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温かな涙に濡れた微笑み
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全身を大好きな温もりに包まれながら、優しい鼓動に耳を傾ける。俺も、彼も言葉は交わさない。
けれども十分だった。多分、きっとバアルさんも。だって、抱き締め合うだけで、自然と心が温かく満たされていくんだから。
周囲に広がる満点の星空。天井すら見えない高くて広い施設内全体に、術によって映し出されている星々が、俺達を見守るように静かに瞬く。
星の海を浮かぶ卵型の個室。暗闇の中、白や黄色に淡く光る、いくつもの内の一つ。二人っきりの空間で、どのくらいの間、過ごしていたんだろうか。
個室内の大半を占めている広いソファー。その真ん中で、俺達は身を寄せ合っていた。不意に、頭を撫でてくれていた彼の手が止まる。
「……バアルさん?」
もうちょっとだけ、撫でて欲しかったんだけどな。
ほんのり滲んだ寂しさと我儘を、心の片隅に押しやる。頬を押しつけてしまっていた、水色のカッターシャツ越しでも分かる鍛え上げられた大胸筋。分厚く、頼もしい胸板から顔を離した。
俺の頭ひとつ分くらい。少し見上げた先にある喜びに満ちた眼差しは、慈しむような微笑みは、温かい涙に濡れていた。
「バアル……」
はらはらとこぼれて伝う、朝露のように透き通った雫。気がつけば手を伸ばしていた。切なく胸を締めつけられる衝動のままに。
カッコいい大人なシワが刻まれた優しい目元に、指先で慎重に触れる。そっと拭う度に、銀糸のように美しい睫毛が僅かに震えた。
頬に触れれば擦り寄ってくれる。甘えてくれるように手のひらに、白い頬を押しつけて強請ってくれるんだ。もっと撫でて欲しいって言わんばかりに。
「っ……」
またしても胸を締めつけられた。さっきとは真逆な感情によって。
だって、ズルい。かわいい。ギャップがスゴ過ぎる。同じ男として憧れしかない、渋くてカッコよくて大人な余裕に満ちあふれている普段との。
悶えながらも手だけは動かした。逃す訳にはいかなかったんだ。甘えっぱなしな俺が、彼を甘やかせる貴重なチャンスなんだから。
撫でる度に彼の触覚が弾む。緩く後ろに撫でつけた艷やかな白い髪、その生え際から生えている細く長い触覚が、ふわふわと。
背にある半透明の羽も、はためきっぱなしだ。俺達を包みこまんばかりに大きく広がり、風を切るように揺れている。
俺は、すっかり夢中になっていた。上機嫌な彼がかわいくて、甘やかしたくて仕方がなかったんだ。だから、全然気づいていなかった。
思い出したかのように伸びてきた、細く長い指。しっとりと柔い指先が、目尻に優しく触れてくれたことで、ようやくだった。
どうやら俺も、お揃いだったらしい。目線だけ落として、よくよく見れば確かに。彼の胸元に、水色のシャツに点々と濃い青色のシミが出来てしまっていたんだ。
俺のせいだ。俺の嬉し泣きのせい。
「……ふふっ」
何だかおかしくて、吹き出してしまっていた。バアルさんも釣られたらしい。白い髭が素敵な口元がふわりと綻んで、尖った喉仏がクスクス震える。
ふと視線が絡んだ。俺だけを見てくれる鮮やかな緑の瞳。宝石よりも美しい煌めきが、ほんのり熱を帯びていく。
その神秘的な輝きに見惚れ、惹かれていた。
ごく自然に、それが当たり前みたいに俺達は、少しだけ空いていた距離を埋めていく。唇に触れた吐息が、いつもより熱く感じた。
けれども十分だった。多分、きっとバアルさんも。だって、抱き締め合うだけで、自然と心が温かく満たされていくんだから。
周囲に広がる満点の星空。天井すら見えない高くて広い施設内全体に、術によって映し出されている星々が、俺達を見守るように静かに瞬く。
星の海を浮かぶ卵型の個室。暗闇の中、白や黄色に淡く光る、いくつもの内の一つ。二人っきりの空間で、どのくらいの間、過ごしていたんだろうか。
個室内の大半を占めている広いソファー。その真ん中で、俺達は身を寄せ合っていた。不意に、頭を撫でてくれていた彼の手が止まる。
「……バアルさん?」
もうちょっとだけ、撫でて欲しかったんだけどな。
ほんのり滲んだ寂しさと我儘を、心の片隅に押しやる。頬を押しつけてしまっていた、水色のカッターシャツ越しでも分かる鍛え上げられた大胸筋。分厚く、頼もしい胸板から顔を離した。
俺の頭ひとつ分くらい。少し見上げた先にある喜びに満ちた眼差しは、慈しむような微笑みは、温かい涙に濡れていた。
「バアル……」
はらはらとこぼれて伝う、朝露のように透き通った雫。気がつけば手を伸ばしていた。切なく胸を締めつけられる衝動のままに。
カッコいい大人なシワが刻まれた優しい目元に、指先で慎重に触れる。そっと拭う度に、銀糸のように美しい睫毛が僅かに震えた。
頬に触れれば擦り寄ってくれる。甘えてくれるように手のひらに、白い頬を押しつけて強請ってくれるんだ。もっと撫でて欲しいって言わんばかりに。
「っ……」
またしても胸を締めつけられた。さっきとは真逆な感情によって。
だって、ズルい。かわいい。ギャップがスゴ過ぎる。同じ男として憧れしかない、渋くてカッコよくて大人な余裕に満ちあふれている普段との。
悶えながらも手だけは動かした。逃す訳にはいかなかったんだ。甘えっぱなしな俺が、彼を甘やかせる貴重なチャンスなんだから。
撫でる度に彼の触覚が弾む。緩く後ろに撫でつけた艷やかな白い髪、その生え際から生えている細く長い触覚が、ふわふわと。
背にある半透明の羽も、はためきっぱなしだ。俺達を包みこまんばかりに大きく広がり、風を切るように揺れている。
俺は、すっかり夢中になっていた。上機嫌な彼がかわいくて、甘やかしたくて仕方がなかったんだ。だから、全然気づいていなかった。
思い出したかのように伸びてきた、細く長い指。しっとりと柔い指先が、目尻に優しく触れてくれたことで、ようやくだった。
どうやら俺も、お揃いだったらしい。目線だけ落として、よくよく見れば確かに。彼の胸元に、水色のシャツに点々と濃い青色のシミが出来てしまっていたんだ。
俺のせいだ。俺の嬉し泣きのせい。
「……ふふっ」
何だかおかしくて、吹き出してしまっていた。バアルさんも釣られたらしい。白い髭が素敵な口元がふわりと綻んで、尖った喉仏がクスクス震える。
ふと視線が絡んだ。俺だけを見てくれる鮮やかな緑の瞳。宝石よりも美しい煌めきが、ほんのり熱を帯びていく。
その神秘的な輝きに見惚れ、惹かれていた。
ごく自然に、それが当たり前みたいに俺達は、少しだけ空いていた距離を埋めていく。唇に触れた吐息が、いつもより熱く感じた。
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