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バアルさんという多大な宣伝効果
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「うわ……いつの間にか、賑やかになってますね」
最後まで美味しく頂いて食べ終えた串は、バアルさんの術で何処かのゴミ箱へ。じゃあ、そろそろと席を立てば、すぐ側には賑やかな行列が出来ていた。
ある方は猫のような尻尾をそわそわと振りながら、またある方は蝉のような羽を鳴らしながら、串が焼けるのを今か今かと待っている。
ぱっと数えただけでも十数人。いや、まだまだ増えそうだ。
嬉しそうに串焼きを持つ皆さんに惹かれてか、通りがかりの方々が、あれ美味しそう、と言わんばかりに指を指し、目を輝かせては列の最後尾へと加わっているからな。
それにしても、今の今まで気がつかなかったとは。少し離れているとはいえ、屋台屋根の側に居たのに。なんか周りがザワついてるな、とは思っていたけどさ。
カッコかわいいバアルさんの笑顔とお肉しか見えてなかったもんな。仕方がない。
「ええ。やはり皆様、此方の串焼きの香ばしい匂いに誘われていらっしゃったのでしょう。大変、魅力的でございますので」
「いい匂いですもんね。食べ終えたばっかりなのに、また食べたくなっちゃ」
「おかわり、致しますか?」
嬉しそうに瞳を輝かせ、颯爽とお財布をチラつかせてくるバアルさん。
お気持ちは嬉しい。それから、ご期待にも応えたいんだけど、胃の容量には限りがあるしな。
「ありがとうございます。でも、まだまだ色々バアルさんと一緒に食べたいですし。また食べに来ましょう?」
「左様でございますね」
今度は曇らせることはなかった。あっさりお財布をしまったバアルさんは、柔らかく瞳を細めたまま。新しい約束を交わし、襟元を整えた彼の手を取り繋ぐ。
「じゃあ、次はスイーツ行きましょうか! バアルさんが気になってたヤツ!」
「はい、参りましょう」
優しい目元を飾る大人なシワを深くしながら、バアルさんが繋いだ手を握り返してくれる。通りの少し先に見える、ビビットカラーな上りを目指して歩み出す。出そうとしたのだが。
「あっ、ちょっと待ってくれよ! お兄さん達!」
慌てたような声に引き止められた。振り向けば、串を焼きつつ、焼き立てをお客さんに渡しつつ、お代を受け取りつつと、てんてこ舞いな店員のお兄さん。
たった一人で多くのお客さんに応対しながら、俺達に向かって何度も「待ってくれ!」と呼びかけている。
理由はさっぱりだ。けれども、話しを聞かない訳にはいかない。必死なお兄さんの整った顔は、今にも泣きそうなくらいに歪んでしまっていたからな。
バアルさんも同意見らしい。見上げると小さく頷き、微笑んだ。俺達が屋台へ歩み寄っていくと、お兄さんの表情が途端にぱぁっと明るくなる。
「ああ、良かった! 是非とも二人にお礼を言いたかったんだよ!」
「……お礼、ですか?」
「私達は何もしておりませんが……」
「いやいや、お陰様で大繁盛だよ! お兄さん達が仲良く美味しそうに食べてくれたからさ!」
思わず顔を見合わせていた俺達に、お兄さんがニカッと白い牙を見せて笑う。
正直偶々な気もするが、言うのは野暮ってもんだろう。それに、俺はともかくバアルさんのカッコよさに、多大な宣伝効果があるのは間違いないしな。
現にチラホラ感じているし。すでに串を持っている人からも、まだ並んでいる列からも。男女問わず熱のこもった視線を。
最後まで美味しく頂いて食べ終えた串は、バアルさんの術で何処かのゴミ箱へ。じゃあ、そろそろと席を立てば、すぐ側には賑やかな行列が出来ていた。
ある方は猫のような尻尾をそわそわと振りながら、またある方は蝉のような羽を鳴らしながら、串が焼けるのを今か今かと待っている。
ぱっと数えただけでも十数人。いや、まだまだ増えそうだ。
嬉しそうに串焼きを持つ皆さんに惹かれてか、通りがかりの方々が、あれ美味しそう、と言わんばかりに指を指し、目を輝かせては列の最後尾へと加わっているからな。
それにしても、今の今まで気がつかなかったとは。少し離れているとはいえ、屋台屋根の側に居たのに。なんか周りがザワついてるな、とは思っていたけどさ。
カッコかわいいバアルさんの笑顔とお肉しか見えてなかったもんな。仕方がない。
「ええ。やはり皆様、此方の串焼きの香ばしい匂いに誘われていらっしゃったのでしょう。大変、魅力的でございますので」
「いい匂いですもんね。食べ終えたばっかりなのに、また食べたくなっちゃ」
「おかわり、致しますか?」
嬉しそうに瞳を輝かせ、颯爽とお財布をチラつかせてくるバアルさん。
お気持ちは嬉しい。それから、ご期待にも応えたいんだけど、胃の容量には限りがあるしな。
「ありがとうございます。でも、まだまだ色々バアルさんと一緒に食べたいですし。また食べに来ましょう?」
「左様でございますね」
今度は曇らせることはなかった。あっさりお財布をしまったバアルさんは、柔らかく瞳を細めたまま。新しい約束を交わし、襟元を整えた彼の手を取り繋ぐ。
「じゃあ、次はスイーツ行きましょうか! バアルさんが気になってたヤツ!」
「はい、参りましょう」
優しい目元を飾る大人なシワを深くしながら、バアルさんが繋いだ手を握り返してくれる。通りの少し先に見える、ビビットカラーな上りを目指して歩み出す。出そうとしたのだが。
「あっ、ちょっと待ってくれよ! お兄さん達!」
慌てたような声に引き止められた。振り向けば、串を焼きつつ、焼き立てをお客さんに渡しつつ、お代を受け取りつつと、てんてこ舞いな店員のお兄さん。
たった一人で多くのお客さんに応対しながら、俺達に向かって何度も「待ってくれ!」と呼びかけている。
理由はさっぱりだ。けれども、話しを聞かない訳にはいかない。必死なお兄さんの整った顔は、今にも泣きそうなくらいに歪んでしまっていたからな。
バアルさんも同意見らしい。見上げると小さく頷き、微笑んだ。俺達が屋台へ歩み寄っていくと、お兄さんの表情が途端にぱぁっと明るくなる。
「ああ、良かった! 是非とも二人にお礼を言いたかったんだよ!」
「……お礼、ですか?」
「私達は何もしておりませんが……」
「いやいや、お陰様で大繁盛だよ! お兄さん達が仲良く美味しそうに食べてくれたからさ!」
思わず顔を見合わせていた俺達に、お兄さんがニカッと白い牙を見せて笑う。
正直偶々な気もするが、言うのは野暮ってもんだろう。それに、俺はともかくバアルさんのカッコよさに、多大な宣伝効果があるのは間違いないしな。
現にチラホラ感じているし。すでに串を持っている人からも、まだ並んでいる列からも。男女問わず熱のこもった視線を。
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