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どんな時でも、考えるのは

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 俺の手のひらの上でも、余裕で収まっている石。道端や公園を探せば、何処にでも転がっていそうな。

 見た目は少し歪、色は灰色とは断言出来ない。他に黒とか焦げ茶とか、暗めの色ばかりを数種類混ぜたような。

 そんな石に体内で練った魔力を込めていく。すると、たちまち変わっていく。くすんだ表面は艷やかな光沢に。濁った色は鮮やかな黄色へと。

 全体に帯びていた淡い光が消えていく頃には、劇的なビフォーアフター。ただの石ころだった面影は何処へやら、煌めく原石へとその姿を変えていた。

 天井で、いくつもの優美な飾りを引っ提げているシャンデリア。青い水晶で作られた華やかなそれは、淡い光を室内にもたらしている。指で摘んでいた黄色をかざせば、屈折した光によってますます魅力的に輝いた。特に問題はなさそう。

 後は、職人さんに形を整えてもらえば完璧。立派な魔宝石として指輪やネックレス。はたまたイヤリングやネクタイピンなどの、素敵なアクセントになってくれることだろう。

 出来上がったばかりの魔宝石を、専用のケースに入れる。表面にキズがつかぬよう柔らかい布に覆われていて、石一つがキレイに収まる小箱。中身が分かる、透明の蓋を閉めたところで、隣で見守っていた彼から頭を撫でてもらえた。

「見事なお手並みですね」

 緩めの白いカッターにズボンというリラックススタイルから、執事スタイルへと着替えたバアルさん。

 下ろしていた髪は後ろに撫でつけオールバックに。上質な生地を使った黒いスーツとズボンを纏い、たおやかな手には白い手袋を。歪むことなく締められた黒いネクタイには、オレンジの魔宝石をあしらった銀色のピンが輝いている。

 整えられた白い髭が素敵な口元を綻ばせ、俺の肩に擦り寄るように均整の取れた長身を預けてくる。俺達を乗せている、座り心地抜群のソファーが少しだけ軋んだ音を立てた。

 途端に香る優しいハーブの匂い。服越しに伝わってくる温もり。額の触覚を揺らし、背にある半透明の羽をはためかせているご様子は上機嫌そのもの。

 反射的に向けていた視線が絡む。鮮やかな緑の瞳が微笑んで、目尻のシワが深くなる。高鳴り始めていた心音が大きく跳ねた。

「あ、ありがとうございます」

 危ない。うっかり小箱を落としてしまいそうだった。まぁ、やらかしたところでバアルさんがフォローしてくれるんだろうな。

 すぐさま脳内に浮かんだ光景。足元に広がる絨毯へと、吸い込まれるように落ちていく小箱。が、寸前で浮かび上がり、そのまま静かにテーブルへと着地する。

 驚き、安堵し、感謝する俺。さも何でもない様に「いえ」と短く答え、会釈する彼。うん、デジャヴ。

 日常にしてはいけないが、日常的に起こっている光景を思い浮かべていると、肩の重みが強くなった。と同時に、ひと回り大きな手から小箱を奪われた。その行方を、テーブルの上へと置かれていくのを見送ったところで、空いた手を握られた。

「アオイ……」

 バアルさんが、高い鼻先を俺の鼻に擦り寄せてくる。寂しそうな眼差しは「何を考えていらっしゃるんですか」とでも言いたげだ。かわいい。

 はしゃぐ鼓動と共に、口元がだらしなく緩みそうになるのを必死に堪える。

「ごめんね、バアルのこと考えてたんだ」

「私の? でございますか?」

 堪らえようとしたけど、ムリだった。
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