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とある死神の師匠は、弟子の成長をしみじみと感じる

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 泣くにせよ、何にせよ体力がいるもんだ。

 あれだけ大きな声で、思いっきり泣きじゃくったからだろう。落ち着くのは案外早かった。まだ少し、ずびずび鼻を啜ってはいるが。

 まだ俺の肩に顎を乗せたまま、グリムが呟く。その高い声は、少し掠れてしまっていた。

「ぐすっ……本当に、良かった……アオイ様も、バアル様も……ひっく、すごく……幸せそうで……」

 ああ、本当に。

 本当に幸せを絵に描いたような。

 喜びを噛み締めているような声色に、触発されたんだろう。胸中に、ぶわりと浮かんだ光景は。手を取り、寄り添い合うお二人の姿は。色鮮やかで、眩しくて、また鼻の奥がツンとした。

「……ああ、いつも柔らかい笑顔が素敵なお二人だが……今夜のは、とびきりだったな。見ているだけで、心が温かくなったよ」

「ひぐっ……アオイ様……僕達のこと……大事な、ぐすっ……友達、だって……」

「……ああ」

「うぇっ……立ち会って、くれて……っ……嬉しいって……僕のが、僕達のが……ひっく……」

「……そう、だな」

「……クロウ……僕の胸、貸しましょうか?」

「……ああ……って、なん……だって?」

 気がつけば、肩の重みがなくなっていた。顔を上げれば、薄紫の瞳とかち合う。俺の首に軽く腕を回したまま、グリムがじっと見つめている。

 痛々しい。目元も、小さな鼻も、柔らかい頬も、全部真っ赤に染まってしまっている。けれども、その表情は明るかった。いや寧ろ、どこか得意気だ。

「だーかーらー今度は、僕が貸してあげますよ! かわりばんこです! ほら、好きなだけ泣いていいですよっ!」

 んばっと勢いよく細い腕を広げながら、グリムがふふんっと鼻を鳴らす。期待されているようだ。丸っこい瞳も、顔も、キラキラ輝いている。

 好きなだけってことは、俺はまた泣いているんだろうか。

 試しに頬に触れてみる。分からんな。こうも濡れていては。さっき流したヤツなのか、今なのか。

「ほらほら、遠慮しなくていいですよ! 頭もよしよししてあげます! あ、背中ぽんぽんの方が良かったですか?」

 小柄な身体を前のめりにして、尋ねてくるグリムはすっかりいつもの調子だ。その首元には、揃いのネックレスが、シンプルな銀の輪っかの真ん中で金色の魔宝石が輝いている。

「…………」

「……クロウ?」

 一応、頭の中で浮かびはした。師匠の威厳だとか。男として、年上として、どうなのかとか。だが。

「うわっ……と」

 俺は、吸い寄せられていた。胸元に額を寄せ、その細い背を抱き締めていたんだ。

 自分から来いと腕を広げたくせに。グリムは驚いた声を上げ、おそるおそる俺の背に腕を回してくる。

 ……温かい。トクトクと伝わってくる鼓動に、波打つ心が凪いでいくような気がする。

 ……もっと強く感じたい。この温もりを、鼓動を。

 込み上げてきた衝動のまま頬を押しつければ、擽ったそうな声が降ってきた。少し変な感じだ。頭の上からグリムの声がするなんて。

「ふふ……なんだか、新鮮ですね。僕、クロウのつむじ、初めて見たかもです」

 どうやら、似たようなことを考えていたらしい。「クロウの髪、サラサラですね!」なんて嬉しそうに声を弾ませながら、俺の頭を撫でている。

 なんだろう。熱い。目の奥でも、鼻の奥でもなく、今度は顔が。

「……薄っぺらいな。お前の胸」

 謎の熱さに頭をやられたんだろうか。妙な感想を口にしてしまっていた。

 しかし、グリムはご機嫌なまま。くすくす笑いながら今度は俺の背中を、ぽん、ぽんっと優しく叩いている。

「ふーんだ。これから分厚くなるんですー。だって僕、まだまだ成長期ですもんっ! なんならクロウを追い越して、バアル様くらい逞しくなってみせますよ!」

「……そりゃあ、頼もしいな」

 ほんの小さな寂しさが、喜びと共に湧いてくる。

 いくつになっても甘えたで。俺が守ってやらねばと、俺が側についていなければと、ずっと思っていたんだが。

 もう、そんな必要、ないのかもな。

「でしょう? だから、もっと僕に頼っていいんですからね? クロウには、僕がついてるんですから! ずっと一緒ですもんっ! 僕達!」

 眩く感じた。固く目を閉じているのに。

「……そう、だったな……ずっと一緒に居てくれるんだったよな……」

「はいっ!」

 力強い肯定に、曇りかけていた心が瞬く間に晴れ渡っていく。

 まただ。また目の奥が熱くなってしまう。この温もりを抱く腕に、力を込めてしまう。

 ……頼もしいな。今でも十分。まだ、口にはしないが。

 本当に成長期なんだなと。彼が俺を追い越すのも、そう遠くはないかもしれないなと。小さいけれども頼もしい背を抱きながら、思った。
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