間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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愛しい貴方は、薄い青越しでも眩しく輝いて

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 真っ白な石で出来た床の上に、真っ直ぐに敷かれた青い道。踏み心地のいい絨毯を、大きな手に引かれながら歩いていく。

 左右にいくつも並んでいる白い柱を横目に、辿り着いたのは青い祭壇。厳かな雰囲気を漂わせているそれは、シャンデリアの明かりに照らされて柔らかな光沢を帯びていた。多分、お城の壁や床に使われているものと同じ石だろう。

 その中央に祀られているのは青い杯。灯っているのは白い炎。模しているのだろう。この国にとって希望の象徴である、浄化の炎を。

 ……俺は、本物を見たことはないけどさ。

「アオイ」

 隣を見上げる前に、名を呼ばれた。静かで清らかな空気に溶けていく穏やかな低音。俺の大好きな声に。

「バアル、さん……」

 声を詰まらせかけてしまった。

 輝いて見えたんだ。俺を見つめる鮮やかな緑の瞳。優しい目元に刻まれた、カッコいいシワを深くした彼が、薄い青越しでも眩く。

 均整の取れた長身に、普段の黒いスーツではなく白い礼服を纏っている。その右肩から足首にかけて広がっているマント。静かにひらめく光沢のある布地は、晴れ渡る青空を切り取ったみたいだ。

 その出で立ちは、物語に出てくる騎士か王様か。それどころか、神秘的な神々しさすら覚えてしまう。頼もしい背を飾る、水晶のように透き通った羽も相まって。

 ……もっと、彼の近くに。もっと近くで、彼を。

 抱いた望みは、すぐさま叶えてもらえた。白い手袋を纏う手が、俺と彼とを隔てていた薄いベールを持ち上げてくれる。引き締まった長い腕が、俺を抱き寄せてくれる。

 優しいハーブの匂いが香ってきて、服越しでも逞しい体躯から温もりが伝わってくる。高鳴っている心音まで。俺のものなのか、彼がドキドキしてくれているのか、分からなくなっていく。

 細く長い指先が、俺の輪郭を滑るように撫でていく。目元を、頬を、そして辿り着いた顎を優しく掬い上げてくれた。

 額が触れて、高い鼻先が触れて。少しずつ、なくなっていく彼との距離。もう俺の目には、日だまりのように温かい微笑みしか。

「バアル様、アオイ様、キスは後ですよ」

 思わず肩を跳ねさせてしまっていた。

 バアルさんも、みたい。見えてしまった。後少しのところだった形の良い唇が、ビクンっと震えて止まったのを。

 俺達に待ったをかけたのは、落ち着いた声。レタリーさんは、甘い空気に溺れてしまっていた俺達を見ているのになんのその。安堵したような声で続けてくる。

「良かったですね。失敗は成功の糧でございます。明日迎える本番は、さぞかしよい式になるでしょう」

 そう言えば、リハーサルの最中だったっけ。すっかり忘れてしまっていたけれど。
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