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でなければ、出会えなかった

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「……浄化の炎は神の手から離れても、穢れを集め、燃やし尽くします。こうして穢れを一箇所に、地の果てへと集めることに成功したのです」

「スゴいですね、バアルさん達の神様って……」

 いや、神様なんだから、当たり前だろうけど。

 月並みな感想しか出てこない自分にツッコんでいると、バアルさんが「ええ、凄いのです」とご満悦そうに口の端を持ち上げ、触覚を弾ませた。かわいい。

 俺が表情筋を溶かしている間にも、お話は続いていく。

「罪ある魂達から、私達の祖先を引き離す為の対策も致しました。まず神は、地の果てに至るまでの道中、地中深くへと業火の炎を宿しました。そして、天の神に頼みました。魂達を落とす場所を、業火の炎が吹き出す大地のみにしてもらったのです」

 地面から炎が……ということは、あの時……俺がこの世界に落ちてきた時に見た炎が、業火の炎だったのか。

「じゃあ……俺が、最初にバアルさんと出会えた場所って」

「はい。地の果てに至るまでの道……私達は、裁きの大地と呼んでおります」

「裁きの……大地……」

 ……言い得て妙ってヤツだ。

 いまだに脳裏にこびりついている光景。顔や姿も判別出来ない程に、真っ赤な炎によって燃やされ続けている人々。

 そして、耳に残っている悲鳴。赦しを請う叫びがそこかしこから聞こえていたあの地は、そう呼ばれるにふさわしい場所だった。

「私達が誤って招いた貴方様は、全く罪に染まっておりませんでした。ですが、はるか昔からの約束により、魂が落ちる場所は決まっていたのでございます」

「それで、俺もあそこに……」

「はい……申し訳ご」

「ほい、ストップ」

 悲しく歪みかけていた唇に、軽く人差し指を当てて塞ぐ。

「もう、ナシですよ。多分、いや、きっと……あの日の全部は、俺がバアルさんと会う為に必要なことだったんですから」

 でなければ、出会えなかった。

 俺とバアルさんの行く道が交わることも、手を取り共に歩んでいくことも出来なかったんだから。

「アオイ……」

 吸い寄せられるみたいに、距離を詰めてきた唇を受け入れる。

 掻き抱くように俺の背を抱き寄せ、夢中で求めてくれる彼に俺も応えた。引き締まった首に腕を絡めて、自分から柔らかい体温に押しつける。

 じゃれ合うような触れ合いの合間に、尋ねてみる。

「ん……ふふ……それで、お話は終わりですか?」

 細められていた瞳が、はたと見開いた。

「っ……失礼致しました……もう少々、続きがございます」

 名残惜しそうに俺を離すと、少し顔を背けて咳払い。再び俺を見つめた眼差しには、まだほんのりと照れが残っていた。

「……しばらくは平和な時が続きました。ですが、年月を重ねていく程増えていく穢れに、神は不安を抱いておりました。そこで、決心なされたのでございます」

 言葉を切り、軽く息を吸ってから続ける。

「御自身の生命力全てを魔力に変え、浄化の炎を燃やし続けることを」

「自分自身が、炎になったってこと……ですか」

「そのお考えで宜しいかと。ですが、その為には器となっている身体が邪魔でした」

 あ、この流れって。

「そこで、また自分の身体で?」

「はい。民を増やしたのは勿論でございますが、とある者には御自身の力の一部を、時を操る力を与えました」

「え……それって、バアルさんと同じ……」

「はい」

 予感は的中した。けれども、まさか彼のルーツを知れるとは。

 びっくりした顔が、よっぽど変だったんだろうか。バアルさんがクスクス笑い始めた。堪えきれないって感じで。

「失礼……幼いヨミ様にこちらのお話をした際も、今の貴方様のように瞳を輝かせておりました故」

 ひとしきり笑ってから、バアルさんは胸に手を当て頭を下げた。

 なんだ、思い出し笑いだったのか。別に、謝らなくてもいいのにな。

「あ……えっと、すみません」

 何となく釣られて頭を下げると、よしよしと撫でてもらえた。

「いえ、私自身も大変光栄に存じております」

 そう言って、目尻のシワを深めたバアルさんの表情は、どこか誇らしげに見えた。
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