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万が一を考えなくてもいいくらいに
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「失礼、念の為に保護の術を重ねてかけさせて頂きました」
「保護の術、ですか?」
ああ、それで。
一つの疑問は解決した。感じた、熱い何かが流れ込んでくるような感覚。それは、彼がかけてくれた術によるものだったのだ。解決したと同時に新たな疑問が生まれたのだけれど。
「此方の器は、術によって冷やされております。私達にとっては、素手で触れても何ら問題のない温度です」
確かに。言われて見れば、器の周囲には白い煙が漂っている。外気との温度差で見えているにしては多い。そもそも、そんなに熱くないしな。
俺達の手元までモヤモヤと至り、その内テーブル全体を覆ってしまいそうな様子は、まるでドライアイス…………あっ。
俺が思い出した、ドライアイスを使う際のNG行動。素手で触ると危ない。凍傷を起こす危険がある。それらが、新たな疑問の答えだった。
「ですが、アオイ様……貴方様の玉のように美しいお肌は、細く可愛らしいお指は、大変繊細でいらっしゃる」
そう、彼は心配してくれていたのだ。以前、包丁を使う際に俺の手を守ってくれていた時と同じで。
「常に御身を自動で守る術の数々を施してはおります。ですが、万が一……愛する貴方様の指が傷ついてしまうやもしれない……そのような不安が拭えなかったのです」
ぽつぽつ語る声色は、凛々しい眉を顰める様は、自分のことみたいに苦しそう。繋いだまま、俺の手を優しく撫でてくれる。
皆さん方には便利な、なんなら当たり前のサービス。それらが人間の俺にとっては、ケガの原因になり得るんだ。
なんせ、お城や城下町にあるものは全て悪魔の皆さん御用達。いや、そもそも人間が触れるなんて考えていないのだから。この国で暮らしている人間は、俺だけなのだから。
考えれば分かること、だよな。
改めて、俺の境遇は恵まれ過ぎているんだと実感する。ずっとバアルさんに、皆さん方に守ってもらってたんだな。万が一を考えなくてもいいくらい、色んな物に触れる際に怯えなくてもいいくらい。ずっと。
「ありがとうございます、バアルさん」
「いえ。お食事の邪魔をしてしまい、申し訳ございませんでした」
律儀だな。バアルさんが謝ることなんて一切ないのに。俺を大事に思ってくれてのことなんだからさ。
「全然ですよ、気にしないで下さい。心配してくれてありがとうございます」
伏せられていた瞳が、ゆっくり俺を捉える。瞬き、微笑んだ緑は、宝石のように美しい。
一気にぶり返していくのが分かった。カッと顔に熱が集まり、大きく跳ねた鼓動がバクバク小躍りし始めてしまう。
「っ……じゃ、じゃあ、改めて頂きましょうか」
「ええ、溶けてしまうといけませんからね」
「あの……」
「いかがなさいましたか?」
手は繋いだままなんですか? 食べにくくありません?
なんて、言えなかった。言えるハズがなかった。だって、もう、指を絡めて握り直されていらっしゃる。離さないと言わんばかりに力を込めて。
しかも、すこぶるご満悦そうなのだ。先がくるんと反った細く長い触覚をふわふわ弾ませ、水晶のように透き通った羽をぱたぱたはためかせていらっしゃるんだから。
彼が喜んでくれるのなら、多少の食べ辛さなんて何のその。俺だって繋げるもんなら四六時中、バアルさんと繋いでいたいもんな。ああ、何だ。全く問題ないじゃないか。
「……なんでもないでふ」
ふにゃふにゃになった表情筋と滑舌以外は。
「左様でございますか」
重ねている手を握り返す。緩やかなラインを描いていた唇が、ますます笑みを深くした。
「保護の術、ですか?」
ああ、それで。
一つの疑問は解決した。感じた、熱い何かが流れ込んでくるような感覚。それは、彼がかけてくれた術によるものだったのだ。解決したと同時に新たな疑問が生まれたのだけれど。
「此方の器は、術によって冷やされております。私達にとっては、素手で触れても何ら問題のない温度です」
確かに。言われて見れば、器の周囲には白い煙が漂っている。外気との温度差で見えているにしては多い。そもそも、そんなに熱くないしな。
俺達の手元までモヤモヤと至り、その内テーブル全体を覆ってしまいそうな様子は、まるでドライアイス…………あっ。
俺が思い出した、ドライアイスを使う際のNG行動。素手で触ると危ない。凍傷を起こす危険がある。それらが、新たな疑問の答えだった。
「ですが、アオイ様……貴方様の玉のように美しいお肌は、細く可愛らしいお指は、大変繊細でいらっしゃる」
そう、彼は心配してくれていたのだ。以前、包丁を使う際に俺の手を守ってくれていた時と同じで。
「常に御身を自動で守る術の数々を施してはおります。ですが、万が一……愛する貴方様の指が傷ついてしまうやもしれない……そのような不安が拭えなかったのです」
ぽつぽつ語る声色は、凛々しい眉を顰める様は、自分のことみたいに苦しそう。繋いだまま、俺の手を優しく撫でてくれる。
皆さん方には便利な、なんなら当たり前のサービス。それらが人間の俺にとっては、ケガの原因になり得るんだ。
なんせ、お城や城下町にあるものは全て悪魔の皆さん御用達。いや、そもそも人間が触れるなんて考えていないのだから。この国で暮らしている人間は、俺だけなのだから。
考えれば分かること、だよな。
改めて、俺の境遇は恵まれ過ぎているんだと実感する。ずっとバアルさんに、皆さん方に守ってもらってたんだな。万が一を考えなくてもいいくらい、色んな物に触れる際に怯えなくてもいいくらい。ずっと。
「ありがとうございます、バアルさん」
「いえ。お食事の邪魔をしてしまい、申し訳ございませんでした」
律儀だな。バアルさんが謝ることなんて一切ないのに。俺を大事に思ってくれてのことなんだからさ。
「全然ですよ、気にしないで下さい。心配してくれてありがとうございます」
伏せられていた瞳が、ゆっくり俺を捉える。瞬き、微笑んだ緑は、宝石のように美しい。
一気にぶり返していくのが分かった。カッと顔に熱が集まり、大きく跳ねた鼓動がバクバク小躍りし始めてしまう。
「っ……じゃ、じゃあ、改めて頂きましょうか」
「ええ、溶けてしまうといけませんからね」
「あの……」
「いかがなさいましたか?」
手は繋いだままなんですか? 食べにくくありません?
なんて、言えなかった。言えるハズがなかった。だって、もう、指を絡めて握り直されていらっしゃる。離さないと言わんばかりに力を込めて。
しかも、すこぶるご満悦そうなのだ。先がくるんと反った細く長い触覚をふわふわ弾ませ、水晶のように透き通った羽をぱたぱたはためかせていらっしゃるんだから。
彼が喜んでくれるのなら、多少の食べ辛さなんて何のその。俺だって繋げるもんなら四六時中、バアルさんと繋いでいたいもんな。ああ、何だ。全く問題ないじゃないか。
「……なんでもないでふ」
ふにゃふにゃになった表情筋と滑舌以外は。
「左様でございますか」
重ねている手を握り返す。緩やかなラインを描いていた唇が、ますます笑みを深くした。
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