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一方は後ろ髪を引かれ、もう一方は最後の最後まで足掻いて
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お二人が泣いていた理由は、すぐに分かった。
「っ……バアル様、私……全身全霊を傾けて、アオイ様の……お召し替えとヘアメイクを、させて頂きます……っ……必ずや、大事な奥方様の魅力を……最大限に引き出してみせますとも……」
ハンカチーフの色が変わるまで黄緑色の瞳を潤ませながら、バアルさんに宣言したレタリーさん。褐色の頬を濡らし、黄緑色の尾羽根を力なく下げながらも、その身に纏う執事服に見合う洗練されたお辞儀を披露した。
「バアル様っ……僕達が、側に居ますから……バアル様の代わりには、絶対になれないけど……アオイ様のお側に居ますから……どうか、安心して着替えて下さい……」
続いてクロウさんの手を引きながら、俺達の前へと歩み出たグリムさん。小柄な身体を震わせながら、薄紫の睫毛を震わせながらも、真っ直ぐな瞳を向けてくれる。
グリムさんの頭を撫でながら、クロウさんが気恥ずかしそうに瞳を細めた。
「あー……支度部屋は隣同士ですから、何かあったらすぐに連絡しますね」
そう、二人は呑まれてしまっていたのだ。俺と一緒でバアルさんの雰囲気に、彼が纏う寂し気で儚いオーラに流されてしまっていたのだ。
もう当分、バアルさんとは会えなくなってしまうような気分になっていたのだ。実際は、別々の支度部屋で着替えとヘアメイクをするってだけなのにさ。
そして、いまだに呑み込まれたままらしかった。
「ありがとうございます……どうか、私の妻を宜しくお願い致します」
「っ……お任せ下さい!」
「……はいっ!」
なんせ、俺の肩を抱き寄せながら会釈したバアルさんに、涙ぐみながら答えていらっしゃるからな。
俺の方へも向けられた黄緑と薄紫の眼差し。並々ならぬ熱意のこもった視線に、余計に顔が熱くなってしまう。お二人の気持ちはスゴく嬉しいんだけどさ。
「コルテも、宜しくお願いしますね……」
いつの間にか俺達の前に、宙に浮かんでいた緑に輝く粒。バアルさんの忠実なる従者である小さな小さなハエ。コルテがメタリックな光沢を帯びた緑色の身体を煌めかせ、硝子細工のように綺麗で透明な羽をぴるぴるはためかせている。
俺達の前でくるくると飛び、小さな身体から発する光の軌跡で、宙に大きな丸を描いていく。気合い十分なご様子だ。
さて、皆さんへのご挨拶? も済んだことだし、俺も準備にかからないとな。まあ、ほとんど椅子に座ってるだけになっちゃうんだろうけどさ。
因みに俺の控室はここだ。
控室って名前にしては、十分な広さがある。俺がヘアメイクをしてもらうであろう、大きな鏡台の存在感が霞んでしまうくらい。更には、皆さんとお茶会が出来そうなソファーやテーブルもある。多分、お隣のバアルさんの控室も似たような作りなんだろう。
ふと見上げた途端にかち合う眼差し。はたと見開いた緑の瞳が、ゆるりと微笑みかけてくれる。
……せっかくだし、扉の近くまでお見送りしようかな。
後ろ髪を引かれるような考えが浮かんだのは、まだ先程の空気を引きずっているからだろうか。
「あの、バアルさん……」
「では、アオイ様……今一度、御身を」
俺が口を開いたのと同時だった彼のお願い。何度目かのそれが遮られ、更には引き離されることになる。
「すまない、バアル……召し替え終えたら、時間いっぱいまでアオイ殿と戯れ合って良いからな……」
眉間にシワを寄せ、泣く泣く告げたヨミ様の号令によって。
「父上、頼みます!」
「うむっ! すまんの、バアル。ちょいと失礼するぞ」
お腹の中心まで響くような重低音、サタン様の元気なお返事が聞こえたかと思えば、バアルさんが浮いていた。
「っ……バアル様、私……全身全霊を傾けて、アオイ様の……お召し替えとヘアメイクを、させて頂きます……っ……必ずや、大事な奥方様の魅力を……最大限に引き出してみせますとも……」
ハンカチーフの色が変わるまで黄緑色の瞳を潤ませながら、バアルさんに宣言したレタリーさん。褐色の頬を濡らし、黄緑色の尾羽根を力なく下げながらも、その身に纏う執事服に見合う洗練されたお辞儀を披露した。
「バアル様っ……僕達が、側に居ますから……バアル様の代わりには、絶対になれないけど……アオイ様のお側に居ますから……どうか、安心して着替えて下さい……」
続いてクロウさんの手を引きながら、俺達の前へと歩み出たグリムさん。小柄な身体を震わせながら、薄紫の睫毛を震わせながらも、真っ直ぐな瞳を向けてくれる。
グリムさんの頭を撫でながら、クロウさんが気恥ずかしそうに瞳を細めた。
「あー……支度部屋は隣同士ですから、何かあったらすぐに連絡しますね」
そう、二人は呑まれてしまっていたのだ。俺と一緒でバアルさんの雰囲気に、彼が纏う寂し気で儚いオーラに流されてしまっていたのだ。
もう当分、バアルさんとは会えなくなってしまうような気分になっていたのだ。実際は、別々の支度部屋で着替えとヘアメイクをするってだけなのにさ。
そして、いまだに呑み込まれたままらしかった。
「ありがとうございます……どうか、私の妻を宜しくお願い致します」
「っ……お任せ下さい!」
「……はいっ!」
なんせ、俺の肩を抱き寄せながら会釈したバアルさんに、涙ぐみながら答えていらっしゃるからな。
俺の方へも向けられた黄緑と薄紫の眼差し。並々ならぬ熱意のこもった視線に、余計に顔が熱くなってしまう。お二人の気持ちはスゴく嬉しいんだけどさ。
「コルテも、宜しくお願いしますね……」
いつの間にか俺達の前に、宙に浮かんでいた緑に輝く粒。バアルさんの忠実なる従者である小さな小さなハエ。コルテがメタリックな光沢を帯びた緑色の身体を煌めかせ、硝子細工のように綺麗で透明な羽をぴるぴるはためかせている。
俺達の前でくるくると飛び、小さな身体から発する光の軌跡で、宙に大きな丸を描いていく。気合い十分なご様子だ。
さて、皆さんへのご挨拶? も済んだことだし、俺も準備にかからないとな。まあ、ほとんど椅子に座ってるだけになっちゃうんだろうけどさ。
因みに俺の控室はここだ。
控室って名前にしては、十分な広さがある。俺がヘアメイクをしてもらうであろう、大きな鏡台の存在感が霞んでしまうくらい。更には、皆さんとお茶会が出来そうなソファーやテーブルもある。多分、お隣のバアルさんの控室も似たような作りなんだろう。
ふと見上げた途端にかち合う眼差し。はたと見開いた緑の瞳が、ゆるりと微笑みかけてくれる。
……せっかくだし、扉の近くまでお見送りしようかな。
後ろ髪を引かれるような考えが浮かんだのは、まだ先程の空気を引きずっているからだろうか。
「あの、バアルさん……」
「では、アオイ様……今一度、御身を」
俺が口を開いたのと同時だった彼のお願い。何度目かのそれが遮られ、更には引き離されることになる。
「すまない、バアル……召し替え終えたら、時間いっぱいまでアオイ殿と戯れ合って良いからな……」
眉間にシワを寄せ、泣く泣く告げたヨミ様の号令によって。
「父上、頼みます!」
「うむっ! すまんの、バアル。ちょいと失礼するぞ」
お腹の中心まで響くような重低音、サタン様の元気なお返事が聞こえたかと思えば、バアルさんが浮いていた。
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