間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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幸せな報告を、いの一番に皆さんに

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「……一緒ですね」

「ええ、お揃いでございますね」

 びっくりしている俺と、声を弾ませる彼。俺達が選んだ石の形は、同じ長方形だった。

 ……まぁ、これはこれで結果オーライだ。好みが一致したんだからさ。

 緩みそうになった頬を引き締め、次はリングの色と形。これまた、あっさり決まることになるとは。二つの魔宝石を前に、延々と悩んでいたのがウソみたいにスムーズだった。

 さっきと同じように指差しで、色は白銀。形はシンプルに太めのリングに、横にした長方形の魔宝石をあしらうようにした。一本腕っていうらしい。石を強調してくれるデザインなんだって。

 全て決まり、バアルさんがお会計を済ませてくれた。俺も今は手持ちがないけど、いずれは半分、と提案したのだけれど「どうか、此方だけは……」と潤んだ瞳で祈るようにお願いされてしまっては、頷くよりほかはなかった。

 指輪は数日中には出来るらしい。儀式の準備がどのくらいかかるのかは、詳しくない俺には分からない。けれども、皆さんの都合とか……色々あるだろう。多分。それらを考えると、無事にバアルさんと魔力を込める頃には完成していそうだ。

 笑顔の店員さん達に見送られ、お店を出る頃にはすっかり日が傾いていた。手を繋ぎ、歩みを進めていく街並みは夕焼けに染まっている。

「あの、バアルさん……」

「はい、いかがなさいましたか? 何処か、他に行きたい場所がございましたか?」

「行きたい、というか……会いたい方々がいるんです。今から」

 ゆったりと歩んでいた長い足がピタリと止まる。

 言い出しづらさが手伝ったからか、俺の視線は下がっていくばかり。もう茜色に染まる石造りの道しか映らない。

「その……ご報告、したいんです……俺とバアルさんとのこと……突然だし、気が早いし……我儘だなって分かっているんですけど……」

「……今すぐ連絡致しましょう」

 俺が反射的に顔を上げた時には、白い手の中には緑の結晶が、投影石が収まっていた。撮った写真を送れるくらいだ。連絡も出来るんだろう。

 目の奥が熱くなる喜びに、胸の内が温かく満たされていく。が、いまだにモヤモヤと渦巻く不安が消えることはない。

「……え、大丈夫……ですかね? っていうかいいんですか? バアルさんは……」

「私も、ご紹介したいのです。ヨミ様に、サタン様に、クロウさんやグリムさん達に……私の愛する妻を」

「バアルさん……」

 こぼれ落ちてしまうかと思った。いや、もう滲んでしまっていた。柔い指先に目尻を優しく拭われて、気づいた。もう、頬にまで伝い始めてしまっていたことに。

 しばらく宥めてくれるように、バアルさんは俺の頬を撫でてくれた。取り出したハンカチーフでそっと押し付けるように優しく目元を拭ってくれてから、白い髭が素敵な口元を綻ばせる。

「それから、ご心配なさらなくても大丈夫かと。ご迷惑どころか、むしろ皆様方は首を長くしてお待ちになって頂けているでしょうから」

「だったら、嬉しいんですけど……」

 ヘタれな俺は、中々お返事が出来なかった。

 初めて出会った時から、バアルさんは真摯に俺への愛を伝えてくれていたのに。俺だって最初っからまんざらじゃなかったのに。バアルさんのことが気になって、どうしても一緒に居たくて、転生や天国行きを拒むくらいには。

 とはいえ、俺は分かりやすい男だ。だから、バアルさん自身には勿論のこと、周囲にも彼への好意はダダ漏れだった。なんせ、初めてのお散歩デートの時から、皆さんに知れ渡っていたんだからな。俺がバアルさんと結婚するって。

 だから、この時の俺は、彼の言葉をこう受け取っていた。

 ……ああ、やっとか、って思われてるって。そういう意味だと思っていたんだけど。
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