間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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フルーティーな香りを漂わせている氷の山へ、いざ

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「お待たせいたしました!」

 揺れるポニーテールと同じく白いうさ耳を弾ませながら、店員のお姉さんがピンク色の丸い瞳を細める。

 彼女の手首はか細く、ふわもふな毛に覆われた手は小さくて可愛らしい。とはいえ流石は悪魔さん、彼女も例に漏れず力持ちみたいだ。いかにも重たそうな大きい硝子の器に盛られたかき氷を二つ、軽々と左右にそれぞれ持っている。

 絡めて繋いでいた手に、きゅっと力が込められる。手の甲を指先で撫でてくれてから、ひと回り大きな手が名残惜しそうに離れていく。

「ありがとうございます」

 穏やかな笑みを店員さんへと向けたバアルさん。白に近い薄灰色のコートとのコントラストが爽やかな、淡い水色のシャツの胸元に手を当て、会釈を返した。流れるような所作が美しい。緩めに撫でつけられている白い髪が、透明感のある彼の頬を優しく撫でた。

 ……カッコいい。たった一言、たった一つの動作、それだけでときめかされてしまうなんて。

 お姉さんも同志のようだ。頬をぽっと染めて、見惚れていらっしゃる。そのお気持ち、分かりますよ。分かりますとも。

 といってもプロだ。くるんとカールした睫毛を瞬かせたかと思えば、可憐なお顔を引き締め、満面のスマイルを浮かべた。白いテーブルに手早くかき氷を並べてから頭を下げる。

「ごゆっくりお過ごし下さいませ!」

 もう一度、声色と同じ明るい笑みを見せてくれてから、お兄さんがいる屋台へと戻っていった。

 俺の前で、ひんやりとした冷気を放っているかき氷の山は見た感じ、ガリガリ系ではなくふわふわ系だ。

 緑、黄緑、黄、三色のグラデーションになっているシロップに彩られた天辺には、大きなバニラアイス。さらにその上には真っ赤なさくらんぼが、ちょこんと飾られている。

 氷の山の麓には、一口サイズにカットされたメロン。緑とオレンジ色の果肉がたっぷりトッピングされていた。ちょっと判断を誤れば、一気に雪崩が起きてしまいそう。

 バアルさんが選んだかき氷のシロップは、夕焼け空を思わせる濃い赤、オレンジ、薄いオレンジの三色。天辺には生クリーム、その上にミントの葉が乗せられている。

 トッピングはオレンジ色のシャーベット。それから、あふれんばかりのみかんやマンゴー。こちらもお値段以上にサービス盛り盛りなお品だ。

 どちらも甲乙つけがたい、キレイなビジュアル。食べるのが勿体ないくらい。

 まぁ、食べるけど。溶かしてしまう方が、もっと勿体ないもんな。

「じゃあ、頂きましょうか」

 スプーンの先端を包んでいる紙ナプキンを外す。フルーティーな香りを漂わせている氷の山へ、いざ。

「少々お待ち下さい、アオイ様」

 匙を向けたところで、まさかのおあずけを食らってしまった。

 穏やかな低音で、俺に待ったをかけたバアルさん。彼の表情は固い。すっかりなくなってしまっている。さっきまで俺の心臓を度々はしゃがせていた、砂糖菓子のように甘い微笑みが。

「は、はい」

 慌てて手にしていたスプーンを、くしゃくしゃな紙ナプキンの上に置く。

 何かあったんだろう。俺には、見当もつかないけれど。

 なんせ、常に冷静沈着。どんなトラブルだって、柔らかい笑みを浮かべながらスマートに事を解決してしまう。頼もしくて、同じ男として憧れしかない彼が、表情を引き締めるくらいだからな。

 とはいえ、運んでもらったメニューに不備はないハズ。オススメだと、店員さんに見せてもらった写真と一緒だし。

 じゃあ、一体?

 すぐに考えが行き詰まった俺の手を、柔らかい温もりが包み込む。

 手だ、バアルさんの。銀糸のようにキレイな睫毛を伏せ、俺の手を両手でしっかり握っていらっしゃる。

 伝わってくる温度が熱い。いや、ただ肌から肌を通してというよりは、何かが俺の手へと直接、流れ込んできているような?

「えっと……バアル、さん?」
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