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とある兵士達と幸せを呼ぶチョコレート
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水分補給は大事なようだ。
ちびちびと口にしながら、グラスの半分ほどを空けた頃には、シアンは随分と落ち着いていた。大粒の涙は止まり、呼吸も穏やかになっている。やっとひと息つけそうだ。
「ああ、そうだ。甘いものでも食べるかい? 君、好きだろう?」
良いことを思いついたと言わんばかりに、ベィティが手を合わせる。
確かに、コイツは甘いものに目がない。だが、今、食堂に甘いものなんてあったか? 何だかイヤな予感がするんだが。
「……うん」
「ほらっ、アオイ様とバアル様から賜った魔宝石チョコレート!」
「ちょっ、おま、それは……」
「バアル様とアオイ様が大好きな君のことだ。自分の分は賞味期限ギリギリまで部屋に飾っておきたいだろう? だから、僕のを半分こしよう?」
止める間もなかった。満面の笑みを浮かべたベィティが、おしゃれな紙袋に入っていた細長いケースを取り出し、見せる。透明な蓋から見えている七つの七色のチョコレートが並ぶ様は虹のよう。ダイヤモンドカットされた表面が艶めいていて、本物の魔宝石みたいだ。
ガサツな俺でも少しだけ食べるのを躊躇しそうな見た目。なおかつ、ご結婚の報告の際にお二方から渡されたという記念なお土産。それをベィティは、あっさりと開けてしまった。
多分、味の説明書だろう。折り畳まれた紙を取り出して俺達の前に広げて見せながら、尖った耳をピコピコ揺らしている。
「シアンはどれを食べてみたいかい? 僕はねぇ、この赤いのが……」
「うっ……うぇ……バアルさま……アオイさま……」
案の定、俺の予感は的中してしまった。また振り出しだ。
「お前さぁ……どっちだよ。泣き止ませてぇのか? 泣かせてぇのか?」
「喜んでくれると思ったんだけどね……」
本当に、喜んでくれると思っていたんだろうな。シアンだけでなく、ベィティの耳と尻尾まで下がっちまっている。
「喜ばせ過ぎだ。因みに、半分やるなら黄色がいいと思うぜ」
「黄色かい?」
「それ、パイナップルの味すんだろ?」
チラッと見た説明では、そう書かれていた気が。合っていたらしい。説明書を手に取ったベィティが小さく頷く。
「うん、そうみたいだね」
「好きなんだよ、コイツ。パイナップル」
あからさまに、ヤツの尻尾と耳がぴょこんと立つ。弾かれるようにこちらを見た猫目が数回瞬いてから、ゆるりと細められた。いかにも楽しげに。
「へぇ……流石、保護者様は詳しいね」
「うるせぇな」
パイナップルに反応したのか、撫でていた頭がおずおずと上がった。少し涙も引いて、尻尾もふわふわ揺れている。現金だな。
「……俺のも食うか? 半分」
「……うぇっ……ありが……ぐすっ……」
「なんだい、君も僕のこと言えないじゃないか」
「……うるせぇな」
しばらくして、再びシアンが落ち着いた頃、マラク達が俺達のテーブルへとやってきた。しかも、どこから聞いていたのか、自分達の魔宝石チョコと切り分け用のナイフを持って。
そうして、再び泣き始めてしまったシアンの前に置かれた皿は、半分になった黄色いチョコで埋め尽くされることになった。
ちびちびと口にしながら、グラスの半分ほどを空けた頃には、シアンは随分と落ち着いていた。大粒の涙は止まり、呼吸も穏やかになっている。やっとひと息つけそうだ。
「ああ、そうだ。甘いものでも食べるかい? 君、好きだろう?」
良いことを思いついたと言わんばかりに、ベィティが手を合わせる。
確かに、コイツは甘いものに目がない。だが、今、食堂に甘いものなんてあったか? 何だかイヤな予感がするんだが。
「……うん」
「ほらっ、アオイ様とバアル様から賜った魔宝石チョコレート!」
「ちょっ、おま、それは……」
「バアル様とアオイ様が大好きな君のことだ。自分の分は賞味期限ギリギリまで部屋に飾っておきたいだろう? だから、僕のを半分こしよう?」
止める間もなかった。満面の笑みを浮かべたベィティが、おしゃれな紙袋に入っていた細長いケースを取り出し、見せる。透明な蓋から見えている七つの七色のチョコレートが並ぶ様は虹のよう。ダイヤモンドカットされた表面が艶めいていて、本物の魔宝石みたいだ。
ガサツな俺でも少しだけ食べるのを躊躇しそうな見た目。なおかつ、ご結婚の報告の際にお二方から渡されたという記念なお土産。それをベィティは、あっさりと開けてしまった。
多分、味の説明書だろう。折り畳まれた紙を取り出して俺達の前に広げて見せながら、尖った耳をピコピコ揺らしている。
「シアンはどれを食べてみたいかい? 僕はねぇ、この赤いのが……」
「うっ……うぇ……バアルさま……アオイさま……」
案の定、俺の予感は的中してしまった。また振り出しだ。
「お前さぁ……どっちだよ。泣き止ませてぇのか? 泣かせてぇのか?」
「喜んでくれると思ったんだけどね……」
本当に、喜んでくれると思っていたんだろうな。シアンだけでなく、ベィティの耳と尻尾まで下がっちまっている。
「喜ばせ過ぎだ。因みに、半分やるなら黄色がいいと思うぜ」
「黄色かい?」
「それ、パイナップルの味すんだろ?」
チラッと見た説明では、そう書かれていた気が。合っていたらしい。説明書を手に取ったベィティが小さく頷く。
「うん、そうみたいだね」
「好きなんだよ、コイツ。パイナップル」
あからさまに、ヤツの尻尾と耳がぴょこんと立つ。弾かれるようにこちらを見た猫目が数回瞬いてから、ゆるりと細められた。いかにも楽しげに。
「へぇ……流石、保護者様は詳しいね」
「うるせぇな」
パイナップルに反応したのか、撫でていた頭がおずおずと上がった。少し涙も引いて、尻尾もふわふわ揺れている。現金だな。
「……俺のも食うか? 半分」
「……うぇっ……ありが……ぐすっ……」
「なんだい、君も僕のこと言えないじゃないか」
「……うるせぇな」
しばらくして、再びシアンが落ち着いた頃、マラク達が俺達のテーブルへとやってきた。しかも、どこから聞いていたのか、自分達の魔宝石チョコと切り分け用のナイフを持って。
そうして、再び泣き始めてしまったシアンの前に置かれた皿は、半分になった黄色いチョコで埋め尽くされることになった。
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