上 下
426 / 906

屋台のお味を皆さんとも

しおりを挟む
 結局、泣きながらの報告になってしまった。

 どうにか止まったけれども、まだまだ目も、鼻も、むしろ全身熱い。鼓動もバクバクだ。でも心は不思議と穏やかだった。

「それで、お願いの方なんですけど……」

 俺達も、皆さんも少し落ち着いたところで、もう一つの方を切り出す。ハンカチを手にしたり、お水を飲んでいた皆さんが再び俺達に向き直った。

「どうか皆さんに証人になってもらいたいんです。皆さんの前で儀式を、バアルさんとの永遠を、誓いたいんです」

「……どうか宜しくお願い致します」

 もう一度、バアルさんと一緒にお願いした。まだ顔も上げていないのに、はつらつとした声が返ってきた。

「うむ! 寧ろ此方からお願いしようと思っていたからな!」

「密かに準備も進めておったしのう」

 内緒だったんだろう。ヨミ様が、サタン様に向かって「父上!」と口の前で指を立てている。

 グリムさんからは、弾んだ声で「僕達の夢でしたから!」と。クロウさんも微笑み、頷いた。

 レタリーさんや、レダさんは「光栄です」とキレイなお辞儀を。スヴェンさんは「腕によりをかけたご馳走を作りますね!」と張り切っている。

 シアンさん達、親衛隊の皆さんは口を揃えて「私達もよろしいのですか?」と言っていたけれど、バアルさんと一緒に改めてお願いした。

 だって、俺とバアルさんが安心して暮らせているのは、皆さんのお陰なんだからさ。

「うっ、身に余る光栄で……ぐすっ」

 またしても、シアンさんの涙腺を決壊させてしまったけど。

「あー大丈夫ですよ。すぐに落ち着くっていうか、落ち着かせるんで」

「ほらほら、手で擦ってたら赤くなるよ」

「ベィティ……君、何枚ハンカチ持ってるんだい?」

「なぁなぁ、俺の翼、貸してやろうか? 自慢じゃないが、ふわふわだぜ?」

「だったら、私の尻尾だってツヤサラだが?」

 まぁ、サロメさんを筆頭に、皆さんがケアしてくれているから、大丈夫そうかな。何でか翼のふわふわ感と、馬尻尾のツヤサラ感で張り合っている、カイムさんとオロスさんという不安要素を除けば。

 ご報告も済み、無事に皆さんも儀式に参加してもらえるようになったからだろう。席に戻った途端に、腹の虫が騒ぎ始めてしまった。

 あ、今なら丁度いいんでわ? 皆さん揃ってるし。量も種類も沢山だから、足りないってことはないだろうし。

「皆さんお腹空いてません? 皆さんと一緒に食べたいお土産があるんですけど……」

「おおっ、もしかして、あの大きな串焼きであるか? それとも、父上のお顔を模したお饅頭であるか?」

 いの一番に身を乗り出し、期待に顔を輝かせたのはヨミ様だった。

 それにしても……なんか、妙に詳しくないだろうか? まるで、俺達の買い食いデートを終始見ていたかのような? いや、そんなまさか。

「はい、どちらもありますよ。やっぱり有名なお品何ですか? 屋台の定番とか?」

「そ、そそそそうであるな!」

 ……まさか、なのか?

 慌てふためくヨミ様の前に、どこからともなく出来立ての串焼きが入ったパックが。続けてお饅頭が詰まった紙袋を置きながら、バアルさんが微笑んだ。

「これらも『風のお噂』で知っていたのではないでしょうか?」

「そっ、そうである! そうであったのだよ!!」

「ああ、そうだったんですね。やっぱりヨミ様はスゴいですね!」

「う、うむっ!!」

 バアルさんと食べた時も格別だったけど。皆さんとご一緒に食べたお味も比べ物にならなかった。魔宝石のチョコレートも無事にお渡し出来て、俺としては大満足な時間だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...