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期待はしていたさ、でも、まさか完全に上回られるなんて
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暗く静かな室内で聞こえるのは、静かな吐息と温かい鼓動だけ。指先が髪を梳いてくれている音も、手のひらが優しく背を叩いてくれている音も、もう聞こえてはいない。いつから聞こえなくなったのかは分からない。
気がついた時には、止まってしまっていたから。長く引き締まった腕で俺を包みこんでくれている、バアルさんの手が。
いつもより、床につく時間が早かったからだろうか。眠りが浅かったらしい。いつ眠れたかは覚えていない。けれども、部屋の暗さからみて、さほど時間は経っていないであろうことが窺えた。
……やっぱり、緊張しちゃってるのかな。明日は、特別な日になるから。バアルさんと俺にとって。
だからこそ、眠らなければ。冴えてしまっている意識をもう一度沈ませようと目を閉じる。
安心する体温を感じながら、ハーブの匂いに包まれながら、羽のように軽い布団をかぶり、肌触りの良いシーツに覆われたベッドへ身を預ける。
だひたすらに安らかなハズのひと時が、今夜ばかりは妙に落ち着かない。眠れない。待っていさえすればイヤでもやって来る、朝までの時間が長く感じてしまう。
もう、彼は夢の中だろう。分ってはいるけれど、我慢出来なくなってしまう。
彼の声が聞きたい。あの鮮やかな緑の瞳に俺を映して欲しい。柔かく微笑んで、頭を撫でてもらいたい。キスして欲しい。
……寂しい。
「ねぇ、バアル……」
「はい、私の愛しい妻。貴方様のバアルは、ここに」
気がつけば声に出てしまっていた俺の我が儘は、あっさりと叶えられた。
耳心地のいい低音が応えてくれたかと思えば、鍛え上げられた長身を屈め、彫りの深い顔が擦り寄ってきてくれる。額が重なり、高い鼻先と触れ合った。
「っ……」
「いかがなさいましたか、アオイ」
息を飲んでいた俺を、銀糸のように美しい睫毛に縁取られた緑の瞳が見つめている。白い髭を蓄えた口元を綻ばせ、温かい手のひらで俺の頭を撫でてくれる。額に、頬にと口づけてくれる。
期待はしていたさ。
だって、バアルさんは、どんな時でも俺を優先してくれてしまう優しい人だから。
それに彼曰く、分かるらしいのだ。身体は完全に眠っていても、俺の気配というか、魔力の流れというか。とにかく、俺が起きたかどうかくらいは簡単に分かってしまうらしい。
だから、呼んだらすぐに返事をしてくれるんじゃないかなって、俺のことを構ってくれるんじゃないかなって、期待はしてた。
完全に、上回られたんだけどさ。期待も、予想も全部。
「……もしや、夢見が悪うございましたか?」
ときめきっぱなしで何も言えなかったせいだ。どこか嬉しそうに細められていた瞳に、心配の色が滲んでいく。
下ろした前髪の隙間から、ぴょこんと伸びている触覚。生え際辺りから生えている二本が、たちまち弱々しく下がっていってしまう。
慌てた俺が口を開く前に、微笑みかけられた。
「大丈夫ですよ、貴方様の側にはいつも私がいます。たとえ夢の中であろうと、馳せ参じましょうとも」
安心させるような優しい声で、けれども力強く断言してくれる。バアルさんだったら、ホントに駆けつけてくれそうだ。悪夢なんて、しなやかな指先を弾くだけで吹き飛ばしてしまいそう。
彼が術を使う時の仕草の一つであるスマートなそれを思い浮かべた途端、ますます顔が熱を持ってしまう。一気に緩んだ口元から、笑みがこぼれてしまう。
「ああ、ようやく愛らしい笑顔を見せてくれましたね。安心致しました」
気がついた時には、止まってしまっていたから。長く引き締まった腕で俺を包みこんでくれている、バアルさんの手が。
いつもより、床につく時間が早かったからだろうか。眠りが浅かったらしい。いつ眠れたかは覚えていない。けれども、部屋の暗さからみて、さほど時間は経っていないであろうことが窺えた。
……やっぱり、緊張しちゃってるのかな。明日は、特別な日になるから。バアルさんと俺にとって。
だからこそ、眠らなければ。冴えてしまっている意識をもう一度沈ませようと目を閉じる。
安心する体温を感じながら、ハーブの匂いに包まれながら、羽のように軽い布団をかぶり、肌触りの良いシーツに覆われたベッドへ身を預ける。
だひたすらに安らかなハズのひと時が、今夜ばかりは妙に落ち着かない。眠れない。待っていさえすればイヤでもやって来る、朝までの時間が長く感じてしまう。
もう、彼は夢の中だろう。分ってはいるけれど、我慢出来なくなってしまう。
彼の声が聞きたい。あの鮮やかな緑の瞳に俺を映して欲しい。柔かく微笑んで、頭を撫でてもらいたい。キスして欲しい。
……寂しい。
「ねぇ、バアル……」
「はい、私の愛しい妻。貴方様のバアルは、ここに」
気がつけば声に出てしまっていた俺の我が儘は、あっさりと叶えられた。
耳心地のいい低音が応えてくれたかと思えば、鍛え上げられた長身を屈め、彫りの深い顔が擦り寄ってきてくれる。額が重なり、高い鼻先と触れ合った。
「っ……」
「いかがなさいましたか、アオイ」
息を飲んでいた俺を、銀糸のように美しい睫毛に縁取られた緑の瞳が見つめている。白い髭を蓄えた口元を綻ばせ、温かい手のひらで俺の頭を撫でてくれる。額に、頬にと口づけてくれる。
期待はしていたさ。
だって、バアルさんは、どんな時でも俺を優先してくれてしまう優しい人だから。
それに彼曰く、分かるらしいのだ。身体は完全に眠っていても、俺の気配というか、魔力の流れというか。とにかく、俺が起きたかどうかくらいは簡単に分かってしまうらしい。
だから、呼んだらすぐに返事をしてくれるんじゃないかなって、俺のことを構ってくれるんじゃないかなって、期待はしてた。
完全に、上回られたんだけどさ。期待も、予想も全部。
「……もしや、夢見が悪うございましたか?」
ときめきっぱなしで何も言えなかったせいだ。どこか嬉しそうに細められていた瞳に、心配の色が滲んでいく。
下ろした前髪の隙間から、ぴょこんと伸びている触覚。生え際辺りから生えている二本が、たちまち弱々しく下がっていってしまう。
慌てた俺が口を開く前に、微笑みかけられた。
「大丈夫ですよ、貴方様の側にはいつも私がいます。たとえ夢の中であろうと、馳せ参じましょうとも」
安心させるような優しい声で、けれども力強く断言してくれる。バアルさんだったら、ホントに駆けつけてくれそうだ。悪夢なんて、しなやかな指先を弾くだけで吹き飛ばしてしまいそう。
彼が術を使う時の仕草の一つであるスマートなそれを思い浮かべた途端、ますます顔が熱を持ってしまう。一気に緩んだ口元から、笑みがこぼれてしまう。
「ああ、ようやく愛らしい笑顔を見せてくれましたね。安心致しました」
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