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調子に乗れたのは一瞬で
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「ん……ふ、バアルさ……」
俺は欲張りな男だ。触れ合えただけで嬉しくて仕方がないのに、また泣いてしまいそうなのに。早くも次をせがんでしまっていたんだから。
彼は優しい人だ。そんな俺を、ちゃんと分かってくれていて、何度も優しく交わしてくれたんだから。
それも、口だけじゃない。いっぱい触れてくれたんだ。滲んでしまっている目尻にも、涙の跡が残る頬にも、きっと赤くなってしまっている鼻の頭にも。
時々触れる、白いお髭が擽ったい。でも、その感触すら心地よくて、ふわふわする。
甘くて優しい触れ合い。心満たされるひと時に、すっかり俺は溺れてしまっていたのだけれど、終わりは突然だった。
最後にもう一度、少し長めのキスを送ってくれてから柔らかい微笑みが離れていってしまう。
名残惜しくて、まだまだ物足りなくて、自分からくっつこうとした時だ。全身が物理的な浮遊感に襲われたのは。
「わっ、と……」
原因は、抱き上げられたからだった。引き締まった彼の長い腕に軽々と持ち上げられ、お膝の上へと乗せられる。
向かい合う形で彼の太ももを跨ぐ俺の背に、大きな手が添えられた。もう一方で頬を撫でてくれながら、バアルさんが額を寄せてきた。
「申し訳ございません、アオイ様……大変恐縮なのですが……」
「俺に出来ることなら何でもしますよ?」
今度は、即答出来た。むしろ遮ってしまっていた。気持ちが前のめりになり過ぎて。
片方だけ下がっていた凛々しい眉毛が、再び緩やかな曲線に戻っていく。連動するみたいに触覚がぴょこんと跳ね上がり、弾み出す。
「……誠でございますか?」
「はい。何をすればいいですか? ……何を、して欲しいですか?」
何だか不思議な気分だ。
いつもならば、バアルさんが決まって俺に言う言葉。ヘタれてしまって上手く強請れない俺に向かって、艷やかに微笑ながら尋ねる言葉。それを、俺が口にしてるなんてさ。
単純な俺は、たったこれだけのことで調子に乗ってしまっていた。今だけはバアルさんを、俺がリード出来ている気になっていたんだ。ホントに、その瞬間だけだったんだけどさ。
「どうか、御慈悲を……貴方様の可憐な唇で、私めに触れて頂きたいのです」
切なそうに瞳を伏せたバアルさんが、寄せていた額を離す。恭しく俺の左手を取ったかと思えば彼と揃いの輪へ、形のいい唇を寄せた。
薬指に収まっているS字の銀に触れた時、整えられたカッコいいお髭が指の根元を擽った。
たったそれだけで、俺の背筋は甘く震えてしまったってのに、彼は止まらない。優しく手を返されて、今度は手のひらにも柔らかい口づけをもらってしまったんだ。
息を呑み、激しく鼓動を高鳴らせ、ただただ見つめることしか出来ない俺を、鮮やかな緑の瞳が見上げている。
「……宜しいでしょうか?」
抜群過ぎた。バアルさんにゾッコンな俺にとっては。
上目遣い、焦がれるような声色が紡ぐ甘い囁やき、俺の心を擽って止まないスキンシップ。一つでも十分強烈な一撃だ。なのに、三つも同時にいただいてしまったんだ。鷲掴みにされない方が無理ってもんだろう。
「ひゃい……よろしいでふ……」
「ああ、大変光栄に存じます……」
あっさりいつもの調子に戻った俺の表情筋は、ふにゃっふにゃに溶けてしまっていた。当然、呂律も回っていない。
とはいえ、いつまでも浸ってる訳にはいかない。彼のお願いに応えなければ。
彼の頬に手を添えて、顔を寄せる。柔らかく微笑む唇へ、そっと自分の口を重ねると、色気あふれる目尻のシワが深くなった。
何度か口づけて、離れようとして開けた距離を詰められる。いつの間にか、指を絡める形で繋がれていた手に力を込めながら、高い鼻先を擦り寄せてきた。
「……もっと、頂けないでしょうか?」
熱を宿し、潤んだ瞳で強請られてしまえば、断れる訳がなくて。
「は、はぃ……」
震える口でもう一度、彼に触れれば今度は額を、頬を、と白い指先で指し示された。
ご満足していただけたのは、俺の心音と呼吸が乱れに乱れまくってから。彫り深い顔に余すことなく触れさせてもらってから、ようやくだった。
俺は欲張りな男だ。触れ合えただけで嬉しくて仕方がないのに、また泣いてしまいそうなのに。早くも次をせがんでしまっていたんだから。
彼は優しい人だ。そんな俺を、ちゃんと分かってくれていて、何度も優しく交わしてくれたんだから。
それも、口だけじゃない。いっぱい触れてくれたんだ。滲んでしまっている目尻にも、涙の跡が残る頬にも、きっと赤くなってしまっている鼻の頭にも。
時々触れる、白いお髭が擽ったい。でも、その感触すら心地よくて、ふわふわする。
甘くて優しい触れ合い。心満たされるひと時に、すっかり俺は溺れてしまっていたのだけれど、終わりは突然だった。
最後にもう一度、少し長めのキスを送ってくれてから柔らかい微笑みが離れていってしまう。
名残惜しくて、まだまだ物足りなくて、自分からくっつこうとした時だ。全身が物理的な浮遊感に襲われたのは。
「わっ、と……」
原因は、抱き上げられたからだった。引き締まった彼の長い腕に軽々と持ち上げられ、お膝の上へと乗せられる。
向かい合う形で彼の太ももを跨ぐ俺の背に、大きな手が添えられた。もう一方で頬を撫でてくれながら、バアルさんが額を寄せてきた。
「申し訳ございません、アオイ様……大変恐縮なのですが……」
「俺に出来ることなら何でもしますよ?」
今度は、即答出来た。むしろ遮ってしまっていた。気持ちが前のめりになり過ぎて。
片方だけ下がっていた凛々しい眉毛が、再び緩やかな曲線に戻っていく。連動するみたいに触覚がぴょこんと跳ね上がり、弾み出す。
「……誠でございますか?」
「はい。何をすればいいですか? ……何を、して欲しいですか?」
何だか不思議な気分だ。
いつもならば、バアルさんが決まって俺に言う言葉。ヘタれてしまって上手く強請れない俺に向かって、艷やかに微笑ながら尋ねる言葉。それを、俺が口にしてるなんてさ。
単純な俺は、たったこれだけのことで調子に乗ってしまっていた。今だけはバアルさんを、俺がリード出来ている気になっていたんだ。ホントに、その瞬間だけだったんだけどさ。
「どうか、御慈悲を……貴方様の可憐な唇で、私めに触れて頂きたいのです」
切なそうに瞳を伏せたバアルさんが、寄せていた額を離す。恭しく俺の左手を取ったかと思えば彼と揃いの輪へ、形のいい唇を寄せた。
薬指に収まっているS字の銀に触れた時、整えられたカッコいいお髭が指の根元を擽った。
たったそれだけで、俺の背筋は甘く震えてしまったってのに、彼は止まらない。優しく手を返されて、今度は手のひらにも柔らかい口づけをもらってしまったんだ。
息を呑み、激しく鼓動を高鳴らせ、ただただ見つめることしか出来ない俺を、鮮やかな緑の瞳が見上げている。
「……宜しいでしょうか?」
抜群過ぎた。バアルさんにゾッコンな俺にとっては。
上目遣い、焦がれるような声色が紡ぐ甘い囁やき、俺の心を擽って止まないスキンシップ。一つでも十分強烈な一撃だ。なのに、三つも同時にいただいてしまったんだ。鷲掴みにされない方が無理ってもんだろう。
「ひゃい……よろしいでふ……」
「ああ、大変光栄に存じます……」
あっさりいつもの調子に戻った俺の表情筋は、ふにゃっふにゃに溶けてしまっていた。当然、呂律も回っていない。
とはいえ、いつまでも浸ってる訳にはいかない。彼のお願いに応えなければ。
彼の頬に手を添えて、顔を寄せる。柔らかく微笑む唇へ、そっと自分の口を重ねると、色気あふれる目尻のシワが深くなった。
何度か口づけて、離れようとして開けた距離を詰められる。いつの間にか、指を絡める形で繋がれていた手に力を込めながら、高い鼻先を擦り寄せてきた。
「……もっと、頂けないでしょうか?」
熱を宿し、潤んだ瞳で強請られてしまえば、断れる訳がなくて。
「は、はぃ……」
震える口でもう一度、彼に触れれば今度は額を、頬を、と白い指先で指し示された。
ご満足していただけたのは、俺の心音と呼吸が乱れに乱れまくってから。彫り深い顔に余すことなく触れさせてもらってから、ようやくだった。
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