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いや、絶対それ、手加減してくれないヤツじゃないですか

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 肉厚の大胸筋に顎を乗せたまま、彼を真っ直ぐに見上げる。鮮やかな緑の瞳とかち合った途端、銀糸のように美しい睫毛が瞬いた。

「バアルさんが思っている以上に俺、バアルさんのこと大好きなんですから。ちょっとやそっとでイヤになんて、怖がってなんてあげないんですからねっ」

「アオイ……」

「分かりましたか?」

「は、はい……深く心に刻み込みました」

「よろしい! いい子ですね」

 いつもバアルさんに褒めてもらっているからだろう。自然と口から出てしまっていた。

 それから手も。思いっ切り背伸びをして、ぼうっと俺を見つめ続けている彼の頭を撫でてしまっていた。後ろにキッチリと撫でつけた、オールバックを崩してしまった。

「じゃ、じゃあ、先に着替えましょう? キスもですけど、いっぱいぎゅってしますし、撫でちゃうんですか、ら……」

 大きな手が、俯く俺の頬に添えられた。込められた力は優しいけれども、強引に顔を上げさせられる。

 妖しく微笑む緑の瞳に見惚れた時には、もう。

「……っ……んん……ばある、ひゃ……」

 呼吸も鼓動も乱れ切った頃、ようやく彼は俺を開放してくれた。すっかり滲んだ俺の目元に口づけると、赤い舌を覗かせる。

「……遠慮なくと仰って頂けましたので」

 うっとりとした声で囁いて、バアルさんは緩やかな笑みを浮かべている唇を端だけ悪戯っぽく持ち上げる。額にも口づけてくれてから、腰が抜けかけている俺を片手で軽々と抱き上げてくれた。

 横抱きの状態で運んでくれながら軽やかに部屋の奥へと、キングサイズ以上に広いベッドへと、歩を進めていく。

 その最中で着替えまで。素肌を直接優しい風が撫でていったかと思えば、俺も彼もフォーマルで上品な礼服から、カジュアルでゆったりとした部屋着に変わっていた。

 俺はトレーナーと大きめのズボン、バアルさんは白のカッターシャツと黒いズボン。ボタンを外し、緩めている襟元からは、キレイに浮き出た鎖骨どころか、見下ろす角度のせいでご立派な胸板まで。鍛え上げられた筋肉で出来た谷間まで、チラリと見えてしまっている。

 慌てて顔を上げれば、微笑む瞳と視線がぱっちり。ますますにっこりした唇から、キスをもらってしまった。しかも、まるで浴びせるように頬、鼻の頭、目尻と余すことなく。

 じゃれるような触れ合いは、ベッドの前まで来ても止むことはない。バアルさんはご機嫌そうに触覚を揺らし、羽をはためかせながら、口づけてくれている。

 バアルさんが嬉しそうで何より。俺も嬉しくて、完全にWin-Win。なのだが。

「あの……やっぱり、ちょっぴり……お手柔らかに、お願い出来ませんか?」

 毎回、こんな風に過剰供給してもらえちゃったら、もたないんですけど。心臓が。

 はたと離れていった彼が、今度は額をくっつけ、高い鼻先を擦り寄せてくる。整えられた髭が素敵な口元に浮かぶ微笑が何だか少し艶っぽい。

「善処致します」

 いや、絶対それ、手加減してくれないヤツじゃないですか。

 つい、心の中でツッコんでしまった。

 とはいえ、すぐに仕方がないかと放り投げてしまった俺も、引き締まった首に腕を回していた俺も、お互い様なんだと思う。
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