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とある兵団長と王様と秘書への朗報
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現場は活力に満ちあふれていた。言わずもがな、我らが主が指揮を執っている作戦本部も。
バアル様とアオイ様、お二方から送られてきた仲睦まじいお写真によって、部下達の士気は右肩上がり。瞬く間に気力を取り戻した彼らによって、不埒な輩達の接触は全て未然に防がれていた。
一度だけ、アオイ様に気づかれそうになるという大ピンチに陥りかけたものの、大事には至らなかった。
優秀な部下達の活躍により、お二方は無事、市場での食べ歩きデートを楽しまれたご様子。お土産をご購入された後は、仲睦まじく手を繋ぎプラネタリウムへ向かわれたと連絡があった。なので、今しばらくは、ゆったり構えていられると踏んでいたのだが。
紅茶のお代わりを用意してくれていたレタリー殿。ふと彼の長い尾羽根が大きく揺れた。何やら慌てた様子で黒いスーツジャケットの懐を探ったかと思えば、黄緑色の結晶を取り出した。
投影石だ。おそらく部下達からだろう。プラネタリウムを出たと連絡が来たのだろうか。次の行き先が分かったのかもしれない。
向かいのソファーの真ん中でスラリと長い足を組み、優雅で気品のある仕草で紅茶を楽しんでいた我が主。ヨミ様も察したのであろう。
音も立てずに白い陶器のカップをソーサーへと戻す。鋭い真っ赤な瞳が、促すようにレタリー殿を見つめた。
「ヨミ様、レダ殿……お気持ちを強く持たれて下さい」
そう恐る恐る告げた彼の尾羽根は震えていた。穏やかな微笑みばかりを浮かべている口元も、僅かに引きつってしまっている。
まさか、緊急事態か? お二方の身に何か?
私は、思わず立ち上がってしまっていた。ヨミ様の凛々しいお顔も険しく歪んでいく。
「……何があった。早く申せ」
ただでさえ張り詰めていた空気が重くなる。我が主が発した地を這うような声は、努めて冷静で小さかった。
だが、腹の芯まで響き、震えてしまう。握り締めた拳だけではない。尻尾の毛先までもが。
息も出来ない沈黙の中、レタリー殿が口を開く。淡々とした報告。だが、その声色は場の雰囲気とは真逆だった。心なしか、弾んでいるようにさえ聞こえた。
「お二人が魔力の花を渡し合われたようです」
「な?」
「は?」
いや、弾んでしまうのも致し方がない。何故ならば、身構えていた、予想していた悪い報告ではなかったのだから。むしろ、素晴らしい朗報だったのだから。
つい、間の抜けた声を発してしまった私と同様に、ヨミ様も呆気に取られていらっしゃるようだ。
切れ長の瞳は丸くなってしまっている。腰まで伸ばされた長く艷やかな髪。穏やかな闇を思わせる高貴な黒と同色の羽も、大きく広がったまま固まっていた。
私達の驚きをよそに、報告は続いていく。ツラツラと歌い上げるように。柔らかい微笑みを添えて。
「バアル様の胸ポケットには、アオイ様のお花が。アオイ様の胸元には、バアル様が作られたお花を着けていらしたとの事」
これが証拠と言わんばかりに、レタリー殿が私達に向かって投影石を差し出した。淡く輝く結晶から一筋の光が伸び、宙へ画像を映し出す。
そこには、手を繋ぎ、笑顔で寄り添い合うお二方が。そして、バアル様の左胸にはオレンジ色のヒマワリが、アオイ様の襟元には緑色のバラが、魔力の花が輝いていた。
魔力の花は、愛する者を想うことでしか咲かせることが出来ない。それ故に特別な相手に贈るのが一般的だ。
勿論、家族や友人に贈ることもある。だが、お二方は将来を誓い合っていらっしゃるのだ。そんなお二方が花を贈り合う理由なんて、一つしかないだろう。
「ちょ、ちょちょちょっと待ってくれ」
「さらに、もう一つご報告が」
「待てと言っておろうが!!」
おいたわしや……供給過多になっておられるのであろう。声を荒げ、頬を真っ赤に染めたヨミ様の美しいご尊顔は、ひっちゃかめっちゃか。喜び、感動、驚き、色々な感情が綯い交ぜになってしまわれている。
無理もない。バアル様とアオイ様の幸せを一番願っていらっしゃるのだから。お二方のことが、大好きで仕方がないのだから。
だがしかし、レタリー殿の報告は止まらない。ヨミ様が、待てと仰っているのに。今にも泣いてしまわれそうだというのに。
「お二人は、今、魔宝石店へと向かわれているそうです。ヨミ様、貴方様が勧められた、この国一番の」
決定的な一言だった。
間違いない。ついに、プロポーズをなされたのだ。そしてアオイ様は、それを受け入れられたのだ。その証が、オレンジのヒマワリだろう。答えとして、魔力の花をお渡しになられたに違いない。
「っ……」
此方にとっても決定打になったようだ。
スタイルのいい長身が、ふらりと揺れて、絨毯に向かって倒れていく。
だが、そんなことは私達の前でさせる訳がない。私が御身を抱き止めたのとほぼ同時に、レタリー殿もヨミ様の御身体を支えていた。
「ヨミ様っ! お気を確かに!!」
「すぐお目覚めになられるでしょうが……ひとまずベッドに寝かせましょう。私はお水をご用意致します」
「承知した」
失礼して、横抱きに抱え部屋の隅にあるベッドへと向かう。静かに瞳を閉じたそのお顔は、なんとも幸せそうな笑顔を浮かべていた。
バアル様とアオイ様、お二方から送られてきた仲睦まじいお写真によって、部下達の士気は右肩上がり。瞬く間に気力を取り戻した彼らによって、不埒な輩達の接触は全て未然に防がれていた。
一度だけ、アオイ様に気づかれそうになるという大ピンチに陥りかけたものの、大事には至らなかった。
優秀な部下達の活躍により、お二方は無事、市場での食べ歩きデートを楽しまれたご様子。お土産をご購入された後は、仲睦まじく手を繋ぎプラネタリウムへ向かわれたと連絡があった。なので、今しばらくは、ゆったり構えていられると踏んでいたのだが。
紅茶のお代わりを用意してくれていたレタリー殿。ふと彼の長い尾羽根が大きく揺れた。何やら慌てた様子で黒いスーツジャケットの懐を探ったかと思えば、黄緑色の結晶を取り出した。
投影石だ。おそらく部下達からだろう。プラネタリウムを出たと連絡が来たのだろうか。次の行き先が分かったのかもしれない。
向かいのソファーの真ん中でスラリと長い足を組み、優雅で気品のある仕草で紅茶を楽しんでいた我が主。ヨミ様も察したのであろう。
音も立てずに白い陶器のカップをソーサーへと戻す。鋭い真っ赤な瞳が、促すようにレタリー殿を見つめた。
「ヨミ様、レダ殿……お気持ちを強く持たれて下さい」
そう恐る恐る告げた彼の尾羽根は震えていた。穏やかな微笑みばかりを浮かべている口元も、僅かに引きつってしまっている。
まさか、緊急事態か? お二方の身に何か?
私は、思わず立ち上がってしまっていた。ヨミ様の凛々しいお顔も険しく歪んでいく。
「……何があった。早く申せ」
ただでさえ張り詰めていた空気が重くなる。我が主が発した地を這うような声は、努めて冷静で小さかった。
だが、腹の芯まで響き、震えてしまう。握り締めた拳だけではない。尻尾の毛先までもが。
息も出来ない沈黙の中、レタリー殿が口を開く。淡々とした報告。だが、その声色は場の雰囲気とは真逆だった。心なしか、弾んでいるようにさえ聞こえた。
「お二人が魔力の花を渡し合われたようです」
「な?」
「は?」
いや、弾んでしまうのも致し方がない。何故ならば、身構えていた、予想していた悪い報告ではなかったのだから。むしろ、素晴らしい朗報だったのだから。
つい、間の抜けた声を発してしまった私と同様に、ヨミ様も呆気に取られていらっしゃるようだ。
切れ長の瞳は丸くなってしまっている。腰まで伸ばされた長く艷やかな髪。穏やかな闇を思わせる高貴な黒と同色の羽も、大きく広がったまま固まっていた。
私達の驚きをよそに、報告は続いていく。ツラツラと歌い上げるように。柔らかい微笑みを添えて。
「バアル様の胸ポケットには、アオイ様のお花が。アオイ様の胸元には、バアル様が作られたお花を着けていらしたとの事」
これが証拠と言わんばかりに、レタリー殿が私達に向かって投影石を差し出した。淡く輝く結晶から一筋の光が伸び、宙へ画像を映し出す。
そこには、手を繋ぎ、笑顔で寄り添い合うお二方が。そして、バアル様の左胸にはオレンジ色のヒマワリが、アオイ様の襟元には緑色のバラが、魔力の花が輝いていた。
魔力の花は、愛する者を想うことでしか咲かせることが出来ない。それ故に特別な相手に贈るのが一般的だ。
勿論、家族や友人に贈ることもある。だが、お二方は将来を誓い合っていらっしゃるのだ。そんなお二方が花を贈り合う理由なんて、一つしかないだろう。
「ちょ、ちょちょちょっと待ってくれ」
「さらに、もう一つご報告が」
「待てと言っておろうが!!」
おいたわしや……供給過多になっておられるのであろう。声を荒げ、頬を真っ赤に染めたヨミ様の美しいご尊顔は、ひっちゃかめっちゃか。喜び、感動、驚き、色々な感情が綯い交ぜになってしまわれている。
無理もない。バアル様とアオイ様の幸せを一番願っていらっしゃるのだから。お二方のことが、大好きで仕方がないのだから。
だがしかし、レタリー殿の報告は止まらない。ヨミ様が、待てと仰っているのに。今にも泣いてしまわれそうだというのに。
「お二人は、今、魔宝石店へと向かわれているそうです。ヨミ様、貴方様が勧められた、この国一番の」
決定的な一言だった。
間違いない。ついに、プロポーズをなされたのだ。そしてアオイ様は、それを受け入れられたのだ。その証が、オレンジのヒマワリだろう。答えとして、魔力の花をお渡しになられたに違いない。
「っ……」
此方にとっても決定打になったようだ。
スタイルのいい長身が、ふらりと揺れて、絨毯に向かって倒れていく。
だが、そんなことは私達の前でさせる訳がない。私が御身を抱き止めたのとほぼ同時に、レタリー殿もヨミ様の御身体を支えていた。
「ヨミ様っ! お気を確かに!!」
「すぐお目覚めになられるでしょうが……ひとまずベッドに寝かせましょう。私はお水をご用意致します」
「承知した」
失礼して、横抱きに抱え部屋の隅にあるベッドへと向かう。静かに瞳を閉じたそのお顔は、なんとも幸せそうな笑顔を浮かべていた。
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