394 / 1,047
見栄をはらないで、カッコつけなくてどうするってんだ
しおりを挟む
乱れた息が整うのには、時間がかかった。はしゃぎっぱなしの心音が落ち着くのも。
数歩進んだ先にある、屋台ひしめく大通りの賑わいとは、打って変わって静かな二人っきりの小道。ほんのり冷たい空気が撫でていく度に、唇が疼いた。何度も彼と触れ合ったからだろう。まだ大好きな温もりが残っている気がする。
まぁ、俺が悪いんですけどね。自分から「一回だけ、ですからね」とか言っておきながら、気がつけば「もっと」と強請っていた俺の。
いまだに熱を持つ俺の頬を、大きく白い手がゆったり撫でてくれている。薄暗いせいで、少し見上げた先にある彼の表情は読み取れない。でも分かる。ご機嫌そうだなって。
なんせ音が賑やかだ。スラリと伸びた彼の背を飾る半透明な羽。大きく広がったそれらが、ひっきりなしにパタパタはためいているんだから。
「あの……バアルさん。ホントに俺、変な顔になってませんか?」
再び大通りへ戻る前の、何度目かの確認。別に俺が自意識過剰という訳ではない。そもそも行き交う人々の視線は全部、バアルさんが独り占めにするからな。
とはいえ、素敵な彼の隣を歩くのだ。そして、今日は久々の城下町デートなのだ。ゆるっゆるに表情筋が溶けた、だらしのない顔を晒し続けるのは勘弁願いたい。
頭の片隅から、今更でわ? とか、もうすでに散々晒してるのでわ? とか聞こえてきたような気がするけれど、無視だ無視。
せっかくバアルさんが俺のことを「カッコいい」って思ってくれていることが判明したのだ。見栄をはらないで、カッコつけなくてどうするってんだ。
俺的に、精一杯顔を引き締めてから、バアルさんみたく緩やかに口角を上げてみる。キマっただろうか。少しくらい。
撫でてくれていた手が止まってしまった。俺の腰を抱いていた方の手が離れていったかと思えば、頬の方へと参戦した。両手で優しく包み込むように触れてくれながら、バアルさんが鍛え上げられた長身を屈めていく。
軽く後ろに撫でつけている白く艷やかな髪が、さらりと優しい目元を、目尻に刻まれた色っぽい大人なシワを、撫でていく。
生え際辺りに生えている細く長い触覚を弾ませ、額を、高い鼻先を、ちょこんと俺のとくっつけてきた。そのまま擦り寄せ、甘えてくれるバアルさん。彼から漂う優しいハーブの香り。唇に感じる熱い吐息。
……困ってしまう。また、心臓が煩くなっちゃったじゃないか。ようやく落ち着きかけてたってのに……嬉しいけど。
ふと視線が絡んだ。銀糸のように美しい睫毛が縁取る緑の瞳。若葉を思わせる鮮やかな煌めきが、ゆるりと微笑む。
「大丈夫ですよ、アオイ様」
「……ニヤけちゃったり、してません?」
「はい。誠に凛々しくもあり、お可愛らしいですよ。カッコいいです」
強烈過ぎた。穏やかに微笑む彼が、何の気なしに放った二の矢は。
「……そ、そう、ですか」
ただでさえ、さっきの大サービスなスキンシップで頭がふわふわしかけてたってのに。もう、崩壊寸前だ。イヤでもニヤけてしまいかけているのが分かる。
だって、仕方がないだろう? 大好きな彼から完璧なタイミングで、俺が欲しくて堪らなかった言葉をもらえたんだからさ。
俺にとっては、十分心満たされる形容詞だった。でも、彼にとってはまだまだ序の口だったらしい。
数歩進んだ先にある、屋台ひしめく大通りの賑わいとは、打って変わって静かな二人っきりの小道。ほんのり冷たい空気が撫でていく度に、唇が疼いた。何度も彼と触れ合ったからだろう。まだ大好きな温もりが残っている気がする。
まぁ、俺が悪いんですけどね。自分から「一回だけ、ですからね」とか言っておきながら、気がつけば「もっと」と強請っていた俺の。
いまだに熱を持つ俺の頬を、大きく白い手がゆったり撫でてくれている。薄暗いせいで、少し見上げた先にある彼の表情は読み取れない。でも分かる。ご機嫌そうだなって。
なんせ音が賑やかだ。スラリと伸びた彼の背を飾る半透明な羽。大きく広がったそれらが、ひっきりなしにパタパタはためいているんだから。
「あの……バアルさん。ホントに俺、変な顔になってませんか?」
再び大通りへ戻る前の、何度目かの確認。別に俺が自意識過剰という訳ではない。そもそも行き交う人々の視線は全部、バアルさんが独り占めにするからな。
とはいえ、素敵な彼の隣を歩くのだ。そして、今日は久々の城下町デートなのだ。ゆるっゆるに表情筋が溶けた、だらしのない顔を晒し続けるのは勘弁願いたい。
頭の片隅から、今更でわ? とか、もうすでに散々晒してるのでわ? とか聞こえてきたような気がするけれど、無視だ無視。
せっかくバアルさんが俺のことを「カッコいい」って思ってくれていることが判明したのだ。見栄をはらないで、カッコつけなくてどうするってんだ。
俺的に、精一杯顔を引き締めてから、バアルさんみたく緩やかに口角を上げてみる。キマっただろうか。少しくらい。
撫でてくれていた手が止まってしまった。俺の腰を抱いていた方の手が離れていったかと思えば、頬の方へと参戦した。両手で優しく包み込むように触れてくれながら、バアルさんが鍛え上げられた長身を屈めていく。
軽く後ろに撫でつけている白く艷やかな髪が、さらりと優しい目元を、目尻に刻まれた色っぽい大人なシワを、撫でていく。
生え際辺りに生えている細く長い触覚を弾ませ、額を、高い鼻先を、ちょこんと俺のとくっつけてきた。そのまま擦り寄せ、甘えてくれるバアルさん。彼から漂う優しいハーブの香り。唇に感じる熱い吐息。
……困ってしまう。また、心臓が煩くなっちゃったじゃないか。ようやく落ち着きかけてたってのに……嬉しいけど。
ふと視線が絡んだ。銀糸のように美しい睫毛が縁取る緑の瞳。若葉を思わせる鮮やかな煌めきが、ゆるりと微笑む。
「大丈夫ですよ、アオイ様」
「……ニヤけちゃったり、してません?」
「はい。誠に凛々しくもあり、お可愛らしいですよ。カッコいいです」
強烈過ぎた。穏やかに微笑む彼が、何の気なしに放った二の矢は。
「……そ、そう、ですか」
ただでさえ、さっきの大サービスなスキンシップで頭がふわふわしかけてたってのに。もう、崩壊寸前だ。イヤでもニヤけてしまいかけているのが分かる。
だって、仕方がないだろう? 大好きな彼から完璧なタイミングで、俺が欲しくて堪らなかった言葉をもらえたんだからさ。
俺にとっては、十分心満たされる形容詞だった。でも、彼にとってはまだまだ序の口だったらしい。
77
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる