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とある秘書は何故か心から認めていた

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 何だ? これは……

 一体、何が起こっている? こんなものは、演出の内にはなかった筈だ。

 目も眩むような輝きが、会場を白く染めている。僅かに収まった光の中に、大きなステンドグラスを覆い隠すほどに巨大な人影が浮かんでいた。

 強烈な眩しさからか、目の奥はいまだチカチカと明滅している。私は、私達は今、何を見て?

 私の目は、思いも寄らぬ現状から逃れるように、助けを求めるように、自然と我らが主の方へと向いていた。しかしヨミ様も、サタン様も、そのお顔を驚愕の色に染めていた。

 そう、ですよね……いくらサプライズが好きなヨミ様であっても、本日ばかりは事前に相談して下さる筈。そもそも、心より楽しみにしていらっしゃったお二方の大切な日に、何も仰らずに独断で決行するなどある筈が。

 では、何故? 何が起こっているというのか?

 私の思考は最初の問いへと立ち戻る。おそらく、この場に居る誰もが。それどころか、この瞬間を目撃している民の誰もが答えられない、答えを持っていないであろう問いへと。

 神々しく、けれどもどこか温かい光を放つ巨大な存在。光り輝くソレが私達に微笑みかけてくる。ただそれだけのことなのに、何故か心が震えてしまう。声を上げ、泣きたくなるくらいの喜びを感じてしまう。

 抗え難いそれらに、私はいっそう困惑した。微かな畏怖すら。

「ああ、私の愛しき子達よ……」

 温かいミルクに蜂蜜を溶かしたような甘い声で、ソレは私達に語りかけてきた。男性のようにも聞こえたし、女性のようにも聞えた。

「再び貴方達に会えた奇跡に感謝を……ありがとうございます、人の子よ。いえ、新しい私の子……アオイよ」

 まるで、引き寄せられているかのようだった。バアル様の背に庇われ隠されていたアオイ様が、自ら姿を現した。不思議な光を放つソレの前へ、ふらりと一歩、二歩と歩み寄っていく。

 駄目だと、危ないと思っているのに、私の身体は動かない。ヨミ様方も同じご様子。皆様、その場に足を縫いつけられたかのように動けない。

「っ……アオイ様」

 ただバアル様だけが、彼の腕を掴むことが出来た。覚束ない足取りで近寄っているアオイ様を引き止め、ご自身の腕の中へと閉じ込めた。

 ぼんやりとソレを見つめていた琥珀色の瞳が、抱き締めているバアル様に気がついた。

「あ……バアルさん……大丈夫ですよ……イヤな感じ、しないでしょう?」

「それは……左様では、ございますが……」

 確かに、ソレが放つ魔力からは嫌な気配を感じない。国一番の優れた術士であるバアル様と負けず劣らず強大な魔力を持ちながらも。

 寧ろ、どこか安心するような……

 アオイ様がバアル様の手を取った。もう一方で手の甲を宥めるように撫でながら微笑んだ。

「大丈夫、大丈夫ですよ……」

 少しだけバアル様は落ち着かれたよう。しかし警戒は怠っていない。抱き寄せているアオイ様を更に包み込むように羽を広げ、魔力を鋭く研ぎ澄ましている。

 今のバアル様ならば、相手に瞬きすらする間も与えず迎撃し、なおかつアオイ様を強靭な防護壁で守ることが出来るだろう。

 ただでさえ張り詰めている空気が更に重く、息苦しくなっていく。魔力を感じ取ることが出来ないアオイ様でも、バアル様の異様な雰囲気に何かを察しているのだろう。今以上、ソレに近づくことはされなかった。

「……あの、ご挨拶が遅れてしまってごめんなさい……あと、その……」

「いえ、構いませんよ。我が身よりも大切な者を守ろうとしているのですから、バアルの行動は至極当然です。よっぽど貴方は、彼に愛されているのでしょうね……」

「っ……あ、ありがとうございます……」

 少しだけ、空気が緩んだ。

 アオイ様は嬉しそうに頬をほんのり染めたものの、はたと表情を引き締めた。おそるおそるといったご様子で、ソレとの会話を続けていく。

「間違えていたら、ごめんなさい……もしかして、貴方は神様……ですか? バアルさん達のご先祖様を作ったっていう……地獄の……」

 神……だって?

 あの、御伽噺に出てくる? 我らの神は、自ら浄化の炎になられた筈では……

「おや、なんと……私のことを知ってくれているのですね。もしや、此方へ来られる前に父なる神と……天の神とお会いになられましたか?」

「あっ、いえ、バアルさんからこの国に伝わるお話を聞いただけで……」

 ソレは「ああ」と納得したように頷いてから、美しい笑みを深くした。

 私達の目の前に居るソレは、誠の神であるようだ。

 ソレが、そうだと自称しているだけで、証明はされてはない。今のところ証拠もない。だが、私は腑に落ちた様な心地がしていた。

 ソレは我らの神であると、何故か心から認めていたのだ。
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