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俺の声、まだ枯れてませんけど

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 どのくらい眠ってしまっていたんだろうか。ふと開いた視界は薄暗くて、何だか寂しい。

「……バアル、さん?」

「はい、アオイ。貴方様のバアルは此処に」

 呼んだらすぐに返してくれた穏やかな声。俺の名を呼んでくれた心地の良い低音に、胸がホッと温かくなる。

 ようやく、ぼんやりしていた視界も嗅覚も起きたらしい。見上げれば、柔らかい微笑みが。そして、優しいハーブの匂いが、鼻先を擽った。

 どうやら、ずっと腕枕をしてくれていたみたいだ。それから、ずっと背中を撫でてくれていたみたい。フカフカの布団よりも落ち着く温もりが、俺に寄り添ってくれていた。

「すみません、俺……自分だけ……その……」

 一人で気持ちよくなるだけなって、寝ちゃうなんて。

 そりゃあ、いっぱい触ってもらえて嬉しかったさ。でも、バアルさんと一緒なら、もっと。

 そもそも、今夜はバアルさんに満足してもらうつもりだったのに。昼間にそう、宣言までしたってのに俺は。

「お気になさらないで下さい」

 白く長い指が俺の髪を梳くように撫でてくれる。緑の瞳が微笑みかけてくれる。

「バアルさん……」

「私がしたかったのですから。私は今、大変満たされております。心ゆくまで貴方様を愛でさせて頂き、尚且つ可愛らしい声を、御姿を……堪能させて頂きましたので」

「ひぇ……」

 歌うように饒舌に紡ぐ彼は、ホントにご満悦そうだ。ふわふわ触覚を弾ませながら、頬をほんのり染めている。

「それよりも、御身体の具合はいかがでしょうか? 喉が渇いてはおりませんか?」

 多分、自然治癒の術をかけてもらえているんだろう。特に何も違和感はない。怠い感じすらも。むしろスッキリしているくらいだ。

「大丈夫ですよ、ありがとうございます。お水も、今のところは必要ないです」

「左様でございましたか」

 安心したみたいだ。瞳を細め、お髭が似合う口元を綻ばせている。

 ほとんど俺の予想通りだった。術をかけてくれてから、お風呂で身体を洗ってくれたらしい。どうりで、サッパリしている訳だ。

 ひと通り説明を終えた頃。では、と彼の長く筋肉質な腕が、俺の腰を抱き寄せてくれる。額にキスを送ってくれてから、背中をぽんっ、ぽんと優しく叩き始めた。

 ……あれ? もう、これお休みしちゃう体勢でわ? 俺のこと、寝かしつけるつもりなんじゃ。

「……もう、寝ちゃうんですか?」

「……お疲れでしょう?」

 言いたいことは伝わっているんだろう。それから満更でもないみたい。そわそわと触覚が揺れている。逸らされてしまった瞳も。

 後、もうひと押し。ほんのり染まっている首に腕を絡める。額をくっつけると、照れたような眼差しがこちらを向いた。

「……アオイ」

「……俺の声、まだ枯れてませんけど」

「はい?」

「串焼き屋さんで、言ってたじゃないですか……俺のこと、その……いっぱい鳴かせるって……」

「それは……」

 ここぞとばかりに畳み掛けていく。込み上げてくる気恥ずかしさを押し込んで、震える喉を叱咤して。

「……俺のこと、食べてくれないんですか? 朝まで、ぎゅってしてくれないんですか?」

 緑の瞳を、真っ直ぐに見つめて。

「抱いて……くれないんですか? 旦那様……」
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