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扉の向こうから感じる、並々ならぬ圧
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案内されたのは、城内ではなく兵舎だった。しかも食堂。
ふと思い出す。なんだか、あの時とは逆だなと。ハンバーグの試食会に、俺がヨミ様を招いた時とは。
年季の入った木製の床が、俺達の重みを受けてミシミシと鳴く。構わず歩みを進めていくと、長身のバアルさんでも高いと感じそうな大きな扉へと辿り着いた。
案内が終わったからか、マラクさん達は扉の側に控えるように整列した。開けるのは俺達でってことか。
ところで……俺は、どちらかといえば鈍いほうだ。バアルさん達が感じているという、魔力の気配とやらも、ちんぷんかんぷん。一切感じない……ハズなんだが。
なんだろう……部屋の方から並々ならぬ圧を感じるんだけど。ただ扉の前に立っているだけなのにさ。
もっと急ぐべきだったんじゃないか? 怒らせてしまったんじゃ……
不安に駆られている俺の背に、大きな温もりが添えられる。
バアルさんだ。大きな手が、宥めるように優しく撫でてくれる。優しい眼差しが、微笑んでくれる。心配はございませんよと。
「……ありがとうございます。いきましょうか」
「ええ」
差し出した俺の手に、ひと回り大きな手が重ねられる。軽く息を吸い込んでから、扉へと手を伸ばした。
「……失礼します」
「失礼致します。ただいま戻りました」
一緒に扉を開き、室内へと踏み出した途端にだった。ガタッと勢いよく丸テーブルから立ち上がり、一気に俺達へと向けられた視線。赤、薄紫、金、黄緑などなど。
ヨミ様とサタン様、グリムさんにクロウさん。それから連絡係を担ってくれたレタリーさんは当たり前、なのだが。よくよく見れば、文章に記載されていなかった面々も。
レダさんにスヴェンさん、サロメさん達もいる。ああ、だからお迎えがマラクさん達だったのか。
納得したのも、つかの間。室内の異様な雰囲気に気づく。デジャヴだ。やっぱり皆さんも固まっていらっしゃる。テーブルに手をついたままの体勢だったり、よっぽどだったのか椅子をひっくり返してしまっていたり。
そんでもって、やっぱり目が潤んで……いや、すでに泣いている方がいらっしゃった。
シアンさんだ。白銀の耳と尻尾をぺしゃりと下げ、王子様なフェイスをきゅっと歪ませてしまっている。目元は、もはや大洪水。サロメさんが彼の頭を、ベィティさんが背を撫でる度に、水色の瞳からボロボロ、ボロボロこぼれ落ちている。
大丈夫かな……止まる気配がないんだけれど。というか、いつの間にかマラクさん達も合流してるんだけど。三人とも部屋の外に居たハズでわ?
すぐ近くのレダさんは、心配そうに見つめながら苦笑い。彼の隣のスヴェンさんも、困ったように男らしい眉を下げている。
「あの……」
ひとまず声をかけようとしたが、届かなかった。何故なら、かき消されてしまったからだ。
「アオイどのぉぉぉっ!!」
「アオイさまぁぁぁっ!!」
ヨミ様とグリムさんによる、涙声の大合唱によって。
ふと思い出す。なんだか、あの時とは逆だなと。ハンバーグの試食会に、俺がヨミ様を招いた時とは。
年季の入った木製の床が、俺達の重みを受けてミシミシと鳴く。構わず歩みを進めていくと、長身のバアルさんでも高いと感じそうな大きな扉へと辿り着いた。
案内が終わったからか、マラクさん達は扉の側に控えるように整列した。開けるのは俺達でってことか。
ところで……俺は、どちらかといえば鈍いほうだ。バアルさん達が感じているという、魔力の気配とやらも、ちんぷんかんぷん。一切感じない……ハズなんだが。
なんだろう……部屋の方から並々ならぬ圧を感じるんだけど。ただ扉の前に立っているだけなのにさ。
もっと急ぐべきだったんじゃないか? 怒らせてしまったんじゃ……
不安に駆られている俺の背に、大きな温もりが添えられる。
バアルさんだ。大きな手が、宥めるように優しく撫でてくれる。優しい眼差しが、微笑んでくれる。心配はございませんよと。
「……ありがとうございます。いきましょうか」
「ええ」
差し出した俺の手に、ひと回り大きな手が重ねられる。軽く息を吸い込んでから、扉へと手を伸ばした。
「……失礼します」
「失礼致します。ただいま戻りました」
一緒に扉を開き、室内へと踏み出した途端にだった。ガタッと勢いよく丸テーブルから立ち上がり、一気に俺達へと向けられた視線。赤、薄紫、金、黄緑などなど。
ヨミ様とサタン様、グリムさんにクロウさん。それから連絡係を担ってくれたレタリーさんは当たり前、なのだが。よくよく見れば、文章に記載されていなかった面々も。
レダさんにスヴェンさん、サロメさん達もいる。ああ、だからお迎えがマラクさん達だったのか。
納得したのも、つかの間。室内の異様な雰囲気に気づく。デジャヴだ。やっぱり皆さんも固まっていらっしゃる。テーブルに手をついたままの体勢だったり、よっぽどだったのか椅子をひっくり返してしまっていたり。
そんでもって、やっぱり目が潤んで……いや、すでに泣いている方がいらっしゃった。
シアンさんだ。白銀の耳と尻尾をぺしゃりと下げ、王子様なフェイスをきゅっと歪ませてしまっている。目元は、もはや大洪水。サロメさんが彼の頭を、ベィティさんが背を撫でる度に、水色の瞳からボロボロ、ボロボロこぼれ落ちている。
大丈夫かな……止まる気配がないんだけれど。というか、いつの間にかマラクさん達も合流してるんだけど。三人とも部屋の外に居たハズでわ?
すぐ近くのレダさんは、心配そうに見つめながら苦笑い。彼の隣のスヴェンさんも、困ったように男らしい眉を下げている。
「あの……」
ひとまず声をかけようとしたが、届かなかった。何故なら、かき消されてしまったからだ。
「アオイどのぉぉぉっ!!」
「アオイさまぁぁぁっ!!」
ヨミ様とグリムさんによる、涙声の大合唱によって。
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