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伝わってしまっていたのは、視線だけだはなく
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薄く開いた視界に飛び込んできたのは、ゆったりとしたシャツの襟元から覗く、キレイに浮き出た鎖骨。それから鍛え上げられた筋肉で出来た谷間。寝起きの俺には目の毒であり、刺激的過ぎる光景だった。
「……ひょわ」
とはいえ、欲望に忠実な俺は目を離すことが出来なかったのだけれど。それどころか、バッチリじっくり堪能してしまっていたのだけれど。
「ん…………」
やっぱり、眠っていても視線ってものは伝わってしまうもんなんだろう。頭の上で色っぽい吐息が聞こえたかと思えば、大きな手に頭を優しく撫でられた。
「……おや、お目覚めですか? お早いですね……」
俺の短い髪を梳いていた細く長い指が、輪郭をなぞるように目元に、そして頬にと触れていく。最終的に辿り着いた顎を優しく持ち上げられ、柔らかい微笑みとご対面した。
「ば、バアルさん……おはよう、ございます」
鮮やかな緑の瞳が俺を捉える。途端に、優しい目元に刻まれたシワが深くなっていく。
「おはようございます、私のアオイ。今日も、お可愛らしいですね……」
花が咲くように綻ぶ唇が、俺の額に優しく触れてくれた。かと思えば、目尻に、頬にと続けて何度も口づけてくれる。
その度に、少し伸びた白い髭が肌を掠めて、ちょっぴり擽ったい。嬉しくて堪らないんだけどさ。
「バアルさんも、か、カッコいいで、ふ……ん……」
言い終わる前に塞がれていた。喜びがあふれてしまいそうな唇で。
触れ合うだけのものを、何度か交わしてもらっただけ。なのに、頭の中がふわふわしてしまう。こういうのを夢見心地っていうんだろうか。
「……失礼。愛しい貴方様からのお褒めの言葉に、衝動を抑えられませんでした」
ゆっくりと離れていってしまった彼に悪びれた様子はない。ご満悦そうだ。額から生えている触覚をゆらゆら弾ませている。もしかしたら、背中の羽も密かに揺れているかもしれない。かけ布団の中で。
いやまぁ、そもそも謝る必要なんて全くないんですけどね。彼からのいきなりスキンシップは、今に始まった訳じゃないし。貰えれば貰えるだけ嬉しいんだしさ。
「い、いえ……嬉しかったですよ」
「左様でございましたか」
ふわりと微笑んだ唇が、また俺の頬に触れてくれる。なんだか、今日はとりわけ大サービスだな。起こしちゃったってのに。
「あ」
「いかがなさいましたか?」
「いや、その……ごめんなさい、俺……」
さてさて、どう謝ったらいいものか。素直に、ずっと胸元見ててごめんなさいとか?
え、それ、引かれちゃわない? いくら色々と深い付き合いをさせて頂いているとはいえさ。親しき仲にも礼儀ありって言うじゃん。でも、嘘つく訳には……
すっかり悩み、思考に囚われていた俺にバアルさんが尋ねてくる。
「ああ、もしや……この老骨めの身体に見惚れて下さっていたこと、でしょうか?」
その声は、うっとりとしていて、何故か嬉しそうで。俺は二つの意味で驚き、ひっくり返った声を上げてしまったんだ。
「うぇっ!? き、気づいてたんですか?」
「いえ、眠っていましたよ。誠に愛らしい気配は、感じておりましたが」
さり気なく俺の腰を抱き寄せてくれながら、バアルさんが笑みを深くする。
それって実質、起きてるんじゃないんですか? と喉まで出かかっていた言葉を必死に飲み込んだ。
アレか? コレもまた、魔力的なヤツか? だったら納得だ。バアルさんは、この国で唯一、時を操ることが出来る素晴らしい術士なのだから。眠っていようが俺の気配を感じるくらい、お茶の子さいさいなのだろう。
一人うんうんと頷いていた俺の手を、白い手が恭しく取った。繋いでくれるんだろうか。嬉しいな。
なんて、うっきうきで構えていたからだ。されるがままになっていた。ひと回り大きな手が俺の手を、いまだに無防備な胸元へと導いていく。指先が、触れてしまった。程よい柔らかさと弾力を兼ね備えたお胸に。
「……宜しければ、今一度ご覧になりますか?」
「……ひょわ」
とはいえ、欲望に忠実な俺は目を離すことが出来なかったのだけれど。それどころか、バッチリじっくり堪能してしまっていたのだけれど。
「ん…………」
やっぱり、眠っていても視線ってものは伝わってしまうもんなんだろう。頭の上で色っぽい吐息が聞こえたかと思えば、大きな手に頭を優しく撫でられた。
「……おや、お目覚めですか? お早いですね……」
俺の短い髪を梳いていた細く長い指が、輪郭をなぞるように目元に、そして頬にと触れていく。最終的に辿り着いた顎を優しく持ち上げられ、柔らかい微笑みとご対面した。
「ば、バアルさん……おはよう、ございます」
鮮やかな緑の瞳が俺を捉える。途端に、優しい目元に刻まれたシワが深くなっていく。
「おはようございます、私のアオイ。今日も、お可愛らしいですね……」
花が咲くように綻ぶ唇が、俺の額に優しく触れてくれた。かと思えば、目尻に、頬にと続けて何度も口づけてくれる。
その度に、少し伸びた白い髭が肌を掠めて、ちょっぴり擽ったい。嬉しくて堪らないんだけどさ。
「バアルさんも、か、カッコいいで、ふ……ん……」
言い終わる前に塞がれていた。喜びがあふれてしまいそうな唇で。
触れ合うだけのものを、何度か交わしてもらっただけ。なのに、頭の中がふわふわしてしまう。こういうのを夢見心地っていうんだろうか。
「……失礼。愛しい貴方様からのお褒めの言葉に、衝動を抑えられませんでした」
ゆっくりと離れていってしまった彼に悪びれた様子はない。ご満悦そうだ。額から生えている触覚をゆらゆら弾ませている。もしかしたら、背中の羽も密かに揺れているかもしれない。かけ布団の中で。
いやまぁ、そもそも謝る必要なんて全くないんですけどね。彼からのいきなりスキンシップは、今に始まった訳じゃないし。貰えれば貰えるだけ嬉しいんだしさ。
「い、いえ……嬉しかったですよ」
「左様でございましたか」
ふわりと微笑んだ唇が、また俺の頬に触れてくれる。なんだか、今日はとりわけ大サービスだな。起こしちゃったってのに。
「あ」
「いかがなさいましたか?」
「いや、その……ごめんなさい、俺……」
さてさて、どう謝ったらいいものか。素直に、ずっと胸元見ててごめんなさいとか?
え、それ、引かれちゃわない? いくら色々と深い付き合いをさせて頂いているとはいえさ。親しき仲にも礼儀ありって言うじゃん。でも、嘘つく訳には……
すっかり悩み、思考に囚われていた俺にバアルさんが尋ねてくる。
「ああ、もしや……この老骨めの身体に見惚れて下さっていたこと、でしょうか?」
その声は、うっとりとしていて、何故か嬉しそうで。俺は二つの意味で驚き、ひっくり返った声を上げてしまったんだ。
「うぇっ!? き、気づいてたんですか?」
「いえ、眠っていましたよ。誠に愛らしい気配は、感じておりましたが」
さり気なく俺の腰を抱き寄せてくれながら、バアルさんが笑みを深くする。
それって実質、起きてるんじゃないんですか? と喉まで出かかっていた言葉を必死に飲み込んだ。
アレか? コレもまた、魔力的なヤツか? だったら納得だ。バアルさんは、この国で唯一、時を操ることが出来る素晴らしい術士なのだから。眠っていようが俺の気配を感じるくらい、お茶の子さいさいなのだろう。
一人うんうんと頷いていた俺の手を、白い手が恭しく取った。繋いでくれるんだろうか。嬉しいな。
なんて、うっきうきで構えていたからだ。されるがままになっていた。ひと回り大きな手が俺の手を、いまだに無防備な胸元へと導いていく。指先が、触れてしまった。程よい柔らかさと弾力を兼ね備えたお胸に。
「……宜しければ、今一度ご覧になりますか?」
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