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まだ何も言ってないのに、ほとんどバレバレだ

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 本日の成果をお渡しに行く矢先に、まさか雇い主様の方からいらっしゃるとは。

 テーブルを挟んで俺達の向かいにある、背もたれや足の部分に上品な装飾をあしらったソファー。二人で腰掛けても十分に余裕のある席の真ん中で、優雅に足を組んでいらっしゃる御方。

 ヨミ様が、陶器のように白い頬にかかった黒髪を耳にかけ、真っ赤な瞳を細めた。

「バアル、アオイ殿、突然済まないな」

 バアルさんと同じく、八頭身くらいは余裕であるだろう抜群なスタイル。広い肩とか、大きな手とか、ところどころに男らしさは窺えるけれども細身の体躯には、黒を基調とし優美な金糸の装飾が施された服がよく似合う。

 側頭部から生えている鋭い角と、背中で広がるコウモリの形をした黒い羽も相まって威厳たっぷり。カリスマがあふれていらっしゃる。思わず背筋が伸びてしまう。

「いえ、俺達も今からお伺いしようかなと思ってたところなんで……ねぇ、バアルさん」

「はい」

 ごく自然に主である王様の側で跪き、湯気立つティーカップを差し出していたバアルさん。ヨミ様からお礼とお褒めの言葉をいただいた後、恭しいお辞儀を返してから俺の隣へと戻ってくる。

 彼が腰掛けたところで、テーブルの上に置いていたダンボール箱をヨミ様の前へと差し出した。

「……よろしくお願いします」

「うむっ」

 小さく頷いたヨミ様が、封をしていない蓋を開ける。切れ長の瞳が大きく見開いた。

「おお、もうこんなに作ったのか」

 中に詰めてある内の一つ。水色の魔宝石が入った小箱を取り出したヨミ様が、白く鋭い歯を覗かせる。

 黒い手袋に覆われた指先が透明な蓋を開け、煌めく石を慎重に摘み上げた。シャンデリアの明かりに向かってかざしながら、うんうんと頷く様に胸の高鳴りは最高潮。緊張し過ぎておかしくなってしまいそうだ。

 うつしてしまったんだろうか。俺の手を握ってくれているバアルさんの手まで、ちょっぴり震えてしまっている。

「アオイ殿」

「ひゃいっ」

「今日も良い出来であるぞ!」

「あ、ありがとうございます……」

 満面の笑みをいただけて肩の力がホッと抜けていく。代わりに伸ばしていた背が擽ったくなってきた。おまけに、ご褒美まで。バアルさんから頭を撫でてもらえてしまった。

 一つ一つを丁寧に確認し終えたヨミ様が、膝の上で手を組み微笑む。いつの間にか、俺の前には報酬が、金貨や白金貨の詰まった麻袋が現れていた。

「今日は量も多いが質も良い、頑張り屋さんだな。何か、自分で買いたいものでもあるのか?」

 羽をはためかせ、声を弾ませ「誠にバアルは幸せ者であるな!」と笑う。まだ何も言ってないのに、ほとんどバレバレだ。

 仕方ないか。そもそも初めた切っ掛けが、彼の誕生日プレゼントを買いたかったからで。その後も、デート代目当てだったし。動機が、オールバアルさんだからな。

 また背中が擽ったくなってしまう。さっきとは違う理由で。けれども、すぐに吹き飛んだ。そっと隣を見た瞬間、微笑む緑の瞳とかち合って。

 柔らかい眼差しに微笑み返して前を向く。赤い眼差しが、微笑ましそうに俺達を見つめていた。
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