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ムキになって墓穴を掘る
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「大変、失礼致しました……」
軽く咳払いをして、レタリーさんは黒いジャケットの胸ポケットからハンカチーフを取り出し、目元を拭った。泣くほど面白かったのか。
ハンカチーフと入れ替わりで取り出したのは銀の櫛。バアルさんが愛用しているものと似ているソレで、手早く短めのアシンメトリーな髪を整えてから、そちらも懐へ。立ち上がり、胸に手を当てお辞儀をした。
「いやはや……まさか、そもそも私のことを疑ってすらいらっしゃらなかったとは……それほどまでに私めに信頼を置いて頂けていたとは……身に余る光栄に存じます」
「いや、だってレタリーさんですし……仮に術にかかっていなかったとしても、何かそうせざるを得ない理由があるのかなって思うじゃないですか……」
レタリーさんの黄緑色の睫毛がぱちぱち瞬く。タレ目の瞳が食い入るように俺を見つめている。また、なにか変なことを言ってしまったんだろうか。
不意に柔らかいラインを描いていた唇からクスリと笑みがこぼれた。レタリーさんはどこか擽ったそうに瞳を細めてから、ほっそりとした顎に指を当てた。
「成る程、それで先程も私の発言をそのまま信じて頂けたのですね。今の私にはバアル様のご無事を証明したくとも、証拠が何一つございませんのに」
「う……」
確かに言われて見れば。言葉だけでなら、いくらでも嘘をつけるよな。思いもしなかったけど。
顔に出ていたんだろう。レタリーさんは更に笑みを深めた。また、さっきみたく笑い出しそう。
「で、でも、レタリーさん……ヨミ様のこと大好きじゃないですか。サタン様とバアルさんのことも」
「はい? それは……勿論、私の身を捧げても惜しくはないほど、尊敬して止みませんが……」
言葉の先を促す眼差しはきょとんとしている。繋がらないって顔だ。
気恥ずかしさからか、俺は妙にムキになってしまっていた。レタリーさんを全面的に信じられる根拠を言おうとしていた。けれども、今更になって気づいてしまった。
もう、ちゃんと説明しなければ、どうしようもない状態に陥ってから気づいてしまったのだ。その根拠が、ますます自分を追い込んでしまうことに。
「アオイ様?」
「……い、いや……だから、レタリーさんだったら……絶対にしないじゃないですか……」
「何を、でしょう?」
「う……」
単純な好奇心からくるであろう眼差しが、問いかけが、悪足掻きする俺に白状しろと迫ってくる。
なんなら姿勢もだ。いつの間にかレタリーさんは跪き、俯きかかっている俺を曇のない瞳で見上げていた。彼の後ろで色鮮やかな尾羽根が、興味津々なご様子で左右にふわふわ揺れている。
湯気が出てきそうなくらいに熱くなった頭の中で、何かがぷつんと切れるような音がした。
「よ、ヨミ様達が、悲しむようなことをっですよっ!」
自棄になった俺は声を大にしていた。そして、一気に捲し立てようとした。
「だからっ、俺に酷いこと……なんて、しないかなって……自分で、言うのも……なん、ですけど……」
けれどもすぐさま失速し、萎んでいってしまったのだけれど。
そして、予想通りというか。これまた盛大に吹き出され、笑われてしまったのだけれど。
軽く咳払いをして、レタリーさんは黒いジャケットの胸ポケットからハンカチーフを取り出し、目元を拭った。泣くほど面白かったのか。
ハンカチーフと入れ替わりで取り出したのは銀の櫛。バアルさんが愛用しているものと似ているソレで、手早く短めのアシンメトリーな髪を整えてから、そちらも懐へ。立ち上がり、胸に手を当てお辞儀をした。
「いやはや……まさか、そもそも私のことを疑ってすらいらっしゃらなかったとは……それほどまでに私めに信頼を置いて頂けていたとは……身に余る光栄に存じます」
「いや、だってレタリーさんですし……仮に術にかかっていなかったとしても、何かそうせざるを得ない理由があるのかなって思うじゃないですか……」
レタリーさんの黄緑色の睫毛がぱちぱち瞬く。タレ目の瞳が食い入るように俺を見つめている。また、なにか変なことを言ってしまったんだろうか。
不意に柔らかいラインを描いていた唇からクスリと笑みがこぼれた。レタリーさんはどこか擽ったそうに瞳を細めてから、ほっそりとした顎に指を当てた。
「成る程、それで先程も私の発言をそのまま信じて頂けたのですね。今の私にはバアル様のご無事を証明したくとも、証拠が何一つございませんのに」
「う……」
確かに言われて見れば。言葉だけでなら、いくらでも嘘をつけるよな。思いもしなかったけど。
顔に出ていたんだろう。レタリーさんは更に笑みを深めた。また、さっきみたく笑い出しそう。
「で、でも、レタリーさん……ヨミ様のこと大好きじゃないですか。サタン様とバアルさんのことも」
「はい? それは……勿論、私の身を捧げても惜しくはないほど、尊敬して止みませんが……」
言葉の先を促す眼差しはきょとんとしている。繋がらないって顔だ。
気恥ずかしさからか、俺は妙にムキになってしまっていた。レタリーさんを全面的に信じられる根拠を言おうとしていた。けれども、今更になって気づいてしまった。
もう、ちゃんと説明しなければ、どうしようもない状態に陥ってから気づいてしまったのだ。その根拠が、ますます自分を追い込んでしまうことに。
「アオイ様?」
「……い、いや……だから、レタリーさんだったら……絶対にしないじゃないですか……」
「何を、でしょう?」
「う……」
単純な好奇心からくるであろう眼差しが、問いかけが、悪足掻きする俺に白状しろと迫ってくる。
なんなら姿勢もだ。いつの間にかレタリーさんは跪き、俯きかかっている俺を曇のない瞳で見上げていた。彼の後ろで色鮮やかな尾羽根が、興味津々なご様子で左右にふわふわ揺れている。
湯気が出てきそうなくらいに熱くなった頭の中で、何かがぷつんと切れるような音がした。
「よ、ヨミ様達が、悲しむようなことをっですよっ!」
自棄になった俺は声を大にしていた。そして、一気に捲し立てようとした。
「だからっ、俺に酷いこと……なんて、しないかなって……自分で、言うのも……なん、ですけど……」
けれどもすぐさま失速し、萎んでいってしまったのだけれど。
そして、予想通りというか。これまた盛大に吹き出され、笑われてしまったのだけれど。
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