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ますます増した現実感

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 無事に魔宝石も決まり、笑顔が戻った店員さん。俺達の魔宝石を大事にケースへと収めてくれてから、思い出したかのように尋ねてきた。

「因みにお客様、加工するアクセサリーの種類はお決まりでしょうか?」

「はい、結婚指輪を……妻と儀式を終えた後、此方で加工して頂くつもりでございました」

「っ……」

 何の気なしにバアルさんが返した俺への呼称。喜びがあふれてしまいそうな唇が紡ぐ、幸せ過ぎる言葉の数々。それらが俺の胸をときめかせ、心を舞い上がらせる。

 いや、事実でしかないんだけどさ。俺達……結婚するんだし。もうすぐバアルさんの……お、奥さんにしてもらえるんだし。

「っ……」

 心の中で繰り返した言葉にすら、一撃をもらってしまった。

 ますます鼓動がはしゃぎ出す。浮かれまくった熱で、頭がふわふわしてしまう。何をやっているんだ、俺は。

「おめでとうございますっ」

 俺が悶えてるなんて知る由もない店員さんは、羽をはためかせて祝福の言葉を贈ってくれる。

 第三者からの言葉だからだろうか。ますます増した現実感に喉までキュッとなってしまって、頭を下げることしか出来なかった。

 そんな俺に代わってバアルさんが「ありがとうございます」と会釈を返してくれた。ふと繋いでくれている、ひと回り大きな手に力が込められる。

 釣られて見上げた先でかち合ったのは、うっとりと微笑む眼差しだった。

 ダメだ……頭の芯が蕩けてしまいそう。

 だって、伝わってくるんだ。見つめられるだけで、好きですよって、愛しておりますって。

「……では、お急ぎでなければ、デザインを決めておくことをお勧めいたします」

「は、はいっ」

「……よ、宜しくお願い致します」

 申し訳無さそうに切り出してくれた店員さんの言葉に我に返る。わざとらしく咳払いをしたバアルさんからも、先程の甘ったるい雰囲気は消えていた。

 いかん、いかん……今のはマジで危なかった。助かった。普通に抱きつきそうになっちゃってた。なんなら、キスして欲しくなっちゃってたし。

 店員さんへ、心の中でありがとうございますと、すみませんを繰り返す。気を取り直して、店員さんが新たに出してくれたケースに目を向けた。魔宝石と同じように、上質な黒い布に覆われた長方形の中にはいくつもの指輪が並んでいた。

 デザインのサンプルらしい。店員さん曰く、今日決めておけばリングの部分だけ作っておいてくれるとのこと。

 そうしておけば、後はカットした魔宝石を嵌め込むだけ。なので、魔宝石を持ってきてから、すぐに完成した指輪を受け取ることが出来るんだと。

「まず、カットの形はいかがいたしましょうか?」

「……オススメとかってありますか?」

 丸に、四角に、雫型……などなど。ズラリと並べてもらっても、宝石と縁がなかった俺にはちんぷんかんぷん。バアルさんを見つめても、困ったように眉毛と触覚を下げるだけ。ならば、餅は餅屋と尋ねてみた。

 曰く、どの形でも問題なくキレイになるらしい。でも、グラデーションを活かすならば、やっぱり長方形や長丸とかの方が見栄えがいいとのこと。

「……バアルさん。一回、気になる形を同時に指差してみません?」

「? はい、畏まりました」

 きっと優しい彼のことだ。俺が、いいと言った形を選んでしまうハズ。

 でも、同時ならば純粋な彼の好みが分かるだろう。そこでまた、話し合えばいい。と思ったんだけど。
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