497 / 1,047
賑やかなざわめきが聞こえても、いくつもの視線が注がれても
しおりを挟む
俺が引き止めるとは思わなかったんだろう。サタン様もヨミ様も、バアルさんですら驚いた顔をしている。
全身の温度が、一気に顔へと集まっている気がする。スゴく熱い。でも、今更止まれない。俺は俯きそうだった自分に喝を入れ、サタン様とヨミ様を見つめた。
「……ちょっとだけ、待ってくれませんか?」
サタン様がヨミ様に何やら目配せをする。ヨミ様が小さく頷いたのを確認してから、俺に向かって微笑んだ。
「うむ、ちょっとだけ……だからの?」
「ありがとうございます」
許可をもらえて、肩の力がホッと抜けた。俺が三人の元へ歩み寄った時、バアルさんがゆっくりと俺の元へと下ろされた。
「アオイ様……」
バアルさんは複雑な顔をしていた。
嬉しさと気恥ずかしさ、それから反省の色も混じったような。そのせいか、濃くなってしまっていた。高い鼻筋や渋い目尻のシワを際立たせている影が、くっきりと。
今日は大豊作だな。先程のネコちゃんなバアルさんといい、また彼の見たことのない一面が見られるなんて。
気分が高揚しているからか、自然と俺は彼の手を取りお願いしていた。
「バアルさん、ちょっと屈んでくれませんか?」
「? はい……これで宜しいでしょう、か」
逞しい背を曲げ、膝を軽く折り、近づいてきてくれたバアルさん。彼のしっとりとした頬を包み込むように両の手を添え、口づける。
形のいい唇と触れ合った瞬間、賑やかなざわめきが聞こえたけれど、いくつもの視線が注がれていくのを感じたけれど、気にならなかった。
そんな場合じゃなかった。嬉しくて仕方がなかったんだ。
沈んでいた緑の瞳が、途端に鮮やかな煌めきを取り戻したんだから。色をなくしていた頬が、見る見る内に赤く染まっていったんだから。
バアルさんの表情が、喜びで一色になったんだから。
「……終わったら、またしてあげます。だから、あの服を着こなすカッコいいバアルさんを、俺に見せて下さい」
「っ……」
息を飲む音が聞こえて、すぐだった。バアルさんが素早く背筋を伸ばし、胸に手を当て、お手本のように美しいお辞儀を披露する。
触覚を弾ませ、水晶のように透き通った羽をはためかせながら、俺の手を恭しく握った。
「畏まりました。愛しい貴方様の願い、このバアル全身全霊をかけ、必ずや叶えて見せます」
歌うように言葉を紡ぎ、流れるような動作で手の甲にキスを送ってくれる。
もう、本調子だ。気がつけば、彼のペースになってしまっている。その言動に、柔らかい微笑みに、心を擽られてしまう。
「た、楽しみにしてますね……あと、俺も……その……」
「ええ。勿論、楽しみにしておりますよ。アオイ様のカッコよくて可愛らしい晴れ姿を、この目で拝見出来るのを」
「ありがとう、ございます……」
もう一度、頬にキスを送ってくれてから、バアルさんはサタン様とヨミ様の後ろに控えるように歩きながら、俺の控室を後にした。その足取りは軽やかで、まるでダンスのステップを踏んでいるみたいだった。
「いやぁ……なんつーか、色々とレアなものが見れましたね」
「やっぱりバアル様も、アオイ様のことが大好きなんですね!」
固まってしまっていた俺にクロウさんが声をかけてくれる。続けてグリムさんが満面の笑みを見せてくれる。コルテも楽しそうにキラキラ輝きながら、俺の周囲を飛び回っていた。
嬉しいやら、照れくさいやら。笑みを返すことしか出来なくなっている俺に「では、早速お召し替えしましょう! このレタリーにお任せ下さい!」と黄緑色の尾羽根を揺らしながら、レタリーさんがお辞儀をした。
全身の温度が、一気に顔へと集まっている気がする。スゴく熱い。でも、今更止まれない。俺は俯きそうだった自分に喝を入れ、サタン様とヨミ様を見つめた。
「……ちょっとだけ、待ってくれませんか?」
サタン様がヨミ様に何やら目配せをする。ヨミ様が小さく頷いたのを確認してから、俺に向かって微笑んだ。
「うむ、ちょっとだけ……だからの?」
「ありがとうございます」
許可をもらえて、肩の力がホッと抜けた。俺が三人の元へ歩み寄った時、バアルさんがゆっくりと俺の元へと下ろされた。
「アオイ様……」
バアルさんは複雑な顔をしていた。
嬉しさと気恥ずかしさ、それから反省の色も混じったような。そのせいか、濃くなってしまっていた。高い鼻筋や渋い目尻のシワを際立たせている影が、くっきりと。
今日は大豊作だな。先程のネコちゃんなバアルさんといい、また彼の見たことのない一面が見られるなんて。
気分が高揚しているからか、自然と俺は彼の手を取りお願いしていた。
「バアルさん、ちょっと屈んでくれませんか?」
「? はい……これで宜しいでしょう、か」
逞しい背を曲げ、膝を軽く折り、近づいてきてくれたバアルさん。彼のしっとりとした頬を包み込むように両の手を添え、口づける。
形のいい唇と触れ合った瞬間、賑やかなざわめきが聞こえたけれど、いくつもの視線が注がれていくのを感じたけれど、気にならなかった。
そんな場合じゃなかった。嬉しくて仕方がなかったんだ。
沈んでいた緑の瞳が、途端に鮮やかな煌めきを取り戻したんだから。色をなくしていた頬が、見る見る内に赤く染まっていったんだから。
バアルさんの表情が、喜びで一色になったんだから。
「……終わったら、またしてあげます。だから、あの服を着こなすカッコいいバアルさんを、俺に見せて下さい」
「っ……」
息を飲む音が聞こえて、すぐだった。バアルさんが素早く背筋を伸ばし、胸に手を当て、お手本のように美しいお辞儀を披露する。
触覚を弾ませ、水晶のように透き通った羽をはためかせながら、俺の手を恭しく握った。
「畏まりました。愛しい貴方様の願い、このバアル全身全霊をかけ、必ずや叶えて見せます」
歌うように言葉を紡ぎ、流れるような動作で手の甲にキスを送ってくれる。
もう、本調子だ。気がつけば、彼のペースになってしまっている。その言動に、柔らかい微笑みに、心を擽られてしまう。
「た、楽しみにしてますね……あと、俺も……その……」
「ええ。勿論、楽しみにしておりますよ。アオイ様のカッコよくて可愛らしい晴れ姿を、この目で拝見出来るのを」
「ありがとう、ございます……」
もう一度、頬にキスを送ってくれてから、バアルさんはサタン様とヨミ様の後ろに控えるように歩きながら、俺の控室を後にした。その足取りは軽やかで、まるでダンスのステップを踏んでいるみたいだった。
「いやぁ……なんつーか、色々とレアなものが見れましたね」
「やっぱりバアル様も、アオイ様のことが大好きなんですね!」
固まってしまっていた俺にクロウさんが声をかけてくれる。続けてグリムさんが満面の笑みを見せてくれる。コルテも楽しそうにキラキラ輝きながら、俺の周囲を飛び回っていた。
嬉しいやら、照れくさいやら。笑みを返すことしか出来なくなっている俺に「では、早速お召し替えしましょう! このレタリーにお任せ下さい!」と黄緑色の尾羽根を揺らしながら、レタリーさんがお辞儀をした。
52
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる