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ノリノリな彼と、ドキドキでされるがままの俺

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 連写する手が止まらない。

 氷が盛られたスプーンを手に微笑むバアルさん。慈しむような眼差しで、俺にあーんをしてくれるバアルさん。

 俺が差し出すスプーンを、睫毛を伏せて食む姿は相変わらず色っぽく。かき氷を食べている時の美味しそうな笑顔は、スゴくかわいい。

 さらに大サービス。お願いしなくても、カッコいい微笑みや、ウィンクを送ってくれるもんだから困ってしまう。

「素敵でふ……バアルしゃん……素敵過ぎまふ……」

 語彙力が溶けてしまった。

 さっきから、カッコいい、かわいい、素敵、しか言えてない。っていうか言葉自体、しっかり発音出来ていない。ポンコツだ。ポンコツになってしまっている。

「お褒めに預かり、大変光栄に存じます」

 胸に手を当てた彼の瞳が、嬉しそうに微笑む。その瞬間すら輝いて見えて、握った投影石に魔力を込めてしまっていた。

 再び淡く瞬きながら、高速連写し始める俺の石。瞬きが収まるまで待ってくれてから、バアルさんがおずおずと口を開く。お手本みたいな姿勢で座る彼の背で、半透明の羽がそわそわ揺れていた。

「……ところで、そろそろ交代させて頂いても宜しいでしょうか?」

「は、はいっ! すみません、俺ばっかり楽しんじゃってて」

「いえ、私にとっても大変有意義なお時間でしたよ。可愛らしい貴方様の視線を、独り占め出来ましたので」

「っ……」

 こんな時に彼みたく、スマートに応えられたらいいのに。伝えられたらいいのに。どんな時もバアルさんに夢中だって。バアルさんのことばっかり考えてるって。

「…………好き」

 現実は、この二文字を伝えるだけで精一杯なのだけれど。

「ふふ、私も愛しておりますよ」

 それすらも、キレイに微笑む彼に容易く越えられてしまうのだけれど。



 今度は脳みそが溶けてしまいそうだ。

「大変お可愛いらしいですよ……私のアオイ……もう一度、この老骨めに微笑んで頂けませんか?」

 上手く笑えていないだろう。むしろだらしのない顔になってるだろうに。

「ああ、素晴らしい……お美しいですよ……澄んだ琥珀色の瞳も、真っ赤に染まった可憐な頬も、愛らしく微笑む小さな唇も……貴方様の全てが私の心を囚えて離しません……」

 うっとり微笑んでくれるだけじゃない。口に含んだかき氷よりも甘ったるい囁きを、心が弾むお褒めの言葉を、浴びせるようにたっぷりくれるんだから。

「あ、あの……バアルひゃん……」

「はいっ、いかがなさいましたか?」

 ゆらゆら、ぱたぱた、賑やかになっている彼の触覚と羽。それらに負けず劣らずの弾んだ声と眩しい笑顔で答えた彼の手は、いまだに淡く緑色に瞬いている。一秒足りとも逃さず、写真に収めるつもりなんだろうか。

「その、一緒のお写真も……撮りたいんですけど……」

 ……このままじゃ、心臓がもちそうにない。いや、心臓だけじゃないな。

 熱くて仕方がない全身は小刻みに震え、額や背中に汗が滲んでいる。

 お花が咲き乱れている頭は、くらくらふわふわしちゃってるし、膝も笑いっぱなしだ。なんなら、腰も抜けてしまいそう。椅子からずり落ちてしまいそうだ。

 嬉し過ぎて悲鳴を上げまくっている全身を休ませるべく、した提案。

 もう少し宜しいでしょうか? とお願いされるかもとも思ったが、案外あっさり乗ってくれた。

「ああ、左様でございましたね」

 撮りやすいようにだろう。静かに立ち上がったバアルさんが、ご自分の椅子を軽々と片手で抱え、俺のすぐ側までやってきてくれる。

 椅子を置き、美しい所作で座り直す。優しいハーブの匂いが香り、男らしいガッシリとした肩が俺の肩と触れ合った。

「では、失礼致します」

 てっきり、このまま撮るんだと。十分近かったからさ。でも彼は、ごくごく自然に俺の肩に手を回してきたんだ。

「ひょわ……」

 優しく抱き寄せられて、軽く背筋をかがめた彼の滑らかな頬と、俺の頬とがぴたりとくっついてしまう。

 まさに、その瞬間だった。俺達の前で浮いていた投影石が、淡く瞬いたのは。

「ふむ、いいお写真が撮れましたね」

 満足そうにバアルさんが微笑んだ。

 俺を抱き寄せたまま、指先で触れた石が放つ光の中で、ぼんやり浮かんでいる画像。目の前に、ハガキサイズで表示されているそれには、先程の俺達が。頬を寄せ柔らかく微笑むバアルさんと、顔を真っ赤にしている俺が映っていた。

 確かに、素敵なお写真だ。左に映っているバアルさんのとびきりな笑顔は。

 もっとカッコいいところを……いや、せめて笑顔くらい即座に決められれば……

 反省会も、後悔もする間もなく、撮影会は進んでいく。

「お次は、食べさせ合いっこを致しましょうか」

「ひゃ、ひゃい……」

 その後も俺達は、宙に浮かぶ投影石の前でポーズを決め続けた。とはいっても、結局俺はノリノリなバアルさんにドキドキしっぱなしで、ほとんどされるがままだったんだけどさ。



「……誠に良い思い出が出来ました」

 噛みしめるように呟き、投影石を胸元で握るバアルさんはご満悦そうだ。瞳はとろんと細められ、カッコいいお髭が素敵な口元からは、喜びがあふれてしまいそう。

 俺も大満足だ。バアルさんが楽しんでくれたのは勿論だけど、また彼との思い出が増えたからな。

「また、いっぱい撮りましょうね」

「ええっ」

 ヨミ様に見せるのが、今から楽しみだな。

 思い浮かべたからだろうか。気持ちがそわそわして落ち着かない。大好きなバアルさんの魅力を共有してくれる、無邪気な笑顔と輝く真っ赤な瞳が、チラついてしまう。

「……あの、バアルさん」

「はい、アオイ様」

「投影石って、撮った写真を送ることも出来るんですよね?」

「ええ。事前に送るお相手の投影石と、術で繋いでおく必要がございますが……」

 不意に言葉を切ったかと思えば、納得したように頷き微笑む。細められた眼差しには、優しい光が灯っていた。

「送りたいのでしょうか? ヨミ様に」

 バアルさんには、俺の心の中なんて、まるっとお見通しなんだろうか。提案するより先に、ズバリ言い当てられてしまった。

「は、はい」

「では、いくつか選びましょうか。ご一緒に」

「はいっ」

 悩みに悩んで俺が決めた、バアルさんのベストショット。美味しそうな笑顔を浮かべるバアルさん。彼が選んだ、スプーン片手に照れっぱなしの俺。それから、何とか俺も笑顔で映れたツーショット。それらをヨミ様に送ってもらった。

 お忙しい身の上なのに、いつも俺とバアルさんを気遣ってくれる優しい王様。彼に少しでも伝わればいいんだけれど。貴方のお陰で俺達は今を楽しんでいられるんだと。幸せなひと時を過ごせているんだと。
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