。炎から離れ、魂だけに戻る為には貴方の力が必要なのです」
「神よ……御言葉ですが……私は時の流れを操ることは出来ても、私自身以外の命あるものの時間を操ることは……」
「大丈夫ですよ。今の私は、浄化の炎そのものですから。それに貴方は、ヨミやサタンと同じく私に近い存在……私相手にならば、問題なく術を使うことが出来るでしょう」
それでも聞くしかなくて、大人しく耳を傾ける。しかし、いまだに見えてこない。浄化の炎から離れて魂だけになって、一体何をしようというのだろうか。
「ただ、神である私の時を戻すのです……貴方にかかる魔力の負担はとてつもなく大きなものになるでしょう……ですが、皆の魔力の結晶とアオイの生命力を僅かだけ使わせてもらえれば、必ずや成し遂げられる筈です」
「しかし、炎に宿る前に戻ってどうするつもりなのだ? 確かに、今より魔力は戻るであろうが……結局は、また問題を先送りにするだけでは……」
ヨミ様の疑問は最もだった。それだと今までと変わらない。
確かに俺の生命力はバアルさんの術の為に使われるだけなので、最小限で済むだろう。でも、またいずれ、遠い未来には確実に息切れを起こしてしまう。罪に穢れた人間が減らない限りは。
神様は、微笑んだ。俺達の不安を吹き飛ばすように、力強く言い放った。
「いえ、解決させます。私の魂をもとにして、新たな浄化のシステムを作り上げるのです。万全な状態の私でなくとも、それくらいは出来ますから」
「新しい浄化のシステム……ですか?」
「…………待って下さい、それでは」
「大丈夫ですよ……バアル、何も心配はいりません。私の存在が、別のものへと変わってしまっても……サタンに渡した加護も、バアルに渡した力も消えはしません。これまで通り、一人一人が別々の命として生き続けていけますよ」
「ですが……っ」
瞳を大きく見開いたバアルさんの言葉を遮って、神様は続ける。柔らかい笑みを崩すことなく。
「あの時の私は、愛しい貴方達を見守り続けたいがあまりに、自分の全てを捧げることに躊躇してしまいました……ですが、もう大丈夫……十分に見届けることが出来ました……貴方達ならば、きっとこれからも、皆で力を合わせて生きていけるでしょう」
そこまで言ってもらえて、申し訳無さそうに肩を落とすバアルさんとヨミ様を見て、俺もようやく理解した。
「え……? それじゃあ、神様は……? 消えちゃうってこと……ですか?」
神様が、自身に残された最後の力を使おうとしていることを。自分の魂を使って、俺達を助けようとしてくれていることを。
自分の存在が、消えてしまうことも構わずに。
「ふふ……アオイ、やはり貴方は優しい方ですね。会って間もない私に心を砕いてくれるなんて……本当に貴方と会えて良かった……本当にありがとう……バアルと、ヨミ達と出会ってくれて」
「そんな……俺……」
お礼を言うのは俺の方なのに。込み上げてくる熱で、胸が、喉が詰まって潰れた声しか出やしない。
「我らが神よ……誠に感謝申し上げる……」
「この御恩は決して忘れません……ありがとうございます」
ヨミ様が、バアルさんが深く頭を下げた。
繋いだ右手に力が込められる。少し滲んだ赤い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめている。
今度は左手を優しく握られた。薄い涙の膜に覆われた緑の瞳が、優しく俺に微笑んだ。
「……ありがとう、ございます」
「ふふ、それでよいのです……何も気に病むことはないのですよ……アオイ……」
神様は満足そうに微笑んで、柔らかい光で出来た手を俺達に向かって差し出した。
「さあ、始めましょう。ヨミ、バアル、アオイ……よろしくお願いしますね」
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