上 下
544 / 906

愛しい彼との新たな始まりの日を、皆さんと

しおりを挟む
 視界の端で、真っ白なベールがふわりと舞う。

 振り向いた先には、大好きな緑に、赤、薄紫、金に黄緑。色鮮やかな眼差し達が、皆一様に涙に滲んでいた。

 自分で言うのも何だが、姿見で確認した自分の姿は様になっていた。

 そもそもレタリーさんに仕上げてもらったのだ。今日という晴れの舞台に見合う、バアルさんの隣に堂々と立てる姿になっているに決まっている。決まっているんだが。

 ……何で、皆さん何も言ってくれないんだろう? バアルさんまで、ずっと見てるだけだし……

「……えっと……どう、ですかね……?」

 沈黙に耐えかねて尋ねた瞬間、謎の衝撃が俺を襲った。何か温かいものが全身に、胸元に、腰に、両腕に、背中に当たって締めつけられて?

 いや、抱き締められていた。

 胸元に飛び込んできていたのはバアルさん。腰にはグリムさん。右腕にクロウさん。そして左腕にヨミ様とレタリーさん。背中はサタン様。その様は、俺を中心にして皆さんで円陣を組むかのごとく。

「……ありがとう、ございます?」

 取り敢えずバアルさんの頭を撫でながら、彼らの抱擁に応えてみる。すると、ますます抱き締める力が強くなっていく。なんなら、ぐすぐすとくぐもった声も聞こえ始めた。

 こんなに喜んでくれるのは嬉しいんだけどな。とはいえ、時間は大丈夫なんだろうか。

 そんな俺の心配を読んでいたかのようだった。俺の鼻先に緑の粒が、小さな小さなハエのコルテが、ぽんっと何もなかった宙から現れる。

 針よりも細い手足が掲げる、彼専用の小さなスケッチブックには「まだ、結婚式まで余裕があるよ」と書かれていた。

「そっか……ありがとう、コルテ」

 続けて「時間が迫ってきたら、知らせるね!」と新たなメッセージを掲げてから、ピカピカ瞬くボディによる光の軌跡でハートマークを描いてから、煙のように消えていった。

 ……じゃあ、まだ少しはこのままでいいか。

 愛しいバアルさんの背中を抱き締めて、大好きな皆さんに抱き締められながら身を委ねる。今日という日を、バアルさんとの新たな始まりの日を、皆さんと迎えることが出来る幸せに。




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

処理中です...