447 / 1,047
彼の採点が極甘なのは分かってはいるけれど
しおりを挟む
ご覧になるどころか、触れてしまっていますけど? 現在進行形で!
服越しでもむっちむちな大胸筋から手を離そうとするけれども俺は人間、彼は悪魔さん。力の差なんて歴然で、むしろ引き寄せられてしまっていた。
指先どころか、ガッシリ手のひらで揉むような形にされてしまう。止めて下さい! 心臓が壊れてしまいます! はしゃぎ過ぎて!
「……い、今は遠慮させて頂きます! 刺激的過ぎるのでっ!!」
「左様でございますか……」
そう呟くトーンは、あからさまに落ち込んでいた。凛々しい眉毛は八の字に、弾んでいた触覚も弱々しく下がってしまった。何で、そんなに残念そうなんだろうか。
……もしかして、バアルさんなりに甘えてくれていた……のか? スキンシップの延長だったり? だとしたら俺、とんでもないことを……
「っ……バアルさん」
「はい、なんでしょ……う?」
俺は、衝動的に手を伸ばしていた。少し寝癖のついた柔らかい髪に。しっとりとした白い頬に。そして、同時にゆったりと撫で擦った。
お詫びのつもりだったのだ、俺なりの。さっき、断ってしまったから。せっかく彼が甘えてくれていたのに、応えることが出来なかったから。
白銀のように美しい睫毛がぱちぱち瞬く。鮮やかな緑の瞳がきょとんと丸くなる。
でも、すぐに柔らかく微笑んでくれた。ふわふわと触覚を弾ませながら、俺の手のひらに頬を擦り寄せてくれる。
「……どう、ですか?」
見た感じ、ご機嫌を直していただけたようだけど。
「ふふ、大変心地がよいですよ……ずっとこうしていたいほどに」
噛み締めるように呟く声は喜びに満ちていた。やっぱり、甘えてくれていたんだな。だったら、もっとご期待に応えないと。
「良かった……他に、俺にして欲しいことってありますか?」
「……宜しいのでしょうか? すでに降って湧いたような幸福を賜っておりますのに」
「どうぞ! じゃんじゃん言って下さい!」
桜色の唇が、緩やかな笑みを描いていく。頬を撫でていた俺の手に、白い手が重なった。そのまま優しく手を取られ、エスコートする形で握り直される。
「……では、愛しい貴方様からの御慈悲を賜っても? どうか、貴方様の虜であるこの老骨めに、口づけては頂けませんか?」
うっとりとした声で甘く囁いた唇が、俺の薬指に。その根元で輝く、彼と揃いの銀の輪に触れる。わざとらしいリップ音を鳴らしてから、再び俺に微笑みかけた。
予想は出来た、出来ていたハズだ。なのに。
「は、はぃ……させていただきます……」
震えてしまう。高鳴りっぱなしの胸も、声も、彼に触れている指先も。おかしいな。もう何度も交わしているのに。朝の挨拶の一環としても、愛情表現としても。
それなりに、上手くなったハズなのに。
期待に満ちた眼差しが見守る中、俺は自分から彼との距離を詰めていった。高い鼻先とすれ違うように触れ合って、彼の吐息が俺のと混じって、そして。
「…………ど、どうでしょうか?」
「百点満点でございますよ、お上手になられましたね」
上手く出来たようだ。寸前で目を瞑ってしまったけれど。彼の手を強く握ってしまったけれど。
彼の採点が極甘なのは分かっている。けれども、とびきりの笑顔と一緒に頭をよしよし撫でてもらえると、つい調子に乗ってしまうもので。
「じゃあっ、さっきのお返しに俺もしましょうか?」
服越しでもむっちむちな大胸筋から手を離そうとするけれども俺は人間、彼は悪魔さん。力の差なんて歴然で、むしろ引き寄せられてしまっていた。
指先どころか、ガッシリ手のひらで揉むような形にされてしまう。止めて下さい! 心臓が壊れてしまいます! はしゃぎ過ぎて!
「……い、今は遠慮させて頂きます! 刺激的過ぎるのでっ!!」
「左様でございますか……」
そう呟くトーンは、あからさまに落ち込んでいた。凛々しい眉毛は八の字に、弾んでいた触覚も弱々しく下がってしまった。何で、そんなに残念そうなんだろうか。
……もしかして、バアルさんなりに甘えてくれていた……のか? スキンシップの延長だったり? だとしたら俺、とんでもないことを……
「っ……バアルさん」
「はい、なんでしょ……う?」
俺は、衝動的に手を伸ばしていた。少し寝癖のついた柔らかい髪に。しっとりとした白い頬に。そして、同時にゆったりと撫で擦った。
お詫びのつもりだったのだ、俺なりの。さっき、断ってしまったから。せっかく彼が甘えてくれていたのに、応えることが出来なかったから。
白銀のように美しい睫毛がぱちぱち瞬く。鮮やかな緑の瞳がきょとんと丸くなる。
でも、すぐに柔らかく微笑んでくれた。ふわふわと触覚を弾ませながら、俺の手のひらに頬を擦り寄せてくれる。
「……どう、ですか?」
見た感じ、ご機嫌を直していただけたようだけど。
「ふふ、大変心地がよいですよ……ずっとこうしていたいほどに」
噛み締めるように呟く声は喜びに満ちていた。やっぱり、甘えてくれていたんだな。だったら、もっとご期待に応えないと。
「良かった……他に、俺にして欲しいことってありますか?」
「……宜しいのでしょうか? すでに降って湧いたような幸福を賜っておりますのに」
「どうぞ! じゃんじゃん言って下さい!」
桜色の唇が、緩やかな笑みを描いていく。頬を撫でていた俺の手に、白い手が重なった。そのまま優しく手を取られ、エスコートする形で握り直される。
「……では、愛しい貴方様からの御慈悲を賜っても? どうか、貴方様の虜であるこの老骨めに、口づけては頂けませんか?」
うっとりとした声で甘く囁いた唇が、俺の薬指に。その根元で輝く、彼と揃いの銀の輪に触れる。わざとらしいリップ音を鳴らしてから、再び俺に微笑みかけた。
予想は出来た、出来ていたハズだ。なのに。
「は、はぃ……させていただきます……」
震えてしまう。高鳴りっぱなしの胸も、声も、彼に触れている指先も。おかしいな。もう何度も交わしているのに。朝の挨拶の一環としても、愛情表現としても。
それなりに、上手くなったハズなのに。
期待に満ちた眼差しが見守る中、俺は自分から彼との距離を詰めていった。高い鼻先とすれ違うように触れ合って、彼の吐息が俺のと混じって、そして。
「…………ど、どうでしょうか?」
「百点満点でございますよ、お上手になられましたね」
上手く出来たようだ。寸前で目を瞑ってしまったけれど。彼の手を強く握ってしまったけれど。
彼の採点が極甘なのは分かっている。けれども、とびきりの笑顔と一緒に頭をよしよし撫でてもらえると、つい調子に乗ってしまうもので。
「じゃあっ、さっきのお返しに俺もしましょうか?」
63
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。


幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる