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とある秘書は舞い上がっていた
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私の手の中で淡く輝く投影石から光が放たれる。黄緑色の光の中に、私の目の前に浮かび上がった複数のウィンドウ。四角いそれらに表示されている、全てのメッセージに素早く目を通す。
本会場は問題なし。担当者からは滞りなく招待客の入場が進んでいるとのこと。
本日の為に用意した、特注の投影石も順調そのもの。本会場の様子をリアルタイムに各エリアの特設会場やシアターへと映しているとの報告が、特設会場とシアターの担当者からそれぞれ送られてきていた。
公式サイトの方も問題はないようだ。実際に投影石でアクセスしてみたところ、雑音も画像の乱れもなく会場の様子が見れているとのこと。
これで、本日の儀式の模様を全ての国民が見ることが出来る。
特設会場やシアターへと足を運べなかった者はサイトの生中継で、時間が合わず中継を見られない者は録画映像で、記念すべき瞬間を、バアル様とアオイ様が永遠の契りを交わす瞬間を、共に見ることが出来るのだ。
……リー…………タリー………?
「レタリー?」
「は、はいっ」
私を呼ぶ声の方へと慌てて向けば、ヨミ様がいらっしゃった。真っ赤な瞳を心配そうに細めて、美しいお顔を曇らせてしまっている。
「大丈夫か? ぼうっとして……何か、問題でもあったのか?」
「いっ、いえ、何も。本会場、東、西、南、北……各エリアの特設会場、及び全てのシアターも問題ございません」
「そうか、良かった」
ヨミ様が明るい声で「いくら呼んでも、ずうっと上の空であったからな、心配したぞ」と笑う。隣にいらっしゃるサタン様も、バアル様とアオイ様も、グリムさん達も安心したように微笑んでいた。
……不覚。またしても、感慨に浸り過ぎてしまうとは。
本日に至るまでのお二方の歩みを、陰ながら拝見させて頂いていたからだろう。存外、私は舞い上がってしまっているらしい。とはいえ、今は反省すべき時ではない。
「……失礼致しました。投影石の方も問題なく稼働中とのことです」
「ほっほ、順調そうでなによりじゃの。それで、サイトの方はどうなんじゃ?」
「ええ、そちらも問題なく」
「……サイト?」
改めて報告を、そしてサタン様の質問に答えようとしていた矢先に上がった疑問の声。
その正体はアオイ様だった。反射的に視線を向けていた私と目が合った瞬間、小さな手で申し訳なさそうにご自身の口を覆った。邪魔をしてしまったと思われたのだろう。
ヨミ様が促すように私の肩を叩く。ご説明しようと口を開きかけたところ、弾んだ声が加わってきた。
「アオイ様、これですよっ!」
グリムさんがアオイ様へと差し出した投影石。薄紫色の結晶から放たれている光の中には、件の公式サイトが映っていた。
「……これ? これが、さっきレタリーさんが言ってたサイト……ですか?」
「王室が運営している公式サイトですね。普段は、此方でヨミ様やサタン様のオフショットを公開されていたり、公式グッズの販売情報などを載せていたりしてますね」
「へぇ……ん? ……この、映っている会場って、まさか……」
「私とアオイ様が、本日魂の契約を交わす場でございますね。私達の儀式の模様を、投影石にて国内の全エリアに中継なさるそうですから……そちらの映像でしょう」
私の出る幕はなかったようだ。
続くクロウさん、バアル様の的確なご説明により、アオイ様は把握なされたご様子。成る程と頷いてから、丸い目をさらに丸くなさっている。
「ぜ、全エリア? ってことは、ホントに国の皆さん方に、お披露目を?」
「うむっ、当然だ! 大事な私達の家族である、バアルとアオイ殿の晴れ舞台なのだからな!」
大きく羽を広げ、艶のある黒髪を、金糸で彩られたマントを靡かせるヨミ様。通りの良い声が歌うように紡いだ言葉に、アオイ様は顔を真っ赤に染めている。
けれども、すぐにはにかむ笑顔を引き締められた。澄んだ琥珀色の瞳には真剣な輝きが宿っている。
「……じゃあ、ますますカッコよく決めないとですね」
「……左様でございますね」
手を取り見つめ合い、微笑み合うお二方。
白と青、我が国において希望と永遠の象徴たる色を。ヨミ様が、かねてよりデザインから使われる生地まで、入念にご準備なさって制作された衣装を纏うお二方。
ああ……ようやく、この日を迎えることが出来たのだ。
気を抜けば、満たされるような心地に浸りたくなってしまう。刹那のようで濃密だった、アオイ様が来られてからの日々が、脳裏を巡りそうになる。
何をしている、レタリー。まだ、始まってもいないだろう。
熱くなりかけていた目を閉じ、深く呼吸を繰り返す。私は両の口角を軽く持ち上げ、お二方を見つめた。
「では……その為にも、段取りの最終確認を致しましょうか」
「はいっ」
「宜しくお願い致します」
本会場は問題なし。担当者からは滞りなく招待客の入場が進んでいるとのこと。
本日の為に用意した、特注の投影石も順調そのもの。本会場の様子をリアルタイムに各エリアの特設会場やシアターへと映しているとの報告が、特設会場とシアターの担当者からそれぞれ送られてきていた。
公式サイトの方も問題はないようだ。実際に投影石でアクセスしてみたところ、雑音も画像の乱れもなく会場の様子が見れているとのこと。
これで、本日の儀式の模様を全ての国民が見ることが出来る。
特設会場やシアターへと足を運べなかった者はサイトの生中継で、時間が合わず中継を見られない者は録画映像で、記念すべき瞬間を、バアル様とアオイ様が永遠の契りを交わす瞬間を、共に見ることが出来るのだ。
……リー…………タリー………?
「レタリー?」
「は、はいっ」
私を呼ぶ声の方へと慌てて向けば、ヨミ様がいらっしゃった。真っ赤な瞳を心配そうに細めて、美しいお顔を曇らせてしまっている。
「大丈夫か? ぼうっとして……何か、問題でもあったのか?」
「いっ、いえ、何も。本会場、東、西、南、北……各エリアの特設会場、及び全てのシアターも問題ございません」
「そうか、良かった」
ヨミ様が明るい声で「いくら呼んでも、ずうっと上の空であったからな、心配したぞ」と笑う。隣にいらっしゃるサタン様も、バアル様とアオイ様も、グリムさん達も安心したように微笑んでいた。
……不覚。またしても、感慨に浸り過ぎてしまうとは。
本日に至るまでのお二方の歩みを、陰ながら拝見させて頂いていたからだろう。存外、私は舞い上がってしまっているらしい。とはいえ、今は反省すべき時ではない。
「……失礼致しました。投影石の方も問題なく稼働中とのことです」
「ほっほ、順調そうでなによりじゃの。それで、サイトの方はどうなんじゃ?」
「ええ、そちらも問題なく」
「……サイト?」
改めて報告を、そしてサタン様の質問に答えようとしていた矢先に上がった疑問の声。
その正体はアオイ様だった。反射的に視線を向けていた私と目が合った瞬間、小さな手で申し訳なさそうにご自身の口を覆った。邪魔をしてしまったと思われたのだろう。
ヨミ様が促すように私の肩を叩く。ご説明しようと口を開きかけたところ、弾んだ声が加わってきた。
「アオイ様、これですよっ!」
グリムさんがアオイ様へと差し出した投影石。薄紫色の結晶から放たれている光の中には、件の公式サイトが映っていた。
「……これ? これが、さっきレタリーさんが言ってたサイト……ですか?」
「王室が運営している公式サイトですね。普段は、此方でヨミ様やサタン様のオフショットを公開されていたり、公式グッズの販売情報などを載せていたりしてますね」
「へぇ……ん? ……この、映っている会場って、まさか……」
「私とアオイ様が、本日魂の契約を交わす場でございますね。私達の儀式の模様を、投影石にて国内の全エリアに中継なさるそうですから……そちらの映像でしょう」
私の出る幕はなかったようだ。
続くクロウさん、バアル様の的確なご説明により、アオイ様は把握なされたご様子。成る程と頷いてから、丸い目をさらに丸くなさっている。
「ぜ、全エリア? ってことは、ホントに国の皆さん方に、お披露目を?」
「うむっ、当然だ! 大事な私達の家族である、バアルとアオイ殿の晴れ舞台なのだからな!」
大きく羽を広げ、艶のある黒髪を、金糸で彩られたマントを靡かせるヨミ様。通りの良い声が歌うように紡いだ言葉に、アオイ様は顔を真っ赤に染めている。
けれども、すぐにはにかむ笑顔を引き締められた。澄んだ琥珀色の瞳には真剣な輝きが宿っている。
「……じゃあ、ますますカッコよく決めないとですね」
「……左様でございますね」
手を取り見つめ合い、微笑み合うお二方。
白と青、我が国において希望と永遠の象徴たる色を。ヨミ様が、かねてよりデザインから使われる生地まで、入念にご準備なさって制作された衣装を纏うお二方。
ああ……ようやく、この日を迎えることが出来たのだ。
気を抜けば、満たされるような心地に浸りたくなってしまう。刹那のようで濃密だった、アオイ様が来られてからの日々が、脳裏を巡りそうになる。
何をしている、レタリー。まだ、始まってもいないだろう。
熱くなりかけていた目を閉じ、深く呼吸を繰り返す。私は両の口角を軽く持ち上げ、お二方を見つめた。
「では……その為にも、段取りの最終確認を致しましょうか」
「はいっ」
「宜しくお願い致します」
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