間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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絶対に失わせてはならない、貴方の幸せを第一に願うのであれば

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「……レタリーさん?」

 俺の呼びかけに対して、レタリーさんは顔だけ向けて微笑むだけ。体勢を変える気も、お二人に近づかせる気もないらしい。

 なんで……そんな、警戒するみたいに? ヨミ様から俺のことを守ってくれって頼まれたからかな? でも、グリムさん達が俺に何かする訳が……

 不思議に思っている内に、お二人は俺達の側までやって来ていた。俺の手元から漏れている光に気がついたのか、グリムさんが弾んだ声で尋ねてくる。

「あっ、それ……もしかしてレタリーさんの魔力ですか? スゴいですね! でも、僕達も頑張って集めてきたんですよ!」

 グリムさんの言葉にレタリーさんの尾羽根が僅かに揺れる。警戒を緩めたのか、真横に伸ばしていた片腕が少し下がった。

「皆に協力してもらったんですよっ、ほら!」

 赤、青、黄色、ピンクに茶色、白に黒。何色もの光が室内を明るく染めていく。

「同僚達から、魔力を分けてもらってきました。心配しなくても、俺達の方針は同じですよ。アオイ様がヨミ様の元へ向かわれるのを、力尽くで止めやしません」

 そういうことか。じゃあ、ヨミ様が全部が終わるまで俺を守ってくれって言っていたのも。

「……失礼致しました」

 クロウさんの言葉によって完全に警戒を解いたよう。レタリーさんは角度のついたお辞儀をしてから、俺の前から退いた。ヨミ様のお側で控えている時のように俺の後ろに一歩下がり、ピシリと背筋を伸ばしている。

「いえ、仕方がないですよ。ぶっちゃけ俺は、止める派だったんで……でも」

 困ったように後頭部を掻くクロウさんが見つめたのはすぐ隣、宙に浮く何色もの光り輝く花の結晶に囲まれているグリムさんだった。

「……僕は、諦めたくないと思いました」

 薄紫色の丸い瞳が、強い決意を宿した瞳が、俺を見つめている。

「僕は、僕とクロウは、アオイ様の幸せを第一に願っています。だから、絶対に、失っちゃいけないんです。ヨミ様も、今のアオイ様自身も」

 凛とした声が語る独白は、俺に訴えているような、自分に言い聞かせているような。

「グリムさん……」

 グリムさんの口元は何かを堪えているように歪んでいた。けれども俺に心配をかけない為か、すぐに明るい笑みを形作った。

 俺が何か言う前に、どこからともなく薄紫色の結晶と金色の結晶を取り出した。どちらも、いや、彼の周囲に浮かんでいる結晶も、魔力の花とは違い同じ形をしていた。その形は以前、グリムさんからもらったガーベラと似ていた。

「これ、僕とクロウの魔力です。僕のは、皆やクロウと違ってあまり抽出することが出来ませんでしたけど……」

 申し訳無さそうにおずおずと差し出された薄紫色の花は、確かに他のものよりもひと回りくらい小さい。でも強く、懸命に光り輝いていた。まるでグリムさんのように。

 二人の元へと歩み寄り、差し出された薄紫と金の結晶に触れる。やっぱりどちらも温かい。

「そんなことありませんよ……スゴく嬉しいです……温かくて、心強いです……ありがとうございます」

「えへへ……お役に立てて良かったです……」

 大きな瞳を細めて、ふにゃりと微笑むグリムさんの笑顔が滲んでいってしまう。

 ふいに浮かんでいた結晶達が、まるで俺とグリムさんの手元に集うように引き寄せられてきた。一際眩しい光を放ったかと思えば、一つの結晶になっていた。

 形は変わっていない。大きさも、一番大きかったレタリーさんの結晶くらい。まだギリギリ俺の片手で持てるサイズだ。けれども放つ光は強く、温かい。

 魔力の流れを感じ取れない俺でも分かった。この結晶には大きな魔力が宿っていることが。

 これなら……もしかしたら……

「じゃあ、急ぎましょう。そろそろ皆、準備が整った頃合いだと思うんで」

「準備って?」

「諦めていないの、俺達だけじゃあないですよ」

 どこか得意気にクロウさんが口端を持ち上げる。グリムさんが俺の手を握り「行きましょうっ」と開いたままの扉を指し示す。

 俺とレタリーさんは状況を飲み込めぬまま、お二人に導かれるまま、部屋の外へと歩み出た。
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