417 / 1,055
幸せな報告を、いの一番に皆さんに
しおりを挟む
「……一緒ですね」
「ええ、お揃いでございますね」
びっくりしている俺と、声を弾ませる彼。俺達が選んだ石の形は、同じ長方形だった。
……まぁ、これはこれで結果オーライだ。好みが一致したんだからさ。
緩みそうになった頬を引き締め、次はリングの色と形。これまた、あっさり決まることになるとは。二つの魔宝石を前に、延々と悩んでいたのがウソみたいにスムーズだった。
さっきと同じように指差しで、色は白銀。形はシンプルに太めのリングに、横にした長方形の魔宝石をあしらうようにした。一本腕っていうらしい。石を強調してくれるデザインなんだって。
全て決まり、バアルさんがお会計を済ませてくれた。俺も今は手持ちがないけど、いずれは半分、と提案したのだけれど「どうか、此方だけは……」と潤んだ瞳で祈るようにお願いされてしまっては、頷くよりほかはなかった。
指輪は数日中には出来るらしい。儀式の準備がどのくらいかかるのかは、詳しくない俺には分からない。けれども、皆さんの都合とか……色々あるだろう。多分。それらを考えると、無事にバアルさんと魔力を込める頃には完成していそうだ。
笑顔の店員さん達に見送られ、お店を出る頃にはすっかり日が傾いていた。手を繋ぎ、歩みを進めていく街並みは夕焼けに染まっている。
「あの、バアルさん……」
「はい、いかがなさいましたか? 何処か、他に行きたい場所がございましたか?」
「行きたい、というか……会いたい方々がいるんです。今から」
ゆったりと歩んでいた長い足がピタリと止まる。
言い出しづらさが手伝ったからか、俺の視線は下がっていくばかり。もう茜色に染まる石造りの道しか映らない。
「その……ご報告、したいんです……俺とバアルさんとのこと……突然だし、気が早いし……我儘だなって分かっているんですけど……」
「……今すぐ連絡致しましょう」
俺が反射的に顔を上げた時には、白い手の中には緑の結晶が、投影石が収まっていた。撮った写真を送れるくらいだ。連絡も出来るんだろう。
目の奥が熱くなる喜びに、胸の内が温かく満たされていく。が、いまだにモヤモヤと渦巻く不安が消えることはない。
「……え、大丈夫……ですかね? っていうかいいんですか? バアルさんは……」
「私も、ご紹介したいのです。ヨミ様に、サタン様に、クロウさんやグリムさん達に……私の愛する妻を」
「バアルさん……」
こぼれ落ちてしまうかと思った。いや、もう滲んでしまっていた。柔い指先に目尻を優しく拭われて、気づいた。もう、頬にまで伝い始めてしまっていたことに。
しばらく宥めてくれるように、バアルさんは俺の頬を撫でてくれた。取り出したハンカチーフでそっと押し付けるように優しく目元を拭ってくれてから、白い髭が素敵な口元を綻ばせる。
「それから、ご心配なさらなくても大丈夫かと。ご迷惑どころか、むしろ皆様方は首を長くしてお待ちになって頂けているでしょうから」
「だったら、嬉しいんですけど……」
ヘタれな俺は、中々お返事が出来なかった。
初めて出会った時から、バアルさんは真摯に俺への愛を伝えてくれていたのに。俺だって最初っからまんざらじゃなかったのに。バアルさんのことが気になって、どうしても一緒に居たくて、転生や天国行きを拒むくらいには。
とはいえ、俺は分かりやすい男だ。だから、バアルさん自身には勿論のこと、周囲にも彼への好意はダダ漏れだった。なんせ、初めてのお散歩デートの時から、皆さんに知れ渡っていたんだからな。俺がバアルさんと結婚するって。
だから、この時の俺は、彼の言葉をこう受け取っていた。
……ああ、やっとか、って思われてるって。そういう意味だと思っていたんだけど。
「ええ、お揃いでございますね」
びっくりしている俺と、声を弾ませる彼。俺達が選んだ石の形は、同じ長方形だった。
……まぁ、これはこれで結果オーライだ。好みが一致したんだからさ。
緩みそうになった頬を引き締め、次はリングの色と形。これまた、あっさり決まることになるとは。二つの魔宝石を前に、延々と悩んでいたのがウソみたいにスムーズだった。
さっきと同じように指差しで、色は白銀。形はシンプルに太めのリングに、横にした長方形の魔宝石をあしらうようにした。一本腕っていうらしい。石を強調してくれるデザインなんだって。
全て決まり、バアルさんがお会計を済ませてくれた。俺も今は手持ちがないけど、いずれは半分、と提案したのだけれど「どうか、此方だけは……」と潤んだ瞳で祈るようにお願いされてしまっては、頷くよりほかはなかった。
指輪は数日中には出来るらしい。儀式の準備がどのくらいかかるのかは、詳しくない俺には分からない。けれども、皆さんの都合とか……色々あるだろう。多分。それらを考えると、無事にバアルさんと魔力を込める頃には完成していそうだ。
笑顔の店員さん達に見送られ、お店を出る頃にはすっかり日が傾いていた。手を繋ぎ、歩みを進めていく街並みは夕焼けに染まっている。
「あの、バアルさん……」
「はい、いかがなさいましたか? 何処か、他に行きたい場所がございましたか?」
「行きたい、というか……会いたい方々がいるんです。今から」
ゆったりと歩んでいた長い足がピタリと止まる。
言い出しづらさが手伝ったからか、俺の視線は下がっていくばかり。もう茜色に染まる石造りの道しか映らない。
「その……ご報告、したいんです……俺とバアルさんとのこと……突然だし、気が早いし……我儘だなって分かっているんですけど……」
「……今すぐ連絡致しましょう」
俺が反射的に顔を上げた時には、白い手の中には緑の結晶が、投影石が収まっていた。撮った写真を送れるくらいだ。連絡も出来るんだろう。
目の奥が熱くなる喜びに、胸の内が温かく満たされていく。が、いまだにモヤモヤと渦巻く不安が消えることはない。
「……え、大丈夫……ですかね? っていうかいいんですか? バアルさんは……」
「私も、ご紹介したいのです。ヨミ様に、サタン様に、クロウさんやグリムさん達に……私の愛する妻を」
「バアルさん……」
こぼれ落ちてしまうかと思った。いや、もう滲んでしまっていた。柔い指先に目尻を優しく拭われて、気づいた。もう、頬にまで伝い始めてしまっていたことに。
しばらく宥めてくれるように、バアルさんは俺の頬を撫でてくれた。取り出したハンカチーフでそっと押し付けるように優しく目元を拭ってくれてから、白い髭が素敵な口元を綻ばせる。
「それから、ご心配なさらなくても大丈夫かと。ご迷惑どころか、むしろ皆様方は首を長くしてお待ちになって頂けているでしょうから」
「だったら、嬉しいんですけど……」
ヘタれな俺は、中々お返事が出来なかった。
初めて出会った時から、バアルさんは真摯に俺への愛を伝えてくれていたのに。俺だって最初っからまんざらじゃなかったのに。バアルさんのことが気になって、どうしても一緒に居たくて、転生や天国行きを拒むくらいには。
とはいえ、俺は分かりやすい男だ。だから、バアルさん自身には勿論のこと、周囲にも彼への好意はダダ漏れだった。なんせ、初めてのお散歩デートの時から、皆さんに知れ渡っていたんだからな。俺がバアルさんと結婚するって。
だから、この時の俺は、彼の言葉をこう受け取っていた。
……ああ、やっとか、って思われてるって。そういう意味だと思っていたんだけど。
72
お気に入りに追加
523
あなたにおすすめの小説



【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる