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ちょっとした食事会のつもりが、いつの間にやら宴会に
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扉を開けば、今朝と変わらぬ見慣れた室内。
ファンタジーの貴族様が住んでいそうな気品あふれる内装。それに見合った、アンティークショップにでも並んでいそうな上品な調度品。それから、青い水晶で出来たシャンデリアの灯りが俺達を出迎えてくれる。
ほどよい疲労感に包まれた俺の目に止まったのは、銀の装飾が背もたれやら足部分に施された大きなソファー。俺が足を伸ばして寝転んでも、まだまだ余裕十分なふかふかへ、気がつけば吸い込まれるように足を運んでいた。
「あぁ……もう、お腹いっぱい……」
勢いよく背中から身を預け、だらしなく四肢を伸ばす。俺の体重を受け、ぼふんっと沈んだクッションがもう一度、ぽすっと音を立てた。
「ふふ、私もです」
「……バアルさん」
俺の隣へと腰を下ろしていた彼が、均整の取れた長身を、背もたれへゆったり預ける。鮮やかな緑の瞳が微笑んで、白いヒゲを蓄えた口元が綻んだ。
緩めに撫でつけていた白い髪が、目元に刻まれたカッコいいシワをサラリと撫でていく。細く長い指先が、銀糸のように艷やかなそれらを耳へとかけた。
額から生えている、針金のように細く長い触覚。金属のような光沢を帯び、先がくるりと沿った二本が上機嫌に揺れている。
「皆様とご一緒でしたから、余計に進んでしまいました」
俺を映していた優しい眼差しが、どこか遠くを見つめるように前を向いた。宝石よりも美しい煌めきは、まるで宝物でも眺めているようで。
「……誠に楽しいお時間でした」
そう噛み締めるように呟く声色も、あふれてしまいそうな喜びに満ちていた。
「……俺も、スゴく楽しかったです!」
少し前の、賑やかなひと時を。笑顔ばかりがあふれていた光景を思い浮かべる。
ちょっとした食事会のつもりだったんだけど、気がつけば宴会になっていたんだっけ。
奥の調理場から次々と料理が作られ、親衛隊の皆さんの手によって、それぞれのテーブルへと並べられていく。
いかにもパーティーの定番っぽい、切ったフランスパンの上に刻んだトマトや白いチーズを乗せたヤツ。みんな大好き、唐揚げ、海老フライ、フライドポテトっていう揚げ物ランキング上位勢。贅沢に厚切りベーコンをふんだんに使ったナポリタンなどなど。
腕を振るっていたのは、やっぱりスヴェンさん。日々、お城の皆さんのお腹を満たしている料理長なだけあって、手際の良さも速さもピカイチ。俺がお手伝いに立候補する間なんて、ありゃしなかった。
まぁ、そもそも行かせてもらえなかったんだけどさ。
少し前、部屋に美味しそうな匂いがしてきた時に、俺も! と向かおうとしたんだ。スヴェンさんの助手をさせてもらったら、料理の練習になるかもっていう下心込みで。
短時間とはいえさ、プロの技を間近で見させてもらえたら、良い勉強になりそうだろう?
そりゃあ、まだまだ初心者な俺が、すぐに真似出来るとは思っていないさ。でも、それを参考にいっぱい練習すれば、もっと上手くなれるハズ。もっとバアルさんに「美味しいですよ」って喜んでもらえる、そう思ったんだ。
まぁ、バアルさんを除く全員から、宴の主役の一人なんだからって、止められちゃったんだけど。
相変わらず察しのいいバアルさんには、お見通しだったみたい。ありがとうございますって微笑んでくれて、料理を終えたスヴェンさんにお願いまで。「今度、お暇な時に私とアオイ様に料理のご指導をして頂けませんか?」って頼んでくれたんだ。
身体も心の器も大きいスヴェンさんは、快くオッケーしてくれた。それから、グリムさんとクロウさんも加わることに。良かったら、と参加を求めてきた二人を、これまたスヴェンさんは、二つ返事で了解してくれたんだ。
ファンタジーの貴族様が住んでいそうな気品あふれる内装。それに見合った、アンティークショップにでも並んでいそうな上品な調度品。それから、青い水晶で出来たシャンデリアの灯りが俺達を出迎えてくれる。
ほどよい疲労感に包まれた俺の目に止まったのは、銀の装飾が背もたれやら足部分に施された大きなソファー。俺が足を伸ばして寝転んでも、まだまだ余裕十分なふかふかへ、気がつけば吸い込まれるように足を運んでいた。
「あぁ……もう、お腹いっぱい……」
勢いよく背中から身を預け、だらしなく四肢を伸ばす。俺の体重を受け、ぼふんっと沈んだクッションがもう一度、ぽすっと音を立てた。
「ふふ、私もです」
「……バアルさん」
俺の隣へと腰を下ろしていた彼が、均整の取れた長身を、背もたれへゆったり預ける。鮮やかな緑の瞳が微笑んで、白いヒゲを蓄えた口元が綻んだ。
緩めに撫でつけていた白い髪が、目元に刻まれたカッコいいシワをサラリと撫でていく。細く長い指先が、銀糸のように艷やかなそれらを耳へとかけた。
額から生えている、針金のように細く長い触覚。金属のような光沢を帯び、先がくるりと沿った二本が上機嫌に揺れている。
「皆様とご一緒でしたから、余計に進んでしまいました」
俺を映していた優しい眼差しが、どこか遠くを見つめるように前を向いた。宝石よりも美しい煌めきは、まるで宝物でも眺めているようで。
「……誠に楽しいお時間でした」
そう噛み締めるように呟く声色も、あふれてしまいそうな喜びに満ちていた。
「……俺も、スゴく楽しかったです!」
少し前の、賑やかなひと時を。笑顔ばかりがあふれていた光景を思い浮かべる。
ちょっとした食事会のつもりだったんだけど、気がつけば宴会になっていたんだっけ。
奥の調理場から次々と料理が作られ、親衛隊の皆さんの手によって、それぞれのテーブルへと並べられていく。
いかにもパーティーの定番っぽい、切ったフランスパンの上に刻んだトマトや白いチーズを乗せたヤツ。みんな大好き、唐揚げ、海老フライ、フライドポテトっていう揚げ物ランキング上位勢。贅沢に厚切りベーコンをふんだんに使ったナポリタンなどなど。
腕を振るっていたのは、やっぱりスヴェンさん。日々、お城の皆さんのお腹を満たしている料理長なだけあって、手際の良さも速さもピカイチ。俺がお手伝いに立候補する間なんて、ありゃしなかった。
まぁ、そもそも行かせてもらえなかったんだけどさ。
少し前、部屋に美味しそうな匂いがしてきた時に、俺も! と向かおうとしたんだ。スヴェンさんの助手をさせてもらったら、料理の練習になるかもっていう下心込みで。
短時間とはいえさ、プロの技を間近で見させてもらえたら、良い勉強になりそうだろう?
そりゃあ、まだまだ初心者な俺が、すぐに真似出来るとは思っていないさ。でも、それを参考にいっぱい練習すれば、もっと上手くなれるハズ。もっとバアルさんに「美味しいですよ」って喜んでもらえる、そう思ったんだ。
まぁ、バアルさんを除く全員から、宴の主役の一人なんだからって、止められちゃったんだけど。
相変わらず察しのいいバアルさんには、お見通しだったみたい。ありがとうございますって微笑んでくれて、料理を終えたスヴェンさんにお願いまで。「今度、お暇な時に私とアオイ様に料理のご指導をして頂けませんか?」って頼んでくれたんだ。
身体も心の器も大きいスヴェンさんは、快くオッケーしてくれた。それから、グリムさんとクロウさんも加わることに。良かったら、と参加を求めてきた二人を、これまたスヴェンさんは、二つ返事で了解してくれたんだ。
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