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私は今宵、大変浮かれております

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「それは……その、当たらかずとも遠からずと申しますか……」

 彼にしては珍しい、何ともスッキリしない解答だ。

 一体、どの辺が当たっているんだろう。俺の為に飲まなかったってところか? じゃあ、理由が違うってことか? でも、遠慮したんじゃないんだったら何故?

 なんてことだ。さらに疑問が深まってしまった。

 うんうん唸りながら、グラスの中の水面を見つめても答えは出ない。そんな俺に、穏やかな声がポツリと呟いた。まるでヒントをくれるみたいに。

「……先程は、誠に楽しいお席でした」

「はい、そうですね」

 ホントに楽しかった。

 今でも気持ちがフワフワしている。俺達を祝福してくれた、皆さんの笑顔を思い浮かべるだけで、胸の奥がじんわり熱くなるんだ。

 微笑んでいた眼差しが、僅かに伏せられる。透明感のある白い頬が、ほんのり赤く染まっていく。

 彼の手元から、グラスがふわりと離れていく。術によって浮かぶそれは、半分以上残った中身をこぼすことなく、静かにテーブルへと着地した。

「そして……私は今宵、大変浮かれております」

「はい……って、そう……なんですか?」

 俺を映す瞳が微笑む。若葉を思わせる鮮やかな緑の煌めきには、喜びが満ちあふれていた。

「ええ。正式に、愛しい貴方様と婚約することが出来たのですから」

「ひょわ……」

 顔が、全身が一気に熱を持つ。手のひらの中のグラスが、余計に冷たく感じた。

「そう、ですね……俺も、スゴく幸せです……それに浮かれてます……さっきもバアルさんの口から儀式って聞いただけで……その、もうすぐ俺達、結婚するんだなって……バアルさんの奥さんになれるんだなって……」

 今度は言えた。ちゃんと伝えることが出来た。

 左様でございましたか、と納得したように頷いたバアルさん。彼のひと回り大きな手が、俺の手を優しく包み込む。優しい目元に刻まれた、大人なシワが深くなった。

「……お揃いでございますね」

「はいっ」

 微笑み合う最中、ふと気づく。俺達、何の話をしてたんだっけと。

 バアルさんも気づいたんだろう。どこか名残惜しそうに手を離してから、軽く咳払いをした。

「……失礼、脱線致しました」

「い、いえ、俺の方こそ……」

 少し間を開けて、彼が口を開く。

「つまりは、飲み過ぎてしまうのです」

「成る程……成る、程?」

 真っ直ぐに俺を見つめるバアルさんの表情は、答えを言いましたって感じだった。でも俺は、ピンとこなかったんだ。残念なことに。

 確かに楽しいから、ついつい飲み過ぎちゃうってのは分かる。現に俺も食べ過ぎちゃったし、ジュースもいっぱいおかわりしちゃったもんな。

 でも、それと俺に何の関係が? ああ、もしかして、酔っ払って迷惑かけちゃうかもってことかな?

「……アルコールを摂取し過ぎますと……匂いが、ですね……お酒臭くなってしまいますので……」

「それは……まぁ、仕方がないですよ」

 ああ、そっちか。

 バアルさん、キレイ好きだもんな。お髭は勿論だけど、触覚と羽のお手入れも欠かさないし。爪もきちんと整えているもんな。

 別に気にしなくて良かったのに。せっかくの席なのだから、俺に構わず楽しんでくれたら良かったのに。

 そうは思いつつも、嬉しくて仕方がない。彼の気遣いに、胸の辺りがキュッと高鳴ってしまう。

 理由は判明したかと思われた。

 でも、違ったんだ。本当の理由は、俺の想像を遥かに上回るものだった。もっと、心ときめくものだったんだ。
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