間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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バアルさんは分かったみたいだけれど

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 ……どいうことだろう。なんで、ゆっくり帰ってきて欲しいんだ? わざわざ強調するくらいに。

 見上げれば、バアルさんも白い睫毛をぱちぱち瞬かせている。おかしいな。事前に目を通しているだろうに。いや、もしかして。

「文章と違いましたか?」

「……はい。文章には、皆様のご了承を頂けたことと、お迎えに親衛隊の皆様が来て下さるということしか……」

 成る程。最後の文、ヨミ様もグリムさんも……のところは、音声バージョン限定だったらしい。ますます謎が深まったんだが?

「ゆっくりとは頼まれましたけど、もう皆さん待ってくれてるってことですよね?」

「ええ、恐らくは」

「じゃあ、やっぱり急ぎましょうか。待たせちゃうと悪いですし」

「左様でございますね」

 疑問は募るばかりだが、俺達の為に急遽集まってもらっているのだ。お待たせしてしまうのは、失礼だろう。

 バアルさんとも意見が一致したところで、早足で中央エリアへ。術によって自動で開く、巨大な扉をくぐった先。三階建てはありそうな建物の中は、都会の駅のように広く、あっという間に迷子になってしまいそう。俺には、バアルさんという最強のナビが居てくれるから、問題ないけどさ。

 なんせ、お城や別のエリアに通じる魔法陣が、いくつもあるだけじゃない。現世の駅みたいに、飲食店やお土産コーナー。服やバッグなどアパレル系のお店もあるからな。ちょっとしたショッピングモールって感じだ。

 そんな大きな建物内の更に奥。鈍く光る胸当てや脛当てを纏った大柄な兵士さん達が、左右に控えている扉の前へと辿り着いた。

 城内直通の魔法陣を守る彼らは特別に、俺達のホントの姿が見える魔宝石を持っているらしい。だからだろう。目が合った途端に「お帰りなさいませっ」と。効果音でも付きそうなくらいに、ビシッと揃った敬礼で迎えてくれたんだ。

「ただいま帰りました」

「ただいま戻りました。お疲れ様でございます」

 俺に続いてバアルさんが恭しく腰を折り、丁寧なお辞儀を披露する。ごくごく普通のやり取りだったハズ。なのに。

 彼らは動かない。さっきまではためいていたトンボの形をした羽を、ゆらゆら揺れていたトラ柄の尻尾を、ピタリと止めたまま。じっと俺達を見つめている。

 どうしたんだろう? 何か問題が?

 バアルさんに助けを、意見を求めようとしたが、ダメだった。彼自身も、いかが致しましょうか? と言わんばかり。凛々しい眉毛を下げ、シャープな顎に指を当て、小首を傾げている。

 これ以上考えていても分からないし、始まらない。ならば尋ねてみるしかないだろう。

「えっと……どうかしましたか?」

 声をかけた瞬間、止まっていた時が動き始めたみたいだった。二人のゴツい肩が、同時に大きく跳ねて口を開く。

「い、いえっ失礼いたしました! どうぞ、お通り下さい!」

 慌てて姿勢を正してから、扉を開いてくれた。心なしか彼らの声が震えていたような、目元が潤んでいたように見えたのは気のせいだろうか。

 ……何だったんだろう、結局。再びお辞儀をしたバアルさんに倣って、俺も頭を下げつつ扉の先へ。そこでまた、疑問の連鎖が。室内で待機し、魔法陣を守っていた兵士さん達も、動きを止めてしまったんだ。俺達を見た途端にさ。

 しかも、何故か皆さん同じ表情。驚きやら、喜びやら、感動? やら。色んな気持ちが混ざった顔のまま、鱗に覆われた尻尾を、三角に尖った耳を、小さな触覚を、ピシリと立てて固まってしまっている。

 それにしても、妙に凄みがあるな。先程のお二人もだが、皆さん揃って顔面偏差値が高いからな。やっぱりイケメンの圧ってスゴい。

 ……おや? バアルさんは、謎が解けたんだろうか。何やら、納得がいったように微笑んでいらっしゃる。

 とはいえ、教えてはくれなさそう。じっと見つめても、微笑みかけられるだけだったからな。

 ……まぁ、いいか。

 今みたくバアルさんが、ちょっぴり意地悪さんな時は100%、俺にとって悪いことじゃない。いずれは、理由が判明するってのがザラだ。それよりも、先を急がないと。
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