上 下
421 / 906

扉の向こうから感じる、並々ならぬ圧

しおりを挟む
 案内されたのは、城内ではなく兵舎だった。しかも食堂。

 ふと思い出す。なんだか、あの時とは逆だなと。ハンバーグの試食会に、俺がヨミ様を招いた時とは。

 年季の入った木製の床が、俺達の重みを受けてミシミシと鳴く。構わず歩みを進めていくと、長身のバアルさんでも高いと感じそうな大きな扉へと辿り着いた。

 案内が終わったからか、マラクさん達は扉の側に控えるように整列した。開けるのは俺達でってことか。

 ところで……俺は、どちらかといえば鈍いほうだ。バアルさん達が感じているという、魔力の気配とやらも、ちんぷんかんぷん。一切感じない……ハズなんだが。

 なんだろう……部屋の方から並々ならぬ圧を感じるんだけど。ただ扉の前に立っているだけなのにさ。

 もっと急ぐべきだったんじゃないか? 怒らせてしまったんじゃ……

 不安に駆られている俺の背に、大きな温もりが添えられる。

 バアルさんだ。大きな手が、宥めるように優しく撫でてくれる。優しい眼差しが、微笑んでくれる。心配はございませんよと。

「……ありがとうございます。いきましょうか」

「ええ」

 差し出した俺の手に、ひと回り大きな手が重ねられる。軽く息を吸い込んでから、扉へと手を伸ばした。

「……失礼します」

「失礼致します。ただいま戻りました」

 一緒に扉を開き、室内へと踏み出した途端にだった。ガタッと勢いよく丸テーブルから立ち上がり、一気に俺達へと向けられた視線。赤、薄紫、金、黄緑などなど。

 ヨミ様とサタン様、グリムさんにクロウさん。それから連絡係を担ってくれたレタリーさんは当たり前、なのだが。よくよく見れば、文章に記載されていなかった面々も。

 レダさんにスヴェンさん、サロメさん達もいる。ああ、だからお迎えがマラクさん達だったのか。

 納得したのも、つかの間。室内の異様な雰囲気に気づく。デジャヴだ。やっぱり皆さんも固まっていらっしゃる。テーブルに手をついたままの体勢だったり、よっぽどだったのか椅子をひっくり返してしまっていたり。

 そんでもって、やっぱり目が潤んで……いや、すでに泣いている方がいらっしゃった。

 シアンさんだ。白銀の耳と尻尾をぺしゃりと下げ、王子様なフェイスをきゅっと歪ませてしまっている。目元は、もはや大洪水。サロメさんが彼の頭を、ベィティさんが背を撫でる度に、水色の瞳からボロボロ、ボロボロこぼれ落ちている。

 大丈夫かな……止まる気配がないんだけれど。というか、いつの間にかマラクさん達も合流してるんだけど。三人とも部屋の外に居たハズでわ?

 すぐ近くのレダさんは、心配そうに見つめながら苦笑い。彼の隣のスヴェンさんも、困ったように男らしい眉を下げている。

「あの……」

 ひとまず声をかけようとしたが、届かなかった。何故なら、かき消されてしまったからだ。

「アオイどのぉぉぉっ!!」

「アオイさまぁぁぁっ!!」

 ヨミ様とグリムさんによる、涙声の大合唱によって。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...