394 / 466
見栄をはらないで、カッコつけなくてどうするってんだ
しおりを挟む
乱れた息が整うのには、時間がかかった。はしゃぎっぱなしの心音が落ち着くのも。
数歩進んだ先にある、屋台ひしめく大通りの賑わいとは、打って変わって静かな二人っきりの小道。ほんのり冷たい空気が撫でていく度に、唇が疼いた。何度も彼と触れ合ったからだろう。まだ大好きな温もりが残っている気がする。
まぁ、俺が悪いんですけどね。自分から「一回だけ、ですからね」とか言っておきながら、気がつけば「もっと」と強請っていた俺の。
いまだに熱を持つ俺の頬を、大きく白い手がゆったり撫でてくれている。薄暗いせいで、少し見上げた先にある彼の表情は読み取れない。でも分かる。ご機嫌そうだなって。
なんせ音が賑やかだ。スラリと伸びた彼の背を飾る半透明な羽。大きく広がったそれらが、ひっきりなしにパタパタはためいているんだから。
「あの……バアルさん。ホントに俺、変な顔になってませんか?」
再び大通りへ戻る前の、何度目かの確認。別に俺が自意識過剰という訳ではない。そもそも行き交う人々の視線は全部、バアルさんが独り占めにするからな。
とはいえ、素敵な彼の隣を歩くのだ。そして、今日は久々の城下町デートなのだ。ゆるっゆるに表情筋が溶けた、だらしのない顔を晒し続けるのは勘弁願いたい。
頭の片隅から、今更でわ? とか、もうすでに散々晒してるのでわ? とか聞こえてきたような気がするけれど、無視だ無視。
せっかくバアルさんが俺のことを「カッコいい」って思ってくれていることが判明したのだ。見栄をはらないで、カッコつけなくてどうするってんだ。
俺的に、精一杯顔を引き締めてから、バアルさんみたく緩やかに口角を上げてみる。キマっただろうか。少しくらい。
撫でてくれていた手が止まってしまった。俺の腰を抱いていた方の手が離れていったかと思えば、頬の方へと参戦した。両手で優しく包み込むように触れてくれながら、バアルさんが鍛え上げられた長身を屈めていく。
軽く後ろに撫でつけている白く艷やかな髪が、さらりと優しい目元を、目尻に刻まれた色っぽい大人なシワを、撫でていく。
生え際辺りに生えている細く長い触覚を弾ませ、額を、高い鼻先を、ちょこんと俺のとくっつけてきた。そのまま擦り寄せ、甘えてくれるバアルさん。彼から漂う優しいハーブの香り。唇に感じる熱い吐息。
……困ってしまう。また、心臓が煩くなっちゃったじゃないか。ようやく落ち着きかけてたってのに……嬉しいけど。
ふと視線が絡んだ。銀糸のように美しい睫毛が縁取る緑の瞳。若葉を思わせる鮮やかな煌めきが、ゆるりと微笑む。
「大丈夫ですよ、アオイ様」
「……ニヤけちゃったり、してません?」
「はい。誠に凛々しくもあり、お可愛らしいですよ。カッコいいです」
強烈過ぎた。穏やかに微笑む彼が、何の気なしに放った二の矢は。
「……そ、そう、ですか」
ただでさえ、さっきの大サービスなスキンシップで頭がふわふわしかけてたってのに。もう、崩壊寸前だ。イヤでもニヤけてしまいかけているのが分かる。
だって、仕方がないだろう? 大好きな彼から完璧なタイミングで、俺が欲しくて堪らなかった言葉をもらえたんだからさ。
俺にとっては、十分心満たされる形容詞だった。でも、彼にとってはまだまだ序の口だったらしい。
数歩進んだ先にある、屋台ひしめく大通りの賑わいとは、打って変わって静かな二人っきりの小道。ほんのり冷たい空気が撫でていく度に、唇が疼いた。何度も彼と触れ合ったからだろう。まだ大好きな温もりが残っている気がする。
まぁ、俺が悪いんですけどね。自分から「一回だけ、ですからね」とか言っておきながら、気がつけば「もっと」と強請っていた俺の。
いまだに熱を持つ俺の頬を、大きく白い手がゆったり撫でてくれている。薄暗いせいで、少し見上げた先にある彼の表情は読み取れない。でも分かる。ご機嫌そうだなって。
なんせ音が賑やかだ。スラリと伸びた彼の背を飾る半透明な羽。大きく広がったそれらが、ひっきりなしにパタパタはためいているんだから。
「あの……バアルさん。ホントに俺、変な顔になってませんか?」
再び大通りへ戻る前の、何度目かの確認。別に俺が自意識過剰という訳ではない。そもそも行き交う人々の視線は全部、バアルさんが独り占めにするからな。
とはいえ、素敵な彼の隣を歩くのだ。そして、今日は久々の城下町デートなのだ。ゆるっゆるに表情筋が溶けた、だらしのない顔を晒し続けるのは勘弁願いたい。
頭の片隅から、今更でわ? とか、もうすでに散々晒してるのでわ? とか聞こえてきたような気がするけれど、無視だ無視。
せっかくバアルさんが俺のことを「カッコいい」って思ってくれていることが判明したのだ。見栄をはらないで、カッコつけなくてどうするってんだ。
俺的に、精一杯顔を引き締めてから、バアルさんみたく緩やかに口角を上げてみる。キマっただろうか。少しくらい。
撫でてくれていた手が止まってしまった。俺の腰を抱いていた方の手が離れていったかと思えば、頬の方へと参戦した。両手で優しく包み込むように触れてくれながら、バアルさんが鍛え上げられた長身を屈めていく。
軽く後ろに撫でつけている白く艷やかな髪が、さらりと優しい目元を、目尻に刻まれた色っぽい大人なシワを、撫でていく。
生え際辺りに生えている細く長い触覚を弾ませ、額を、高い鼻先を、ちょこんと俺のとくっつけてきた。そのまま擦り寄せ、甘えてくれるバアルさん。彼から漂う優しいハーブの香り。唇に感じる熱い吐息。
……困ってしまう。また、心臓が煩くなっちゃったじゃないか。ようやく落ち着きかけてたってのに……嬉しいけど。
ふと視線が絡んだ。銀糸のように美しい睫毛が縁取る緑の瞳。若葉を思わせる鮮やかな煌めきが、ゆるりと微笑む。
「大丈夫ですよ、アオイ様」
「……ニヤけちゃったり、してません?」
「はい。誠に凛々しくもあり、お可愛らしいですよ。カッコいいです」
強烈過ぎた。穏やかに微笑む彼が、何の気なしに放った二の矢は。
「……そ、そう、ですか」
ただでさえ、さっきの大サービスなスキンシップで頭がふわふわしかけてたってのに。もう、崩壊寸前だ。イヤでもニヤけてしまいかけているのが分かる。
だって、仕方がないだろう? 大好きな彼から完璧なタイミングで、俺が欲しくて堪らなかった言葉をもらえたんだからさ。
俺にとっては、十分心満たされる形容詞だった。でも、彼にとってはまだまだ序の口だったらしい。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
306
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる