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バアルさんとの永遠を、皆さんの前で

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 そんでもって、穏やかな声でツラツラと返してくれると思っていたんだ。お褒めに預かり光栄です、とか。誠に嬉しく存じます、とか。

 でも違った。瞬く間に白い頬が、ぽぽぽと真っ赤に染まっていく。かと思えば耳の先も、いや、引き締まった首までもが色づいていた。

 尖った喉仏が震えている。ズッコケながら、紡がれた低音も。

「っ…………い、いえ……光栄に、存じます……」

 そんなに照れる要素、あったっけ? スゴいもカッコいいも、俺的には結構伝えていたつもりなんだけど? 

 もしかして……流石、俺のバアルさん! っていう気持ちが滲み出ちゃってたり? 口には出していないけどさ。

 頬を赤らめたまま白く長い睫毛を伏せ、軽く手を握り返すだけ。そんな彼を眺めている内にうつってしまったらしい。顔がだんだん熱を持ち始める。

 何か話題を、と探していた時だ。今度は、彼が切り替えてきたんだ。

「……と、ところで、アオイ様」

「は、はいっ、何ですか? バアルさん」

 渡りに船だ。すぐさま乗った俺に、バアルさんが安心したように息を吐く。その彫りの深い顔には、すでにいつもの穏やかな笑みが浮かんでいた。

「……魔宝石店へ向かう前に、少し話しておきたいことがございます」

 打ち合わせ、かな。なんにせよ、大事な話だ。俺達の結婚指輪に関することなのだから。

 頷き、慌てて姿勢を伸ばした俺に、バアルさんが微笑みかけてくれる。形のいい唇が紡ぐ言葉は、いつもよりゆったりとしていて、語りかけているみたいだった。

「まず、今日は指輪を作りません。魔宝石をご一緒に選んでから、指輪にする前に一旦持ち帰ります」

「それって……儀式の為に、ですか?」

「はい」

 そっか、互いの魔力を込めた魔宝石を使って指輪を作るって話だったっけ。てことは、やっぱり。

「儀式は、お城でするんですか? それとも、何処か特別な場所とかを借りたりするんですか?」

「基本的には儀式の為の会場を予約し、家族や友人を招いて行います。証人になって頂くのです」

 家族や友人を……か。結婚前のパーティー的な感じなのかな?

 すぐに浮かんだのは、いつもお世話になっているヨミ様とサタン様。そしてグリムさんとクロウさんにコルテ。

 続いて、レダさんとレタリーさん。親衛隊のシアンさんやサロメさん達。スヴェンさんに、お手伝いのスー達。

 出来れば、お城の皆さん方にも……と思ったけれど、流石にご迷惑だろうか。

 思い浮かべていた、優しくて温かい皆さん。バアルさんも、お揃いだったらしい。

「ですが、私はお城で……ヨミ様とサタン様、皆様方の前で貴方様との誓いを交わしたいと思っております」

「俺も、その方が嬉しいです。皆さんの前で、バアルさんとの永遠を誓いたい……勿論、結婚式もですけど」

「……アオイ」

 トーンの低い声で呼ばれたかと思えば、お膝の上へと抱き抱えられていた。

 額が重なり、高い鼻先が俺の鼻と触れ合う。ついばむように軽く口づけられる度に嬉しくて、擽ったくて。くすくすと吹き出してしまっていた。

「ん……ちょ、ふふ……バアルさん……」

「……駄目、ですか?」

 俺の呼びかけを、珍しく後ろ向きに取ったらしい。渋いお髭がカッコいい口元は、しょんぼり歪み、俺を見つめる眼差しも寂しそうに細められている。

 そんな彼が、健気に俺の言葉を待ってくれている彼がかわいくて、返事代わりに重ねていた。

 触れ合っている唇から、静かに笑う気配がする。勢いよく閉じ込められた腕の中で、彼から求められるがまま俺は身を委ねた。
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