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ほのぼの路線かと思いきや
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いや、多いけれど。御伽噺ってオリジナルの方が怖くて、子供向けにマイルドな表現にされてるってのが多いけれども。
思いがけない急展開に、開いた口が塞がらない。けれどもバアルさんは、なんてことないように物語を紡いでいく。
「初めて生まれた、御自身と似た姿形の生命。私達の祖先の誕生に、我らが神は大いに喜びました。しかし、同時に不安を覚えたのでございます。こんなに小さくか弱い生命達が、この世界で生きていくことが出来るのかと」
「……ああ、確かに。何も無い世界って話でしたもんね」
気がつけば、再び俺も話に加わっていた。
あんまりにも普通に話すもんだから、ゆったりと俺の背を撫でてくれるもんだから、驚きよりも勝ってしまっていたのだ。話の続きへの興味が。
「ええ。そこで我らが神は、大地を作ることに致しました。愛する我が子達の顔をもっとよく見たいと、太陽も作られました」
どこか擽ったそうに微笑みながら「浄化の炎の灯りだけでは、世界の全てを照らせなかったそうです」と続ける。
神様相手に失礼なのは承知だけど、動機が可愛いな。やってることは、とんでもないスケールの大きさなのに。
『我らが神は、この国を……ここに住まう民を愛する者を愛し、祝福すると伝えられておるからな』
以前、ヨミ様が言っていた言葉通りだな。バアルさん達だけじゃない。この国を作った神様も、愛にあふれた方なんだ。
「ですが、ここで問題が生じます」
「え、問題?」
低くなった声のトーンと意味深な前振りに、反射的に聞き返していた。
ほのぼのとした気分で聞いていたところだったのに。また、急展開か? いや、待てよ……まさか。
「……明る過ぎて眠れないとか、ですか?」
「ふふ、正解でございます」
良かった。まだ、ほのぼの路線だった。
気が抜けたからだろうか。嬉しそうに微笑むバアルさんの周囲で、花が舞っているように見えてしまう。が、のんびり構えていられたのもつかの間だった。
「神は、御自身の魔力の高さ故に、肉体的な休息や栄養を必要としなかったのですが、神から離れた私達の祖先は違います。睡眠も食事も必要不可欠だったのです。それらを十分に得ることが出来ていなかった私達の祖先は、日に日に弱っていきました」
めっちゃ深刻じゃないですか。死活問題じゃないですか。
「そ、それで? バアルさん達の祖先さん達はどうなったんですか? 大丈夫、なんですよね?」
完全に俺は冷静さを欠いていた。バアルさんが紡ぐ物語にのめり込んでしまっていたのだ。
悲哀に満ちた声で語る彼の迫力と雰囲気に、すっかり呑まれてしまっていたのだ。
結果は考えるまでもないってのに。バアルさん達が暮らしているのだから、大丈夫だったっていうのは確定事項なのにさ。
「ふふ……大丈夫ですよ。ちゃんと我らが神が手を打ちますので」
宝石よりも美しい緑の瞳が、どこか微笑ましそうに俺を見つめる。整った指先で、俺の頬にかかっていた髪を耳にかけてくれてから、再び語り始める。
「……慌てた神は、魔力のこもった作物や果物、大きな川を生み出しました。一定の時間が経つと日が沈むようにも致しました。こうして大地に豊かな緑と水が、世界に夜が生まれたのでございます。十分な食事と睡眠を取ることが出来た私達の祖先は、見る見る内に元気を取り戻しました」
「……良かった」
「……ええ。我が子達に笑顔が戻り、我らが神もようやくひと安心……という矢先でございました」
「え……また、何か問題が起こったんですか?」
今度もまた、死活問題だった。
「はい……穢れでございます」
思いがけない急展開に、開いた口が塞がらない。けれどもバアルさんは、なんてことないように物語を紡いでいく。
「初めて生まれた、御自身と似た姿形の生命。私達の祖先の誕生に、我らが神は大いに喜びました。しかし、同時に不安を覚えたのでございます。こんなに小さくか弱い生命達が、この世界で生きていくことが出来るのかと」
「……ああ、確かに。何も無い世界って話でしたもんね」
気がつけば、再び俺も話に加わっていた。
あんまりにも普通に話すもんだから、ゆったりと俺の背を撫でてくれるもんだから、驚きよりも勝ってしまっていたのだ。話の続きへの興味が。
「ええ。そこで我らが神は、大地を作ることに致しました。愛する我が子達の顔をもっとよく見たいと、太陽も作られました」
どこか擽ったそうに微笑みながら「浄化の炎の灯りだけでは、世界の全てを照らせなかったそうです」と続ける。
神様相手に失礼なのは承知だけど、動機が可愛いな。やってることは、とんでもないスケールの大きさなのに。
『我らが神は、この国を……ここに住まう民を愛する者を愛し、祝福すると伝えられておるからな』
以前、ヨミ様が言っていた言葉通りだな。バアルさん達だけじゃない。この国を作った神様も、愛にあふれた方なんだ。
「ですが、ここで問題が生じます」
「え、問題?」
低くなった声のトーンと意味深な前振りに、反射的に聞き返していた。
ほのぼのとした気分で聞いていたところだったのに。また、急展開か? いや、待てよ……まさか。
「……明る過ぎて眠れないとか、ですか?」
「ふふ、正解でございます」
良かった。まだ、ほのぼの路線だった。
気が抜けたからだろうか。嬉しそうに微笑むバアルさんの周囲で、花が舞っているように見えてしまう。が、のんびり構えていられたのもつかの間だった。
「神は、御自身の魔力の高さ故に、肉体的な休息や栄養を必要としなかったのですが、神から離れた私達の祖先は違います。睡眠も食事も必要不可欠だったのです。それらを十分に得ることが出来ていなかった私達の祖先は、日に日に弱っていきました」
めっちゃ深刻じゃないですか。死活問題じゃないですか。
「そ、それで? バアルさん達の祖先さん達はどうなったんですか? 大丈夫、なんですよね?」
完全に俺は冷静さを欠いていた。バアルさんが紡ぐ物語にのめり込んでしまっていたのだ。
悲哀に満ちた声で語る彼の迫力と雰囲気に、すっかり呑まれてしまっていたのだ。
結果は考えるまでもないってのに。バアルさん達が暮らしているのだから、大丈夫だったっていうのは確定事項なのにさ。
「ふふ……大丈夫ですよ。ちゃんと我らが神が手を打ちますので」
宝石よりも美しい緑の瞳が、どこか微笑ましそうに俺を見つめる。整った指先で、俺の頬にかかっていた髪を耳にかけてくれてから、再び語り始める。
「……慌てた神は、魔力のこもった作物や果物、大きな川を生み出しました。一定の時間が経つと日が沈むようにも致しました。こうして大地に豊かな緑と水が、世界に夜が生まれたのでございます。十分な食事と睡眠を取ることが出来た私達の祖先は、見る見る内に元気を取り戻しました」
「……良かった」
「……ええ。我が子達に笑顔が戻り、我らが神もようやくひと安心……という矢先でございました」
「え……また、何か問題が起こったんですか?」
今度もまた、死活問題だった。
「はい……穢れでございます」
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