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練習する前の方がマシだった
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ハツラツとした商いの声が飛び交う、アジアな市場。色とりどりの建物と多種多様なショーウインドウが並ぶ、現代的でお洒落な大通り。
そして、今、俺達が訪れている通り。行き交う悪魔の皆さん方が皆、気品と高級感に満ちている、いかにもワンランク上な街並み。
一つのエリアで、ここまで雰囲気が変わるとは。そびえ立つ建物の高さは全部増してるし、なんというかデザインもアートっぽいのが増えているような。
全面ガラス張りで鮮やかな街並みを映しているビル、柱は青緑で壁は明るい茶色と凝った色合いの建物。まだ昼過ぎだというのにイルミネーション……いや、術によって映し出したオーロラのような明かりや、輝く枝葉で飾られているお店。
少し歩いただけなのに、あちらこちらへと目が惹かれてしまう。とにかく、色んなところがキラキラして見えるんだ。こう……下品なギラギラではなくて。俺の貧弱な語彙力では、上手く表現することは出来ないが。
ショーウインドウに並ぶお品達もキラッキラ、とてもじゃないが俺には手が出せそうにない。まさに高嶺の花って感じのラインナップだ。
多分、何かしらお高いブランドのものなんだろう。お土産のチョコレート店みたいにお洒落なロゴと、アルファベットのような不思議な模様。俺にはまだ読めない此方の文字で、店名が大きく掲げられている。
ガラス越しに見えるのは、上品なマダムにお似合いそうなふわふわな毛皮のファーだったり、お姫様のドレスにしか見えない服だったり。
はたまた、実用性というよりは素敵な見た目に全振りなバッグが三点だけ。高さの異なる細長い台の上に展示され、淡い照明を受けていた。
興味の赴くままに見つめていると、ショーウインドウ越しに目が合った。カッコいい彼に手を引かれながら歩く、口を半開きにしている男と。
空色のジャケット、白に近い薄灰色のズボン。そしてセーラータイプの襟元を、リボンタイの結び目を彩る緑に輝くバラ。
コーディネートは、こちらの街並みでも浮いてはいない。バアルさんが選んでくれたんだから当たり前だけど。
とはいえ表情はお察しだ。慌てて口を閉じ、緩やかに口角を上げてみる。ちょっとはマシになっただろうか。
いや、もう少し目を細めてみた方がいいかも。バアルさんの柔らかい笑顔が、そんな感じだし。
磨き上げられたガラスに映っている、自分自身とのにらめっこに夢中な俺は気づかない。
完全に足を止めてしまっていたことも。優しい眼差しから、一部始終を見守られてしまっていたことも。
頭の上から降ってきた小さな声。もう堪えられないといった風に、クスクス笑う声が耳に届いてようやくだった。
弾かれるように顔を上げた俺に、バアルさんが笑みを深くした。
「ふふ、大丈夫ですよ。大変カッコよく、お可愛らしいです。透き通った瞳を輝かせる貴方様も、笑顔の練習をなさっている貴方様も」
若葉を思わせる鮮やかな緑の瞳。宝石よりも美しいそれらが、ゆるりと細められたことにより、深くなった目尻のシワが色っぽい。
緩めに後ろへ撫でつけられた白い髪が、午後の日差しを受けて艷やかな光沢を帯びている。その生え際あたりから生えている細長い触覚が揺れていた。優しい風と戯れるように、ふわふわと。
見られていた、恥ずかしい。カッコいいって、可愛いって褒めてもらえた、嬉しい。
ぶわりと込み上げ、襲いかかってきた二つの感情。熱くて、温かくて、表情筋が瞬く間に溶けていってしまう。悲惨だ。練習する前の方が、まだマシな顔を出来ていたに違いない。
そして、今、俺達が訪れている通り。行き交う悪魔の皆さん方が皆、気品と高級感に満ちている、いかにもワンランク上な街並み。
一つのエリアで、ここまで雰囲気が変わるとは。そびえ立つ建物の高さは全部増してるし、なんというかデザインもアートっぽいのが増えているような。
全面ガラス張りで鮮やかな街並みを映しているビル、柱は青緑で壁は明るい茶色と凝った色合いの建物。まだ昼過ぎだというのにイルミネーション……いや、術によって映し出したオーロラのような明かりや、輝く枝葉で飾られているお店。
少し歩いただけなのに、あちらこちらへと目が惹かれてしまう。とにかく、色んなところがキラキラして見えるんだ。こう……下品なギラギラではなくて。俺の貧弱な語彙力では、上手く表現することは出来ないが。
ショーウインドウに並ぶお品達もキラッキラ、とてもじゃないが俺には手が出せそうにない。まさに高嶺の花って感じのラインナップだ。
多分、何かしらお高いブランドのものなんだろう。お土産のチョコレート店みたいにお洒落なロゴと、アルファベットのような不思議な模様。俺にはまだ読めない此方の文字で、店名が大きく掲げられている。
ガラス越しに見えるのは、上品なマダムにお似合いそうなふわふわな毛皮のファーだったり、お姫様のドレスにしか見えない服だったり。
はたまた、実用性というよりは素敵な見た目に全振りなバッグが三点だけ。高さの異なる細長い台の上に展示され、淡い照明を受けていた。
興味の赴くままに見つめていると、ショーウインドウ越しに目が合った。カッコいい彼に手を引かれながら歩く、口を半開きにしている男と。
空色のジャケット、白に近い薄灰色のズボン。そしてセーラータイプの襟元を、リボンタイの結び目を彩る緑に輝くバラ。
コーディネートは、こちらの街並みでも浮いてはいない。バアルさんが選んでくれたんだから当たり前だけど。
とはいえ表情はお察しだ。慌てて口を閉じ、緩やかに口角を上げてみる。ちょっとはマシになっただろうか。
いや、もう少し目を細めてみた方がいいかも。バアルさんの柔らかい笑顔が、そんな感じだし。
磨き上げられたガラスに映っている、自分自身とのにらめっこに夢中な俺は気づかない。
完全に足を止めてしまっていたことも。優しい眼差しから、一部始終を見守られてしまっていたことも。
頭の上から降ってきた小さな声。もう堪えられないといった風に、クスクス笑う声が耳に届いてようやくだった。
弾かれるように顔を上げた俺に、バアルさんが笑みを深くした。
「ふふ、大丈夫ですよ。大変カッコよく、お可愛らしいです。透き通った瞳を輝かせる貴方様も、笑顔の練習をなさっている貴方様も」
若葉を思わせる鮮やかな緑の瞳。宝石よりも美しいそれらが、ゆるりと細められたことにより、深くなった目尻のシワが色っぽい。
緩めに後ろへ撫でつけられた白い髪が、午後の日差しを受けて艷やかな光沢を帯びている。その生え際あたりから生えている細長い触覚が揺れていた。優しい風と戯れるように、ふわふわと。
見られていた、恥ずかしい。カッコいいって、可愛いって褒めてもらえた、嬉しい。
ぶわりと込み上げ、襲いかかってきた二つの感情。熱くて、温かくて、表情筋が瞬く間に溶けていってしまう。悲惨だ。練習する前の方が、まだマシな顔を出来ていたに違いない。
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